子供たちの「学力の低下」に注目が集まり、すっかり悪者扱いされてしまった感のある「総合学習」。確かに、教科の壁を取り払った「総合学習」という考え方には、少し無理があったかも知れません。長年にわたって、各教科の目標に「基礎学力の定着」という言葉が使われ、現在に至るまでその目標が十分に達成されたことがないわけですから、「総合学習」を導入する前に、各教科が真剣に取り組まなければならない課題が山積していたわけです。既存の教科の授業数を減らして「総合学習」の授業を確保しようとすれば、そのしわ寄せが基礎学力のより一層の不安定となって現れることは、簡単に予測がついたはずです。それにもかかわらず教育改革が実施された背景には、「つめ込み教育」の弊害がありました。受験競争に打ち勝つための「知識」を豊富に身につけても、それが豊かな人間形成に直結しないジレンマ。その問題を克服するために、「考える学習」を推進して「生きる力」を育み、教育の本来の姿を取り戻そうとしたのでしょう。
「つめ込み教育」からの脱却を図った「ゆとり教育」の発想自体は、決して間違っていなかったのではないでしょうか。しかしながら、職業体験を実施したり、「調べ学習」の延長として自分の意見をまとめて発表したり、またコンピューターを用いたさらに高度なプレゼンテーションを実行したりすることは、いかにも時代の最先端のように見えましたが、実際にはそのような学習を実らせるための、各教科の学習が十分ではありませんでした。文科省の方針転換で、ここ数年のうちに各教科の授業時数が改めて見直されるようですが、週あたりの授業時数を増やせば学力の低下を食い止められると考えているのであれば、それはただ単に「つめ込み教育」への逆行でしかないでしょう。
私が専門にする英語の授業を例にとってみましょう。絶対的な授業数を考えたら、公立中学校が私立中学校にかなうはずもありません。公立中学校の授業が1週間に3コマから4コマに増えたとしても、私学の1週間7コマ(うち1コマは英会話の授業)にはとても太刀打ちできません。ところが、いくら授業が多くても「文法解説・知識習得」型の授業をやっていたら、語学学習の面ではそれほど大きな効果はないでしょう。英語の場合には1コマの授業の中で、子供たちが英語を使う時間をどれだけ多く確保することができるかが重要になってきます。英会話学校の場合には、1コマ80分ないしは90分の授業の中で、少なくとも半分以上は生徒さんたちが実際に英語を口にする時間です。講師もほとんど日本語は使いませんから、週1コマ=月4コマの授業でも大きな効果があるわけです。単純計算してみましょう。公立中学校(生徒が実際に英語を使う時間25分×3=75分)>私立中学校(生徒が実際に英語を使う時間8分×6+英会話20分=68分)という場合もあり得ることになりますね。本当の意味で子供たちの学力向上を考えたなら、どの教科にも根本的な発想の転換が必要なのではないでしょうか。
国際的な学力比較で日本の子供たちの成績が思わしくなかったからと言って、また以前のような「つめ込み教育」が激化するのであれば、それは自分の子供のテストの点数が悪かったからと言って、今まで許してきたコンピューター・ゲームを全て取り上げて、勉強時間を強制的に増やすのと、あまり大差はないような気がします。「ゆとり教育」への取り組みを短絡的に否定してしまうのではなく、今後も「学習意欲」や「学習効率」の向上のための工夫を重ねる努力を続けたいものです。
英語に「馬を川まで連れて行くことはできても、無理矢理水を飲ませることはできない」という諺があります。どんなにおいしい食べ物も、満腹の胃袋に詰め込むことは苦痛ですし、食べるスピードも落ちてしまいます。でも、不思議なことに、食感の違うおいしいデザートならいくらでも食べることができますね。「食欲」と「学習意欲」は似ているのではないでしょうか。腹八分と食感の違い―学習に関してもまだまだ工夫ができそうです。
「つめ込み教育」からの脱却を図った「ゆとり教育」の発想自体は、決して間違っていなかったのではないでしょうか。しかしながら、職業体験を実施したり、「調べ学習」の延長として自分の意見をまとめて発表したり、またコンピューターを用いたさらに高度なプレゼンテーションを実行したりすることは、いかにも時代の最先端のように見えましたが、実際にはそのような学習を実らせるための、各教科の学習が十分ではありませんでした。文科省の方針転換で、ここ数年のうちに各教科の授業時数が改めて見直されるようですが、週あたりの授業時数を増やせば学力の低下を食い止められると考えているのであれば、それはただ単に「つめ込み教育」への逆行でしかないでしょう。
私が専門にする英語の授業を例にとってみましょう。絶対的な授業数を考えたら、公立中学校が私立中学校にかなうはずもありません。公立中学校の授業が1週間に3コマから4コマに増えたとしても、私学の1週間7コマ(うち1コマは英会話の授業)にはとても太刀打ちできません。ところが、いくら授業が多くても「文法解説・知識習得」型の授業をやっていたら、語学学習の面ではそれほど大きな効果はないでしょう。英語の場合には1コマの授業の中で、子供たちが英語を使う時間をどれだけ多く確保することができるかが重要になってきます。英会話学校の場合には、1コマ80分ないしは90分の授業の中で、少なくとも半分以上は生徒さんたちが実際に英語を口にする時間です。講師もほとんど日本語は使いませんから、週1コマ=月4コマの授業でも大きな効果があるわけです。単純計算してみましょう。公立中学校(生徒が実際に英語を使う時間25分×3=75分)>私立中学校(生徒が実際に英語を使う時間8分×6+英会話20分=68分)という場合もあり得ることになりますね。本当の意味で子供たちの学力向上を考えたなら、どの教科にも根本的な発想の転換が必要なのではないでしょうか。
国際的な学力比較で日本の子供たちの成績が思わしくなかったからと言って、また以前のような「つめ込み教育」が激化するのであれば、それは自分の子供のテストの点数が悪かったからと言って、今まで許してきたコンピューター・ゲームを全て取り上げて、勉強時間を強制的に増やすのと、あまり大差はないような気がします。「ゆとり教育」への取り組みを短絡的に否定してしまうのではなく、今後も「学習意欲」や「学習効率」の向上のための工夫を重ねる努力を続けたいものです。
英語に「馬を川まで連れて行くことはできても、無理矢理水を飲ませることはできない」という諺があります。どんなにおいしい食べ物も、満腹の胃袋に詰め込むことは苦痛ですし、食べるスピードも落ちてしまいます。でも、不思議なことに、食感の違うおいしいデザートならいくらでも食べることができますね。「食欲」と「学習意欲」は似ているのではないでしょうか。腹八分と食感の違い―学習に関してもまだまだ工夫ができそうです。
石山 等(いしやま ひとし)
横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。
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