2007.11.04
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エンターテイナーとツール

株式会社内田洋行 教育総合研究所 梅香家 絢子

前回に引き続き「普通教室の情報化」のお話をもう1つ。

* * *

その日もガイドブックの撮影である小学校の授業にお邪魔していました。

5年生の理科の授業。
チャイムと同時に子どもたちが(本当に)元気よく教室に飛び込んできます。そして席について落ち着いたのを見計らって先生が取り出したのはなんとメトロノーム。
理科の授業でなぜメトロノーム?と私は疑問に思うばかりです。
先生が言いました。
「これから3つのリズムを聴いてもらうよ。」
続けて、
「目を閉じて聴いてくださいね。そしてどれが一番心地いいか考えてください。」
シーンとした教室にメトロノームの音が響きます。最初はゆ~~っくり。次はゆっくり。最後は「カチッカチッ」と心持ち早め。
結果は分かれました(撮影陣の大人も含めて)。「ゆっくり」が少し多かったように思います。
ここで先生が種明かし。
「実は2番目の音が一般的な人の心臓の鼓動の早さと同じくらいなんです。みんながお母さんのお腹の中にいた時、お母さんの心臓の音を聴いているでしょう。だから2番目の音の速さを心地いいと感じる人が多いそうですよ。」とのこと。
もう一度2番目の音を聴き直して「懐かしく感じる?」という先生の質問に「ん~…」と子どもたち…。
「実感が湧かないでしょう(笑)。実はみんながお腹の中にいる頃の映像があるんだよ。」
「え~!?」

そこで次に先生が見せてくれたのが“胎児の映像”でした。

* * *

パソコンを取り出しあらかじめ保存してあった映像を再生します。
「動いてる!動いてる!」
「この赤ちゃんのいる部屋は何ていうのかな?」
「子宮~!」
「じゃあ頭がどこにあるかわかる?」
最初はぼやっとした白黒の映像でした。でも先生がペンでなぞると、子宮の形やその中にいる三頭身の赤ちゃんがはっきりと浮かび上がってきます。
さらに映像から流れてくるお母さんの心臓の音。
先生があらためてメトロノームを鳴らしてみせます。
「あ~、一緒だぁ」
確かに2番目のリズムに似た鼓動でした。

* * *

とても楽しい授業でした。どんどん惹きつけられていきます。
そして感じました。先生ってエンターテイナーだなぁ…、と。

そしてそれを支えているのが“授業で使えるツール”でした。
ここではICT(胎児の映像ですね)もその1つとしてしっかり位置付いています。
先生にとってはメトロノームもパソコンを使った映像も一緒。
「人間の誕生」を伝えるための1つのツールでしかないんです。

ICTを活用した授業で時々見かけるのは、45分間ICTを使わなければ!といったプレッシャーになってしまいがちな先生です。
一方で基本となるのはやはり、「伝えたい授業」があって、そのためにICTがどう使えるのか、ということ。
使えるところだけで使う。使えないのであればその時間は一切使わない、という判断も当然あるんだと思います。

こんな風にもっと多くの先生に“授業で使えるツール”としてICTを身近に感じていただきたいですね。
File1.JPG

梅香家 絢子(うめがえ あやこ)

株式会社内田洋行 教育総合研究所
「開かれた学校づくり」の言葉に惹かれてこの道に。今は仕事を通して、全国の教育現場で実践されている様々な取り組みに驚き、学ぶと同時に、“企業の立場からできること”も学びながら活動する日々です。

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