2007.10.24
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報道機関は子供に何を伝え、教師は子供に何を伝えるべきか… ~最近のスポーツ報道から考えたこと~

宮崎県えびの市立加久藤中学校 教諭 山下 豪一

 数日前の朝、プロボクシングの亀田選手ニュースを見て、驚きました。それまでの報道と、試合に負けてからの報道の変化の大きさについては、読者の皆様も異論はないと思います。
 亀田選手を追い続けてきたテレビ局をはじめ多くの報道メディアは、破天荒な亀田青年に対し、どこか好意的と思われるほど、肯定的に捕らえていたと思います。ところが、先の世界タイトル戦に負けた後の報道は,否定的な論調に満ち溢れていました。
 私は、試合後の謝罪会見での亀田大毅選手が打ちひしがれた姿が目に焼きついて,その後も頭から離れませんでした。私には、彼が生きてきた十八年間で身につけた価値観・人生観が粉々に打ち砕かれ、とてつもない精神的なショックを受けた青年に見えたからです。
 長くなりますので詳細は省きますが、私も教師になる前に会社勤めをしていたとき、自分が未熟な価値観・人生観を持っていたがゆえに挫折し、仕事が手につかなくなるほどのショックを受けた経験があります。その当時を知る、ある友人は、「まるで“うつ病”になったかのよう。何を言ってもうつむいて答えないし、魂が抜けた人間とはこんな状態を言うのだろうと思った。本当に心配した。」と言っていました。立場や、置かれた状況は違うものの、そのときの自分の姿に重なって見えたのです。
 謝罪会見翌日の報道メディアは、「うつむいたままで、謝罪の言葉もなく、2分で退席。反省の色がうかがえない。」と、大毅選手に批判的な論調でした。私は、自分の体験から、あのときの彼を次のように捉えました。
 18年間で培われた自分の人生観、“強ければそれでよい。強ければ多少のことは許される。”は、間違ってはいないはずだ。今までの試合で勝ってきたし、破天荒な振る舞いも許されてきた。報道メディアが自分を取材し、批判的な報道もなかったから、間違っていないはずだ。しかし、今回負けたら世の中みんなが批判してきた。なぜこうも手のひらを返したように、変わったのか。自分の考え方が間違っていたのか。

 自分の考え方が全面否定され,何が正しいか混乱し,考えようとするが,考えられない…そういったショックを受けた状態が、あの会見での大毅選手の姿だったのだと思います。彼は、まだ18歳です。精神的に揺れ動く青年が体験した、“自分の人生観・価値観の否定”は、おそらく彼自身の存在を日本中から否定されたように大きかったのではないでしょうか。

 そんな彼を批判し続ける報道メディアの姿勢を,私は疑問に思います。今は混乱しているでしょうが,つらい経験ではあっても,生き方を学ぶチャンスを得ることができた。今は静観し,彼に人生を考えるチャンスを与えるべきだと思います。
 彼の生き方は、批判されるべきものがあったことも事実です。しかし、それは、彼が世界タイトル戦に負ける前に報道されるべきものだと思います。

 私は、亀田父子の報道を子供たちがどのように受け止めたのかが心配です。世界タイトル戦以前の報道なら、子供たちが、“強ければ、破天荒な振る舞いも許される。”という価値観を持ったのではないでしょうか。こういった報道メディアの影響力の大きさを、報道機関の方々に認識していただきたいと思いました。

 では、教員である私は、亀田父子のことについて何を子供たちに伝えていくべきなのでしょうか。なかなか深い問題なので難しいのですが、次の3つを実践したいと考えています。

(1)報道メディアからの情報の受け取り方を教えていく
 「こういう見方もありうる。」ことを,理由も含め子供たちに示していく。そのためには,多くの情報メディアに日ごろから目を通しておく。
(2)人の立場をよりよく理解できる人間になる
 正しいかどうかは別問題として、今回の報道に対し、疑問をもてた要因は、似たような経験をしていたからこそ。さまざまな人生経験をつむことが大切である。しかし,多くの人生経験をつむことは,一個人では限界がある。多くの人の人生経験談を聞くこと、また、小説を読むことで補っていく。
(3)世の人に胸を張れる生活を送り,父親として自分の子供によき人生モデルを示す
 亀田選手の言動に,父親の影響が強いことは,父親の言動を見れば明らかです。私のあり方が,子供の人格形成に好影響を与えるよう,恥ずかしくない言動をする。

 今回,亀田選手に関する私の思いを書いてみました。皆さんならこの件に関して,どのようなことを子供に伝えたいと思いますか?

山下 豪一(やました ひでかず)

宮崎県えびの市立加久藤中学校 教諭
山下豪一(ひでかず)と申します。鹿児島,熊本両県に接する宮崎県西部のえびの市で、社会科を担当しております。校務のIT化に興味を持つ教員です。

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