2007.11.28
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学校に必要な、いい意味での「管理」

横浜市立中田中学校 英語科 教諭   石山 等

 私が教員になった1980年代初頭は、校内暴力の全盛期でした。私の勤めた2校目の中学校は、市内で最も荒れていた学校で、その状況を建て直すのに、様々な試みが実行に移されました。当時の学校再建策には大きく二つの方向がありました。一つは子供たちの個性を尊重して学校を活性化させる方向。そしてもう一つが、子供たちの甘えを許さずに綱紀粛正を計る方向です。私の学校は後者を選択しました。ところが、社会はそのような取り組みを管理教育の行きすぎだと批判した。マスコミは興味本位に私たちの学校の「管理教育」を取り上げたものです。結果的に学校は立ち直りましたが、あれが正しい方法だったのかどうかは、未だに誰にもわかりません。

 それ以後、「管理」という言葉は、教育の世界ではずっと悪者扱いされてきたように思います。広辞苑で「管理」を引くと、「良い状態を保つように処置すること」とあります。つまり、「管理」の本来の意味は「自由を束縛すること」ではないわけです。実際、今の学校には本当の意味での管理が不足しているように思います。

 ある女性教師が、クラス経営で暗礁に乗り上げていました。学校の教師は、自分のクラスの不始末を、あまり職員室で語ろうとはしません。それは、自分の能力不足をさらけ出すことになるからです。ある日、私は放課後の彼女の教室を訪ねてみました。壁の掲示物は破れているし、教卓の上にもものが散乱している。生徒の机はばらばらだし、置かれた観葉植物も枯れかかっている。教室の後ろで飼育されていたセキセイインコは、ほとんど愛情をかけられている様子がない。クラスの乱雑な様子は、彼女の整理できない心の中を象徴しているように思えました。

 本来ならば、管理職が放課後の教室を見回るべきだと思います。学年主任でもいい。教室の戸締まりを見回るのではなく、教室環境から担任やクラスの心の内を探るのです。そして何か異変に気づいたなら、すぐに何らかのフォローをすべきでしょう。直接的な言葉は担任のプライドを傷つけてしまうかも知れませんから、何気ない一言でいい。先輩が自分のことを気遣ってくれていると知るだけでも、担任にとっては大きな勇気になるからです。

 校舎内を歩いていると、あちこちの悪戯描きにも気づきます。悪戯描きは子供たちの心理状態をよく物語っている。子供たちの心が穏やかでなければ、悪意のこもった悪戯描きが増えていくはずです。そして、そのことをしっかり把握した上で、職員が協力して校内美化に努めればいい。汚れた校舎は子供たちの心をますます荒廃させるだけだからです。それに、壁の汚れを落とす作業は、不思議と自分の心の洗濯にもなるものです。

 掃除用具入れや体育倉庫の中を見ても、その学校の生徒たちの心理状態をつかむことができます。でも、もしかしたらそれは、「子供たちの心理状態」であると同時に「職員の心理状態」なのかも知れませんね。職員が疲れていれば、環境の整備にまでなかなか気が回らなくなるものです。

 生徒たちのノートチェックも大切な管理の一つでしょう。私は英語の教師でしたが、プリント学習を徹底して、定期的にノートを点検していました。200冊のノートに目を通すのは大変な作業でしたが、それは同時に子供たちの学習の様子を知る貴重な作業でもありました。中には、ノートに質問や授業の感想を書いてきてくれる生徒もいますから、めくら判を押しておしまいという訳にはいきません。もちろん、過度なチェックは自主性を損ねることにもなりかねませんから、そこには慎重な配慮が必要ですが。

 管理をしないと言えば聞こえはいいかも知れませんが、それは実際には仕事の手抜きでしかありません。職員や生徒の言動を規制するという意味での悪い「管理主義」ではなく、何か異常がないかどうかを確かめ、環境の変化から職員や生徒の心の状態を感知するという、いい意味での管理は徹底すべきでしょう。そして、悩める同僚(部下)や生徒に気づいたら、さりげない援助の手をさしのべられる環境を作っておきたいものです。重い病気も早期発見で完治するように、人が直面する問題も、早期発見で打開の糸口が発見しやすくなるのではないでしょうか。


 写真:せっかく作ったビオトープも毎日点検が必要です
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石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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