2007.10.31
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プラスの暗示とマイナスの暗示

横浜市立中田中学校 英語科 教諭   石山 等

 25年前に公立中学校教員に採用されて受けた最初の研修では、「ピグマリオン効果」がテーマになりました。「ピグマリオン効果」とは、暗示を受けた教師が指導することで、特定の子供たちの成績が向上するというもの。その研修会では、30センチほどの長さの糸の先に5円玉をつるして、自分が心の中で特定の方向に動くように強く念じる実験をしました。実験は見事に成功して、研修会に参加した私たちは驚嘆の声を上げたものです。もちろん、それにはからくりがありました。素直に心に念じることで、指先に微妙な力が加わり、無意識のうちに糸を操っていたのです。
 
 それ以来、私は「暗示」の効果に強い興味を抱くことになります。暗示効果を目の当たりにした一番の例は、私が顧問をしていたソフトボール部の活動の中にありました。鬼監督で有名だった私は、弱気でバッターボックスに入ってバットも振らずに追い込まれてしまう選手を、よく怒鳴りとばしていました。「相手のピッチャーに気持ちで負けているから打てないんだ!」ところが、多くの場合、選手たちは私の怒鳴り声を聞いて余計に緊張してしまい、いい結果にはつながりません。それもそのはずです。私は「打てない」というマイナスの暗示を与え続けていたことになるからです。
 
 あるとき、チームでも運動神経が最も鈍いと誰もが認めていたF子が、とんでもない高めのボール球に手を出して空振りをしました。私はF子が積極的にバットを振るだけでも褒めてあげなければと思い、申し訳なさそうにベンチの私を振り返ったF子に大きな声をかけました。「今のはいい振りだったぞ!ボールをよく見れば、次は必ず打てるからな!」F子は力強くうなずいて、次の投球を待ちました。そして、本当にヒットを打ってしまったのです。そんな話は偶然ではないのかと思われるかも知れませんが、監督である私のひと言が、数々の奇跡を生み出したのは事実でした。普段は怒鳴りとばしてばかりいる鬼監督の私が、たまに力強い励ましの言葉を口にするから暗示効果も大きかったのかも知れません。
 
 「暗示効果」などと言うと、まるで子供たちには本当の力がないかのように聞こえがちですが、そうではないのです。暗示が子供たちの秘められた実力を引き出すという言い方が正しいと思います。ただし、根拠のない励ましの言葉は大きな効果を持ちませんから、褒めてあげられるような場面を作り出す必要があります。例えば30本ノックをしても上手に捕球できない選手なら、100本ノックして、そのうち好捕した1本を褒めるのです。本当に上手に捕球できたのですから、本人も「自分にもやればできる」という自信になります。もちろんその「たった1本」を体験させるまでは、気の長い道のりなのですが。
 
 考えてみれば、私たちは普段子供たちにマイナスの暗示を与えている場面が多くないでしょうか。「だから、ダメなんだ」「そんなことでは立派な人間にはなれない」もちろん、前述したようにやたらと褒めればいいというものではないのですが、プラスの暗示効果をもっと真剣に考えてみてもいいと思うのです。「君のプレゼンは実に素晴らしかったね」人を使うのが上手な上司は、そういう言葉が自然と口から飛び出しますね。
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石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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