2007.09.09
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楽しくなけりゃニホンゴじゃない

京都外国語大学 非常勤講師 森 美抄子

 今回は初級日本語クラスで盛り上がるゲームを三つご紹介しましょう。大切なわたしの持ちネタを披露するわけですから、ぜひ、いろいろ応用してくださいね。

 一つ目は「買い物ゲーム」。このゲームは身近な物の名前を確認したり、数字の読み方を練習したりするものです。入門期向け。

準備としては、チラシなどを切り抜いて、トランプ大の厚紙に貼ります。商品の写真と値段がはっきりわかるようになっていることが肝心です。写真は学生のレベルに合わせて選びます。「野菜」「ハンバーガー」「ビール」などの食品から、「電子辞書」「コンピュータ」「車」など高額なものまで用意します。

(1)学生を二つのグループに分ける。
(2)一つを販売員、一つを消費者に設定する。
(3)消費者に「買い物リスト」を渡す。この商品を買うことを説明する。
(4)販売員にはカードを4,5枚ずつ配る。カードは消費者に見せないことを説明する。
(5)消費者はリストを見て、買い物をする。(値段が正しく聞き取れたらカードを受け取る)
(6)買い物が全員終わったら役割を交代する。

買い物リストは教師が作成しておきます。単純に、品物の名前を書き、値段のところを空欄にしておくだけです。だいたい一人4,5品がベストです。ここで使われる表現は「すみません、○○、ありますか」「はい、あります」「いいえ、ありません」「いくらですか」「○○円です」「○○円ですね?」「じゃ、それお願いします」「ありがとうございました」程度です。

 全員が同時に発話しますので、教師はぐるぐる回ってサポートするのに大変ですが、結構にぎやかにやっています。調子のいい学生は「いらっしゃいませー」と呼び込みまでしています。笑顔たっぷりの応対で、気持ちいいです。ただ、値段が高額になればなるほど話すのも聞くのも難しいため、学生のレベルをよく見る必要がありますが。

 二つ目は「宝探し」です。予算は1000円ぐらい・・・。このゲームは教室内ではできませんが、屋内でできます。ちょっと騒がしくなることもあるので、他の授業の妨げにならないよう配慮が必要。これは初級前半向けです。

(1)教師が番号の書いた紙を封筒に入れ、それを学生に渡す。
(2)学生はそれを隠しに行く。
(3)隠しに行った学生は、どこに隠したかを日本語の文で黒板に書く。
(4)学生は他の人が書いた黒板の文を読んで、宝を探しに行く。

 手順は簡単です。まず、教師が「例」を隠しておきます。そして黒板に「教室を出ます。右に行きます。前にソファーがあります。左から二つ目のソファーの後ろを見ます。」というような文を書きます。そして、それをみんなで探しに行かせます。 取って来た学生から封筒を受け取り、中を開けます。中から「おめでとう! あたり 3番」と書いた紙を取り出して、3番の札をつけた賞品を見せます(これは結構いいものにしておく)。

 がぜんやる気を出す若い学生たち。一斉に宝を隠しに行ってもらい、帰ってきた学生から黒板に場所を書く。書き終わった学生は他の好きな文を解読し、宝探しに出かけます。
早い学生はつぎつぎと取って来ますが、文を書くのに時間がかかってしまうと、出遅れます。だけど、そこは大人。全員がひとつは取れるように、手伝ってあげたりしています。

 人数が多い場合は「ざんねん! はずれ」という紙も用意します。賞品はスーパーなどで購入したひとつ100円以内のもの。納豆、青汁、ふりかけ、おせんべい、つまようじなど、あまり彼らが普段買わないようなものを選びますが、リアクションで盛り上がることを想定しながらの品選びがポイント。(秘密ですが、家にある不用品を処分するのにも使えます)

 三つ目。「ニッポンクイズ」あるいは「プライベートクイズ」。初級の後半ぐらいにかかると、だいぶ楽しめます。初級中盤ぐらいから。

 すべて三択問題です。B4かA3サイズの紙に三択の答えだけを記入しておきます。学生には三枚の紙と割り箸を配り、1・2・3 の札を作ってもらいます。出題は口頭で行い、学生は答えを見て、番号の札を挙げます。正解者には手の甲などに小さなシールを貼っていきます。最後に一番シールが多い者が優勝です。

 さて、クイズですが、最初は知識のある人がわかるようなクイズです。「国際電話の日本の番号は何番でしょう」というような内容ですが、だんだん常識ではどうにもならなくなるようなクイズにしていきます。例えば「○年前、トム・クルーズが京都に来たとき、泊まった旅館の名前は」というようなもの。

 このクイズの狙いは、知識を確認することではありません。聴き取り練習です。教師は学生のレベルに合わせて、質問表現を調整します。先の例題でいえば、複文や連体修飾あたりがきちんとできていれば答えられますが、そうでない場合は「みなさん、トム・クルーズさんを知っていますか」「トム・クルーズさんは京都へ来ました」「日本の部屋のホテルで寝ました」「そのホテルの名前は何ですか」というふうに、分割して話します。これだとかなりレベルが下のクラスでもできます。

 「プライベートクイズ」はほかの先生にも協力してもらって、問題文を作成します。例えば「○○先生はめがねが好きです。ときどきめがねを変えていますよね? では、全部でいくつ持っているでしょう。」というようなもの。そのあと、学生一人一人に問題文を考えてもらいます。「わたしのうちの車の色は」「小さいときに飼っていた犬は」というような、その人しか知りえないような内容のもの。でも、どちらかといえば問題よりも、問題文を作るということが重要な作業。楽しんで文作(作文)することに意味があると思っています。

 とにかく、このようなクイズには、みんな「当てもん」気分で参加します。その気楽さが楽しいんですね。優勝した学生にはチョコレートなどお菓子のちょっと大きめの箱をプレゼントします。すると、その場で開けて、みんなで食べよう、ってことになるんですね。優しいなあ。もちろん、わたしにも分けてくれますので、遠慮なくいただきますよ。

 楽しく学べるように。これをいつも心がけて教室に入っています。わたしが日本語を教え始めたころ、学生から言われた「楽しくなければ日本語(クラス)じゃない」ということばがずっと心に残っていて。
 
 あ、だからといって、私の授業が毎回ゲームだというわけではありません。念のため。

森 美抄子(もり みさこ)

京都外国語大学 非常勤講師
留学生たちに日本語を教えるのが仕事です。そして、日本語教育を学んでいる学生たちにその面白さと厳しさを伝えていくのも仕事です。人間だって宇宙人、日本語だって外国語。

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