2007.07.29
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さようなら 愛しの人

京都外国語大学 非常勤講師 森 美抄子

 多くの交換留学生にとっては夏もまた別れの季節です。先日も半期あるいは一年(九月来日)で帰国することが決まっている学生たちが、さまざまな思いを胸に、「さようなら」と「ありがとう」を言いに来てくれました。たとえ週に一度しか会えない学生でも、そこそこ濃いつきあいがあるもので、こちらも寂しい気持ちでいっぱいになります。

 そのお別れの前に、学生たちはテスト責め、レポート責めにあいます。学期末ですからね。前後二週間ぐらいはげっそりしています。それに週末には個人的なパーティーや小旅行などが入ったりするので、大忙しです。このようにお疲れの中、彼らは最後のプレゼンテーションやスピーチのための準備をしなければなりません。日本留学(の一学期)の集大成として学習の成果を披露してもらおうという企画があるからです。日本語教育を行っている多くの教育機関でもこのようなプレゼンテーションは実施されているようです。

 プレゼンテーションは、主に自分が興味・関心を持っていることについて発表するわけですが、彼らの情報収集力はなかなか大したものです。インターネットで資料を集めたり、日本人にインタビューやアンケートをしたりしてデータを取ってきます。私たち教師は彼らが書いた原稿を、聞き手が理解できる日本語にすることと、集中して聞ける工夫を手伝うだけです。
 
 テーマも実にバラエティに富んでいます。「自分の国」「着物」「芸者」といったオーソドックスなものもありますが、アニメ・漫画、ゲームの話題も多いです。自分の国で日本のアニメがどのように扱われているかというような内容のものは興味深かったです。自分の趣味を発表する場合もありますが、武道や尺八などの実演つきというのも経験しました。重いテーマでは「靖国問題」や「死刑制度」についてというのもあり、意見を求められるとちょっと困るな・・・ということも。このほか「パチンコ依存症」「ゴスロリファッション」「性同一性障害」「長男の苦悩」などなど、おもしろいところに目をつけたものがたくさんあります。

 2年前の初級クラスのある学生は熱烈な「ラブレター」を発表してくれました。原文そのままではありませんが、どんなものだったか紹介しましょう。

 わたしは あなたが 大好きです。

 わたしは いつも どこでも 
 あなたの声を聞いています。
 いつも どこでも あなたを 見ています。

 わたしが 楽しいとき 
 あなたは いつも いっしょに います。
 悲しいときも いつも いっしょに います。

 でも あなたは わたしの手を にぎることも
 だきしめることも しません。
  
 それでも わたしは あなたが 大好きです。

 ああ、愛しいあなた
 わたしの 愛する人
 
 名前は 日本語

森 美抄子(もり みさこ)

京都外国語大学 非常勤講師
留学生たちに日本語を教えるのが仕事です。そして、日本語教育を学んでいる学生たちにその面白さと厳しさを伝えていくのも仕事です。人間だって宇宙人、日本語だって外国語。

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