2007.07.31
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「弱み」を「強み」に変えて見る

株式会社アットマーク・ラーニング内 コーチングアカデミー 佐々木 宏

高校に呼ばれて進路講演を頼まれることがある。そのときのわたしのメッセージはいつも一貫している。「高校時代にたった一つでもいいから、自分の価値観や強みが語れる“物語”をつくろうね。物語を持っている生徒は、進学にせよ、就職にせよ、強力な強みとなるからね」と。
以前までは、強みを書かせる演習までやっていた。ところが、あるとき講演をした高校の生徒が、講演後先生に「俺、強みかけなかったよ。やっぱ俺ってだめジャン」と、自己肯定感をさらに下げてしまったという後日談を聞いた。今はその教訓を活かし、弱みも逆から見ると、強みになることを伝えている。
先日の講演では、次のようなことが起きた。一人の女生徒を指名し、

「自分の強みを表現する物語をつくるとして、まず君の強みはなに?」」
と聞くと、頬杖をついたままその生徒は

「・・・ない」
と弱々しく答えた。

「では、嫌いなところや改善したい点は?」
と聞くと、しばらく考えた末、

「わたし、頭おかしいから」と。
わたしは間髪入れず、

「頭おかしいってことは、面接用語に転換すれば、“人と変わっている”ということ。これ、最大のほめ言葉だよ。で、なぜ君は自分で“頭がおかしい”って思うわけ?」
これはかなり繊細な質問だったが、彼女の様子からして、答えられそうだと判断した。彼女は、その質問にこう答えた。

「わたし、人が汚いと思うことでも、汚いと思わないんですよ」
「なるほど。そういうところが、自分は人と違うと思っているんだね」
意外な答えだった。この特徴が、彼女のキャリア形成にどう役立つか、シミュレーションしてみた。

「じゃあ、もしなんにでもなれるとしたら、どんな仕事がしたい?」
「介護かな」
と答えた。「ビンゴ!」わたしは心の中で叫び、彼女には次のように語った。

「介護の仕事に就きたいと思う人は、“人の役に立ちたい”“おじいさん、おばあさんの笑顔が見たい”などと、美辞麗句を並べるんだ。でも、実際に汚物の処理をするときには、顔をゆがめながらやってるんだよ。君はそんなときにも、笑顔で処理できる。そうだろ?僕が介護の会社の社長だったら、絶対に君みたいな人を採るよ。」
彼女は、わたしの言葉を聞いた後、背筋を伸ばし、

「ありがとうございます!」
と言った。その声は大きなものではなかったが、腹のそこから出ていたことが見て取れた。

弱点を逆のほうから見て承認することで、生徒の心に変化が起きる。そう確信した瞬間だった。

佐々木 宏(ささき ひろし)

株式会社アットマーク・ラーニング内 コーチングアカデミー
通信制高等学校の生徒をコーチする傍ら、そこで得た知識や経験を元に、教育業界にコーチングを普及させるため、東奔西走中! 共に研究してくれる仲間を募集しています!

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