2007.07.09
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川の流れのままに

横浜市立みなと総合高等学校 有馬 真由美

「きゃ~、先生、顔には水かけないでよ」
「ははは、眉毛消えちゃうから?それともパンダ目になる?」
「ひっど~い、そんな厚化粧じゃないでしょ」
「あっそ、じゃあもっとかけちゃおう」
「!!!!!!!」

 北海道は羊蹄山の裾野を流れる尻別川で、生徒と一緒にラフティング体験をしてきた。オールの扱いに慣れ、余裕が出てくると、ただ漕いでいるだけではつまらない。まもなく、インストラクターの指導のもと?オールを水面に叩きつけて、水のかけっこが始まった。今時の高校生にたがわず、アイラインとマスカラ命の彼女たちにとっては、清流の冷たさより化粧崩れの方が気になるらしい。しかし容赦なく水をかけられてあきらめがついたのか、しばらくすると互いに手をつないでボートの端に立ち上がってみたり、わざとバランスを崩して飛び込んでみたりと戯れていた。川下のゴール地点に着くころには、ウェットスーツの中までびっしょり塗れていた。かくいう私も生徒に負けず劣らず、ずぶぬれだった。

 先日、3年生の研修旅行の引率で北海道を訪れた。札幌を皮切りに、小樽、ニセコ、函館をめぐる4泊5日の旅だ。ちなみに、みなと総合では修学旅行のことを研修旅行と呼んでいる。研修という名にふわさしく、生徒はあらかじめガイドブックや資料をあたって行動ルートを考え、自主活動の内容を決めていく。また、今回は初めての試みとして、沖縄と北海道の2方面で同時に旅行が実施された。生徒の自主行動計画を尊重しながら安全な旅を実現するために、年次職員は生徒と共に1年以上かけて準備を進めてきた。無事に終わってあたりまえとはいえ、今はホッとするばかりだが、実現するまでの道のりは長かった。マニュアル化され、パッケージ化された旅に慣れた生徒は、いざ自由に決めなさいと言われても戸惑うようだ。提出されてきた計画案を見ると、かなり似通っていたり、活動内容が乏しかったりするものもあった。実際に、現地では時間を持てあまして早々にホテルにチェックインするグループもいた。団体で動いた方が遥かに効率的なのだが、一見すると無駄な動きや読み違いや、想定外の出来事を体験する事が大切な気がする。お土産で膨れたバッグを運び疲れてしまったこと。気合を入れて新調したミュールが足になじまず、靴擦れができて難儀したこと。予期せぬささいな出来事の積み重ねが、紙上の計画に彩りを添え、立体的な現実として生徒を包んでいくのだ。

「先生、よく馴染んでますねぇ……違和感ありませんよ」
生徒以上に張り切って水掛けっこに興ずる私を見て、担当インストラクターさんが苦笑しながら褒めてくださった。こうして清流でのラフティングを満喫した私だが、ゴール地点でふと気づいたことがある。その場にはみなと総合だけでなく、関西方面からの修学旅行生の団体もいた。希望者だけの小集団の我々と違い、あちらはかなりの大所帯である。ゴール地点では、引率の先生方がスーツ姿で、カメラをかまえて生徒を迎えていた。頭から雫をたらし、生徒と一緒にゴムボートにへばりついているわが姿との何たる違い。でも考えようによっては、生徒と一緒に自然の中で時間を共有する機会を得た私は、とてつもなくラッキーなのではないか。懐の深い学校に感謝。

 さて、祭りの後に私を待ち構えていたのは、じめじめした梅雨と、受験生の担任という現実だった。三者面談を控えて、すがすがしい道北の空を思いだしながら、ため息をつく日々がしばらく続きそうだ。

写真1:羊蹄山を臨む牧場で、アイスクリーム作りを体験。
写真2:旅行期間中は文句のつけようもない晴天。函館にて。
写真3:新五稜郭タワーからの絶景。
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有馬 真由美(ありま まゆみ)

横浜市立みなと総合高等学校
民間企業から教育現場に飛び込んで3年目。3年の担任として緊張の春です。中華街そばの地の利を生かし、お茶の間国際交流を生徒と一緒に取り組んでいます。

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