2007.06.06
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生徒諸君!言葉遣いに気をつけよう!

宮崎県えびの市立加久藤中学校 教諭 山下 豪一

「先生,この文章どう思います?」

 勤務時間が過ぎた放課後,いつも元気でがんばっている若手女性教諭,O先生が浮かない顔で,生徒の書いた原稿を持ってきました。
 2学年は,7月の修学旅行に向けて「総合的な学習の時間」を使い,訪問先の長崎市について平和学習をおこなっています。今は,修学旅行に向け,長崎や先の大戦についてしらべ,それについてレポートをまとめ,発表会の準備をしています。

 O先生が気にかかったのは,A君の発表資料の最後に書いてあった「日本国万歳!」という部分。
 私は直感的に,“これはいかん!”と感じました。A君は,何か右よりのことに感化されたのか。O先生も,同じことを感じて私に相談してきたというわけです。

 ともかく,資料の「日本国万歳!」の一文から目を離し,A君の資料全文を読んでみました。

 彼の文章は…
「日本は先の大戦で多くの人がなくなった,長崎では原爆により一瞬にして十数万人の人々が死傷した…。でも日本にとって,このことは良かったと思う。
戦争に負けたから,今の日本があるのです。
日本人はすごい。”日本国万歳!”」

「戦争で多くの人がなくなり,原爆で十数万人の人々が死傷した。……… 日本にとって,良かった。…。」と読んだ一瞬,眉をしかめました。しかし,“ここは落ち着いて”と自分を静めつつ,日ごろのA君のことを思い浮かべました。

 日ごろのA君は,授業でも活発に発言し,なかなかしっかりした行動をとる,どちらかといえば優等生。これまでも,めだった問題を起こしたこともありません。これはおかしいな,もっと彼の文を読み直し,また彼に直接話を聞いて,確認しようということになりました。

 A君らが作業をしている,理科室に向かい,話を聞いてみました。「A君,学習をとおして,どんなことがわかったのかな?そして,どんなことを感じたのかな?どういうことが言いたかったのかな?…」

 A君と話していくうちに,彼が言いたいことがわかった。
「戦争で多くの犠牲者が出た。それは,大変なことで,大変悲しい。長崎の人は,特に大変であったと思う。しかし,長崎の人を含め,日本人は,戦争の被害から立派に立ち直り,世界に誇る経済大国になり,しかも,他国と戦争をしない平和な国家を築き上げた。そんな日本人は,すばらしいと思った。」

 これを聞いて,私とO教諭もほっとしました。

 しかし,言葉が足りずに「戦争の教訓を生かした日本人のすばらしさ」といった本来伝えたかったことが,誤解されてしまう。これが,公表されたら,A君の意図は理解されず彼が傷つくことになってしまう。
 生徒が発表するものに対して,必ず教師が目を通し,しっかり指導することの大切さを再認識した出来事でした。

 結局この日の放課後は,午後6時半までA君たちの文章の作り直しに付き合い,明日の授業準備とテストの採点はできず,仕事を家に持ち帰ることになりました。

 次の朝,仕事で遅くなり睡眠不足の目をこすっていると,O教諭が,今朝のA君との会話の内容を教えてくれました。
「山下先生,A君が私に,“山下先生は,命の恩人です。発表原稿があのままだったら,げんねところじゃった。(標準語訳:恥をかくところでした。げんね=はずかいしい という方言 )”といっていましたよ。

「おいおい,A君。“命の恩人”とは,不適切な言葉遣いだよ。」と,本人に突っ込みを入れたいところでしたが,うれしかったのでやめておきました。

 いつしか,眠気が,そして昨夜の疲れを忘れてしまいました。

山下 豪一(やました ひでかず)

宮崎県えびの市立加久藤中学校 教諭
山下豪一(ひでかず)と申します。鹿児島,熊本両県に接する宮崎県西部のえびの市で、社会科を担当しております。校務のIT化に興味を持つ教員です。

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