2007.06.18
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先人に学ぶいのちの教育 フナの解剖

埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校 教諭 北川 誠

 小学校六年生の理科の学習単元に「体のつくりと働き」がある。そのまとめとして「生きた魚の解剖実験」が選択実験として用意されているのだが、最近は「生命尊重」の観点から学校によっては行わないことも多々あるようである。

 兵庫県豊岡市出身の小学校教師として村を育てる教育の実践を行い、後年ペスタロッチ賞、平和文化賞、小砂丘忠義賞、文部省教育功労賞受賞した東井 義雄先生が著した『母のいのち 子のいのち』という著書を学生時代読んだことがある。今となっては手に入らない本かもしれないが、その中に「フナの解剖」という一章があったのを思い出した。

 理科の時間に、生きたフナを解剖することになった。担任の先生は普段から子どもたちに、いのちの尊さについて話をしていたので生きたフナに子どもたちがメスを入れることを思うと、その日はすっかり気が滅入っていたそうだ。ところが実際に解剖が始まると、どの班からも「フナさん、ごめんよ」というつぶやきが聞こえてきた。

 解剖が終わってから子供たちは作文を書いたのだが、いずれも素晴らしい文章だったという。ある一人の生徒の作文には、こう書き記されていた。

「人間の中には自殺したりする人がいますが、フナはどこまでも生きようとしていました。その命をぼくたちはうばってしまったのです。フナの代わりにも、ぼくが生きていることをねうちのあるものにしなければと思いました」(原文のママ)

 人生の断崖絶壁の上に立っていたどこかの大臣に、聞かせたいような話である。まさにこの児童が作文に書いた内容こそ、「いのちの尊さ」そのものである。前回私はこのコラムで子どもたちの中にいのちについて軽視する傾向があるのではという心配を書いたが、逆説的ではあるがこのような方法で「いのち」について深く考えさせることができることを知ったのである。
      (写真は本校で行った解剖実験の様子である。)
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北川 誠(きたがわ まこと)

埼玉県朝霞市立朝霞第十小学校 教諭
「駄洒落」を立派な日本の文化・言葉の見立てと考え、子どもたちからは「先生 寒~い」と言われてもめげず連発してます。モットーは「花には水を人にはユーモアを」。

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