2007.04.22
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もぐり

京都外国語大学 非常勤講師 森 美抄子

 留学生を教えていると、ときたま、受講資格を持たない人が教室に紛れ込んでいる場合があります。
 過去にも、学生の家族や知り合いなどで、日本語を勉強したいと思っている人が、安易な考えで入ってきているケースがありました。でも、その動機は純粋に、安くていい日本語の授業を受けたい、という気持ちからです。
 ところが、今回経験した「もぐり」はちょっと違っていました。

 クラスが始まったばかりの週は、必須授業ではない限りいろんな学生が来ます。日本語教育の現場では、その必須クラスでもレベル別になっているので、上へ行ったり下へ降りたりしてみて、その学生に一番合うクラスを決めることになるため、学生の移動があります。

 その日は一人か二人、下のクラスから上がってくるということを聞いていたので、仮名簿に名前がない学生がいても気にしないでいました。

 普段どおりに授業を進め、Q&Aをしたり質問を受けて答えたりしていました。名前がわからない学生に漢字テストをさせたら、皆よりできません。
 「そりゃそうだな、予習しないでテストしてるわけだし」と流していました。名前を見るとウィリアムと書いてありました。顔だけで判断するとアジア系だったのですが、アジア系の欧米人も珍しくありませんので、気にもとめませんでした。

 授業中、「質問ありませんか」と聞いたとき、そのウィリアムさんが手を上げました。可能形の話をしていたとき、「見れる」はだめなのか、という質問です。
 「日本人は、IIグループ(一段動詞のこと)を話すときに、見れる、食べれる、と言うことがあるけど、それは正しい日本語ではありません。書くときは、見られる、食べられるとしなければなりません」と答えました。

 このような質問は、日本に来たばかりの学生からはあまり出ません。日本人との接触が多い人なら不思議はありませんが、ウィリアムさんの質問はそういうものが多かったので、
かなり慣れている人だと思いました。

 授業のあとでウィリアムさんが近くに来たとき、「このクラスはどう?ちょっと易しいでしょう?」と言うと、「実は、ボク、日本人なんです」

 日本人の学部生が、日本語ってどうやって教えるのかを知りたくて、教室に潜り込んでいたのです。その純粋な気持ちは素敵だけど、それはね、ルール違反なんだよ。
  
 彼は「正しい日本語って、ぼく達、どうやって身につけたらいいんですか?日本語を教えるって、難しいですね。」と言って去っていきました。

 若者よ、正しい日本語と社会的な行動とをきちんと学べよ、そして、自ら思考せよ。
 でも、これって教師の責任なんでしょうか・・・???

森 美抄子(もり みさこ)

京都外国語大学 非常勤講師
留学生たちに日本語を教えるのが仕事です。そして、日本語教育を学んでいる学生たちにその面白さと厳しさを伝えていくのも仕事です。人間だって宇宙人、日本語だって外国語。

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