前々回、教員になって初めて担任を持った時、クラスの生徒と交わした「交換ノート」について、やり始めた経緯とその後の経過について書きました。
今回はその後編です。
交換ノートの限界
まったくノートを出してくれなくなった3名の生徒。
彼女たちに対し、何とか関係性を保とうと私からメッセージを書き続けたものの、最終的に1年終了時点で3名とも学校を去って行ってしまいました。
その一番の理由は、生徒がノート上の「私」と教室での「私」のズレを感じたからでした。
ノートの中では、個人にフォーカスした内容やアドバスが中心になります。ところが、クラス全体の中で彼女たちに接する際は、どうしても全体を意識した言動になってしまい、ノートに書いたそのままの態度で彼女たちに接することが難しくなってきます。
そんな私を見て、彼女たちは「先生は、ノートの中では私たちの味方をしてくれるし、親身になってくれるのに、教室ではそうじゃない・・・」と不信感を持ってしまったのです。
最近の例に照らせば、SNSやメールという文字情報とリアルな会話との違いになるのでしょうか。とにかく微妙な部分が誤解の種になってしまいました。
いま振り返ると、個々の生徒と、ノートでのメッセージを具体化できるような、文字間を埋めるような具体的な関わりや会話をもっと大事にし、お互いの考えを共有しておけば、このような誤解は防げたのではないかと思います。
記述内容を充実させたい
二つめの問題点、それは交換ノートの内容についてです。
できるだけ生徒の内面を引き出させようと、書く内容は自由、しかも担任だけの胸の内にとどめておくという方針を当初からとってきましたが、慣れてくるにつれて学校生活とは直接関係のない内容が目立つようになりました。
担任の知らなかった生徒の実態や、精神面での成長度を知る手がかりにはなるものの、芸能人のこと、彼氏のことなど、あまりに幼稚な内容の羅列では意味がありません。
そこで途中から、今まで担任だけにとどめておいた内容をクラス全体に広げるという方針に変更し、「全体で共有できることは学級通信に載せる」宣言をした上で、全員に伝えるようにしました。
こうすることで、ノートの内容が少しは学校生活に即したものになるだろうと考えたわけですが、その意図はずばり的中、学級通信の紙面で意見交換ができるほどの内容が出てくるようになりました。
《先生、私、最近服装とか髪の毛をキチンとしてるでしょ。すると、世界が違うの。廊下でどの先生に出会ってもビクビクしないし、いつ検査があっても大きな顔をしていられる。それが、とっても気分いいの。今までスカートは長いし(当時は足が全部隠れるくらいのロングスカートブーム)、ネクタイも結んでいないし、靴の踵を踏んで、髪の毛をいじくって、検査があれば必ず指導された私。でも今は違う。なぜ、このことにもっと早く気がつかなかったのかと思うくらい。・・・私を、こんなふうに変えてくれたのは友達。その子と友達になって、私の考えや生活のすべてが良い方に変わっていってる。ありがとう、友達!》
私自身、こういった思いがけない展開に、改めて生徒たちの「素直さ」や「向上心」を見直しました。
環境さえ整えてやれば、生徒はその気になってどんどん成長し、クラスの中にお互いを仲間として見る目が育つのだと確信しました。
進路相談にも大きなメリットが
以上、断片的ですが、交換ノートを実施した初年度の経過と問題点について拾い上げてみました。
その後、学年持ち上がりで2年、3年と担任が続き、同じように交換ノートを取り入れたクラス運営をしました。当然、学年が進むにつれて内容の充実が見られ、特に進路相談をする際など、ノートを通じての意見交換がきっちりでき、個別指導にとても役立ちました。
また、毎日ノートを書くことが、自分の考えを文章にまとめる力の育成にもつながり、より考えの深い、読み手に伝わる書き方ができるようになっていきました。
もちろん、だからといってそれだけでクラスづくりができるわけではありません。大切なことは、交換ノートから得た生徒の「心のつぶやき」を、いかにクラス運営に活かしていくかです。
毎日出されるノートに返事を書くのは骨の折れる作業ですが、それ以上に生徒のことがわかるという意味で、使えるツールだろうと思います。
明日は何を書いてくるんだろう・・・
担任として、それ毎日の楽しみになったことも事実です。

安居 長敏(やすい ながとし)
滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長
私立高校で20年間教員を務めた後、コミュニティFMを2局設立、同時にパソコンサポート事業を起業。再び学校現場に戻り、21世紀型教育のモデルとなる実践をダイナミックに推進中。
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