2016.03.17
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6学年の学年経営~ 一年を通して、語りかける学年経営~

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

 学年を一つにする学年主任の心得

 去年度、6学年の学年主任になりました。その時の学年経営の指針と実践を紹介します。

 初めての6学年の学年主任になった私は、学級経営のように、学年経営をしたいと思いました。“自分のクラスと他のクラス”ではなく、学年を一つの大きなクラスのように思いたい。ただし、その一方で、経験が豊富な私のワンマンショーになってはいけません。年長者が若い教師の立場をとってしまってはいけないのです。なぜなら、若い男性教員のクラスも、若い女性教員のクラスも、その担任の先生が思いを持ち、良さをだし、その思いや良さを子ども達がしっかり受け止めながら、教師も子どもも学級を大切に思うことが基本だからです。

 ですがここにも大切なことがあります。学級を大切にすることが、いわゆる「学級王国」にならないことです。学級王国とは、担任の言うことしか子どもが聞かない状態など、伝えにくいのですが、学級を大切にしている様子とはちがいがあります。学級王国になるのはなぜでしょう。それは、担任がクラスの子どもの成長を自分の手柄のように思うことから始まります。「他のクラスの子どもは自分の教育力とは関係ない、自分のクラスはうまくいっている、自分のクラスは他のクラスよりこんなに成長しているぞ」などと競うような心境を持つ状態は危険信号です。そもそも私たちは、日本の未来を担う子ども達を育てているわけです。それを小さな地域の、小さな学校の、たかが小さなクラスで、自分のエゴを満足させるために競うように学級をつくっても何の意味もありません。翌年もしくは2年後にはクラスは解体され、6年であれば、中学校に進級し、色々な小学校の子ども達と混ざるわけです。やはり、担任は、子どものゴールの姿を遠くにもち、それを担任全員が共有しながら、それでいて自分のクラスの子どもを愛してあげることが大切でしょう。

 大きな道筋を示すのは、主任である私の仕事。担任全員(本校では4人)が共通のゴールの姿をもち、それでいてそれぞれが個性を出しながら、学級を大切にしていく学年にすること。それが、学年主任の心得であると思います。

 

1年を通して語りかける

 生徒指導上で何か問題が起こると、高学年においては、学年全員を集め、学年集会を持ち、子ども達に注意を促すということがあります。それも有効な手段です。ただ、できれば、そのような学年集会は持ちたくないと思います。だから、先手必勝。1年間継続して、子ども達に語りかける実践を心がけました。

 

ミニ学年集会で 継続して語りかける

 本校では月に一度、児童朝会があります。全校生が体育館に集まり、校長先生のお話を聞いたり、表彰を行ったりするあれです。月一度の児童朝会の後、1年生から順番に教室に戻っていくのが、本校の常です。全学年4クラスありますので、最後の6年生は、待っている時間ができます。待ち時間が約5分、そこにプラス5分の10分ほどですが、必ず、ミニ学年集会として、私から話をしました。その都度、これまでの成長とこれからの課題を子ども達に示しました。約130名、必ず、私の目を見て話を聞きます。頷いたり、笑顔を見せたり、時に考える表情になったり。自分ごととして感じている子ども達になっていきました。

大きな行事の前にも、学年集会を持ちました。その時は、私だけでなく、担任全員が話すようにしました。

1年を通して学年集会を行っていると、子ども達は、自分たちの前に立って話をしてくれる大人は、何か、自分たちのことを考え、熱い思いを持って語ってくれるのだと感じるようになっていきました。

 この姿は、私の予想を超えました。それを感じたのは、卒業式です。卒業式の練習でも、本番でも、来賓などが話をするときの聞き方が、「マナー良く聞かないといけないから静かにしている姿勢」というものではなく、「自分たちの前に立つ大人は、自分たちへのメッセージを何か話してくれるという期待をもち、聞くという姿勢」になっているのです。しかも、全員が自然とできているのです。卒業式の練習で、「聞きなさい、話している人を見なさい」などという指導は一切いりませんでした。一年の継続した指導の大きさを感じました。

 

学年集会では、必ず最後は学級に返す

 修学旅行に行く前は、修学旅行前の学年合同道徳と称し、スライドを用意しました。スライドの冒頭、文化財の土塀に落書きがされたというニュースを取り上げました。詳細は後述しますが、スライドで考える時間をとった後、各クラスで修学旅行での集合写真撮影について考えさせました。並び方、ポーズなどをクラスで考え、実際に写真を撮ります。大切な写真なので、悪ふざけで顔を隠したり、心霊写真のように手を出したりしないように指導もしておきます。本校の修学旅行は1学期です。このように、クラスでどのように写真を撮るか考え実際に行うという活動を通して、学級の親交も深めたいと思いました。

 運動会の組体操の指導については、以前、このつれづれ日誌に「組体操は技を育てるのではない!心を育てる組体操の実践を。」の回で書きましたが、書かれていない部分があります。運動会の前日にも学年集会を行いました。(「心をいっぱいにしよう会」とは別に。気になる方は、組体操の回をお読み下さい)この時は、私は立って子ども達の前で話しませんでした。体育館の舞台の前には、ひな壇が置いてありますが、その2段目あたりに腰をかけて子ども達に語りました。いつもの学年主任の鎧を脱いで、ずっとついてきてくれた信頼する仲間として、子ども達に、感謝と明日(運動会)への思いを語りました。

 ここでも最後は、学級へ返します。「では今からは、クラスで明日への気持ちを寄せ書きにしましょう。」模造紙4枚を貼り合わせて、組体のテーマを書き、一番初めの練習で5・6年児童に見せたのですが、模造紙4枚を貼り合わせ、大きなものにしていたのはこのためです。「生きるーぼくらの誓いー」と書かれた4枚の模造紙を一度ばらばらにして、クラスごとに1枚ずつわたし、寄せ書きをします。そしてそれをまた、4枚貼り合わせて、1枚の大きな紙に戻しました。

 学年と学級、行ったり来たりしながら活動することで、各クラスも耕せ、学年としても一つになっていく、そこを目指しました。教師の若年化が進む昨今、学年経営が各クラスの学級経営の手助けにもなっていくことを大切にしたいと考えます。

 

ろうかやトイレ 継続して語りかける掲示物(写真参照)

 このときの6年生は1フロアに6年だけの教室配置でした。使う階段も1カ所で、トイレも1つだけでした。階段が1カ所ですので、階段を上がってすぐ曲がると、手前から空き教室(会議室として使用)1組2組3組4組と並んで行き止まりとなるので、必ず同じろうかを通ります。トイレも、殆どの子どもが、必ず使うことでしょう。集会で語った言葉は、消えてしまいます。トイレやろうかに掲示して、子ども達に見える化し、各自の心に落とし込む手だてとしました。

 特にトイレの使い方は、子ども達の心理状態を表しているように私は感じます。何となく落ち着かない様子の時は、トイレのスリッパが乱れていることが多いのです。「しっかり並べなさい。」という指導も大事だけど、心を育てたいといつも思います。やらされる姿勢ではなく、正しい行動を自らで実践する姿勢を獲得させたいといつも思うのです。

 だから、先述した修学旅行前の合同道徳のスライドには続きがあります。文化財の土塀の落書きの写真を見せたあと、「同じようなことをしていませんか?だれかがやるひどいことを、見逃し、許していませんか?」といって乱れたスリッパの様子の写真を見せました。そして続けました「でも必ず、すぐにこんな風に戻っているんです。」といって、整然と並んだスリッパの写真を提示しました。「きっと誰かが、しかもいつも同じ人が、スリッパを並べるという、誰かがやらなければならないことを行動してくれている。ありがとう」と言って「本当の正しさを花咲かせよう。それは、自分の足でしっかり立って、歩いていく、そこからスタートです。」という文字だけのスライドをみせました。その後、正しいことを行動しているニュースをもう一つ紹介し、「自分のこととして考え、そして自分の正しいと思う考えで歩く。そうやって自分の価値観・世界を大きくしていくのです。」と述べ、もう一度整然とスリッパの並んでいる写真を見せて「この人はできていますね。」とくくりました。

 スリッパが乱れているなど、問題がおこると我々教師は、悪い行動に対しての指導を個人や全体に投げかけることが多いです。が、その陰でその言葉に胸を痛めるのは、いつも正しいことを黙々としている子ども達です。この写真を見たとき、スリッパをいつも並べていた子は、きっと「正しいことをしていてよかった」とほっとするでしょう。それに人間の心の中には、みんなよりよくなりたいという思いがありますから、整然としている気持ちよさと自分の良心を見つけ、よりよい行動をしたいと思うと考えます。マイナスを止める指導も大切ですが、プラスに促す指導をもっと心がけるべきです。(本校の名誉のために付け加えますが、トイレのスリッパが乱れるといっても、1足が反対向きになっている程度です。少しですが、その少しの緩みを見つけることが大切だと思います。)

 トイレの入り口に、学年集会で学んだことをかいて掲示したり、ろうかには、先述した運動会前日に書いた模造紙4枚の寄せ書きを貼ったり、経験を可視化できるようにしました。しかも、1年を通して・・・

 卒業表現は、全て子ども達の言葉でつくりましたが、子ども達は、こんな風に表現してくれました。

『ぼくらのろうかは、思い出いっぱいあふれる メモリーズロード

 大きな行事がおわるたびに、学年全員で撮影した 記念写真

 132人でよせがきした 「生きる」という 大きな紙

 学年集会は 6年全員そろって大事な話ができた時間

 よせがきをみるたびに記憶がよみがえる

 「わあすごい」と思う。私たちの自慢です。ぐうっと 心がうたれました。

 何回見てもあきない。私たちの大切な思い出。見るだけで 勇気がでた。』

 

卒業式は、感謝だけではなく、一歩を踏み出す勇気にしたい

 卒業式は人生の節目であり、子どもも保護者も胸がいっぱいになります。節目でしか、なかなか感謝の意もつたえられないのも事実です。ですが、感謝ばかりで完結する卒業式ではなく、新しい世界に踏み出す勇気にかえる卒業式にしたいと切に願います。

 何となく一般的な言葉で卒業表現をつくって、親への感謝を述べて小学校生活を締めくくるのではなく、子ども自身が今までを振り返り、いっぱい感じて、最後に卒業表現をみんなで作り上げ、生き方の土台になるような卒業表現にしたい。そう思い、一人につきB4用紙4枚にわたる「成長のあしあと」を書かせ、132人分の文章を全て読み、卒業表現をつくりました。

「成長のあしあと(振り返り)」を書くにあたり、お手紙(通信)を書きました。全クラスそのお手紙を担任に読んでもらい、成長のあしあとを書く時間をとりました。そのお手紙の一部を紹介し、本稿を閉じたいと思います。今年度も、もうすぐ行われる卒業式が、子ども達の思いが溢れ、勇気にかわる卒業式になりますように。

 

卒業に向けて・・・

卒業式ときいてあなたは何を考えますか?新しい中学校生活への期待でしょうか?それとも少しの不安?

卒業式は、みなさんを清新な気持ちで新しい生活への展開へと導くためにあります。

・・・・略・・・・

これまで、みんな(先生達を含めて)と大切な毎日を築き上げてきました。特にこの1年は、「生きる」こと、あなた自身の生き方を考え進んできました。

先生は、みんなが笑顔で幸せになれる生き方を細胞の奥までしみこませてほしいと強く強く願い、あなたたちにまっすぐに伝えました。言葉だけでなく、全身で、先生達の心も一つになって、あなたたちに伝えました。みなさんは、先生たちのそんな思いを十分に受け止め、自分のこととして前向きにとらえ、まっすぐに歩んでくれました。

 

この出会いは、きっかけです。

これからは、自分自身で、どう生きるかを決定していくのです。

 

いつも誰かのせいにして、「無理だ」「いやだ」と後ろを向くのか、

一瞬一瞬を大切に生きて、誰かのためになにかしようと前を向いて進むのか

どちらの人生が幸せをよびこむでしょうか。

もちろん、後者です。この1年、一瞬一瞬を大切にしてきたあなたなら、十分に感じられることです。

今ある気持ちよさと、もっとこうすべきだったという前向きな反省は、豊かに生きている証拠なのです。

そして、

卒業式で、自分の成長をもっと確実なものにして、明日を切り開く大きな一歩にするのです。

あなたの中に芽生えている新しい心をしっかり認識することが、これからの勇気になるのです。

だから、卒業式は小学校生活の「あしあと」です。

自分を振り返り、成長したこと、明日へ生かす自分の生き方を卒業表現で残すのです。

 ・・・・・・・略・・・・・・・

 そして、ありがとう。

 

卒業式は、このメンバーで築き上げる最後の場でもあります。

もうこのメンバーで一つのものをつくることはありません。とうとうその日がくるのです。

今までもそうであったように、全てを出しきって、「ぼくたち、わたしたちの学んだことはこれだ!」というメッセージといっぱいの心で満ちあふれる表現で伝えましょう。

 

きみたちだからこそできる卒業表現にしよう。

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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