2016.02.08
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「仲間」の押し売り、していませんか? 繋がり、高め合う意図的な学級経営を!

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

「同じクラス=友達」ではない子供達

 

新任の時、私は、たぶん「同じクラスの仲間だから!」「友達でしょ」という言葉を連呼していたように思います。20年以上前のことです。しかも今勤めている地域とは違う学校で、1町1校という、幼少の頃からつながりの強い地域の子供達でした。「クラスは仲間」の理論は、まだ今よりも通用していたかもしれません。いつのころからでしょうか、同じクラスになってもクラスメイトの名前すら覚えないような状況が出てきたのは。もしくは、かろうじて名前は覚えていたとしても、幼稚園の頃から親のつながりで仲良くなった子としか遊ばず、交流すらしない状況。もちろん、発達段階は関係します。1年生は、親のつながりや席が近くになったことなどから交友関係が派生し、中学年、高学年と上がるにつれ、親や距離の枠を超えて交流できるようになり、趣味思考の合う友達をつくっていくのが順当です。

 

ですが、最近気になるのは、放っておけば中学年になっても、幼少のころの交友関係から離れられなかったり、高学年でも、特定の友達としか関わらなかったりすることです。学級という同じ空間にいながらも壁が存在しているようなこともあります。クラスを仲間にするための意図的な営みが必要なのです。

 

朝のふれあいタイムで、つなげる

席替えは月に1回ですが、4人グループの中での席を毎日変えています。

学級全体の席替えを行うのが月に1回なのは、メンバー同志が慣れ親しみ、理解するには、2週間以上は必要であると考えたためです。まずは班のポスターをかくという共同作業からスタート。慣れてきたら、班の名前や今月のめあて、班のマークなども決めるようにしていきます。

その4人で、毎日席をかえます。めあては、「交流を深めるため」です。4月、自己紹介でたくさんの子が「あまり同じクラスになった人がいないので、友達を増やしたいです」と言っていました。特に、今年度は多かったです。男女が隣になることもあれば、男子同士、女子同士がとなりになることもあります。毎日、組み合わせを考えることで、話し合いのスキルも身につくことを期待しています。一巡したあとは、いかにめあてを意識して、建設的に考えていくか、がポイントとなります。優しい口調も大切ですね。

“今日の座席”になったら、隣同士、体ごと向き合わせ、私の合図で、

「よろしくお願い、しまんねやわ~」(吉本新喜劇のギャグ)と言います。

その後、手遊びやゲームをします。吉本のギャグって、さすが、関西とお思いの方も多いことでしょう。これにも意図があります。「恥ずかしさを忘れ、本気で楽しむ集団」を目指すからです。まずは、全員で吉本ギャグ。4月は、これを言えない子もいます。とにかく、恥ずかしい気持ちが先に立つのです。恥ずかしい気持ちがあっては、本音の学びも存在しない。だから、いい意味で、恥ずかしさを忘れることが大事だと思っています。

次に行うのが、二人組でのふれあいゲーム。始めは、「あっち向いてホイ」など、直接手が触れないゲームをさせます。次の日には、「アルプス一万尺」など手を触れあう手遊びにし、触れるという行動をいれます。触れる行動が、結びつき=友達という感覚にもつながるからです。そしてある程度、日が経つと、もっと触れることが多いものにしていきます。腕相撲、指相撲、手押し相撲などです。ここでは、男の子には手加減をするように、女の子には、思い切りやるように促し、男女の特性に合う学びを意識しています。3学期である今、体育でサッカーをしていますが、女の子同士のサッカーの試合が、なんと気持ちのいいこと。声をかけあいながら、思い切り勝負しています。試合が終わったら拍手と握手。その様子がうれしいです。6年生の女子です。全員息を切らして、サッカーを楽しんでいます。

話題をもどしましょう。二人組のゲームは、ペアを変え、班のメンバー全員と行います。去年度はここまでにしていました。(去年度も6年生担任でした)が、今年の学級は、初めて同じクラスになった子が多いというスピーチが多かったので、この後、席を立ち、教室中を歩きペアを見つけにいくようにしました。始めは仲のよい子のところに行きますが、毎日行い、「めあては交流を深めること、そして、正直に動いて心を磨こう」と毎日声をかけ続けています。ペア捜しのあと、今日のふれあい遊びをします。それを3回繰り返します。最後は、全員で円になって、隣同士で右手が上、左手が下で手拍子できるようにして、三三七拍子で締めます。

円の隊形は、心理的にも効果があると耳にしました。チームワークの意識や和やかなムードにつながるそうです。話し合いの時などにも、円の隊形でいすを並べ、話し合わせたこともありますが、効果を実感しています。

 

授業でつなげる、高める

ふれあいタイムで毎朝ほぐし、学級を温めたあとは、授業でもつなげていきます。

これまでのつれづれ日誌で、理科や算数、道徳などで、本気で学ぶこと、本音で話す聞くことを大切にした授業作りを紹介しました。それは、先述して活動などを元にして、つながりを作り、その上で可能となったものです。もちろん、授業自体のやり方や課題設定で、相乗効果となります。学級経営と授業作りは、切り離して考えられないのです。

今、参観日に向けて、スピーチを考え、練習していますが、このふれあいタイムを生かしました。

まずは、一人で教室内の好きな場所に行き、大きな声で練習をする。周りを気にすることなく、大声で練習していました。次に、ペアを捜し、聞き合い、アドバイスを伝え合うという活動をしました。

子供って、子供同士で向き合うときが、一番輝いた笑顔になりますね。

読み終えた後は、聞き手が笑顔で、自然と拍手がおこっていました。そして、アドバイスを一生懸命に話す様子が見られました。ゲームの楽しさではない、高め合おうとする楽しさが、教室に広がっていました。アドバイスし合った後は、毎朝行っている「ありがとうのハイタッチ」をしているペアがたくさんいました。

学級のまとめの時期こそ、個の成長を大切にしたい

週末にいつも思うんです。

次の月曜は、○○ちゃんともっと話そう。元気な男の子ばかりに関わっていたなあ。あまり話せなかった△△君にも、もっと話をしよう、等。

3学期になると、教師と子供の関係が落ち着いてきます。学級や授業を支えるリーダー的な子供達や、元気者でやんちゃな男の子達、あるいは、勉強が苦手で寡黙な女の子など、教師の目や声が届きやすい子と、そうではない子にわかれてしまうことがあります。

また、1年の最後で、学級での学びを振り返る時期でもあります。学級としてよかったことや成長したことを取り上げることが多いと思います。それだけで教師の意識が完結してはいけません。

私たち教師が大切にするのは、かけがえのない一人一人の子供達の幸せです。そのために、学級としての振り返りをし、個々の成長にまた返していくのです。

「仲間だから」となんとなく投げかけて、子供達を納得させようとしていた若い頃の自分を反省します。今でも、もちろん、反省と挑戦の日々です。

もうすぐ、この子達は、自分の手の中から羽ばたき、新学年へと飛び立つのです。これからも、一生懸命に、真っ直ぐに、飛び続けて欲しい。これまでの学びを細胞に染み渡らせて、一人でも飛び続け、仲間とよりよく関わり続けて欲しい。

そう考えるなら「仲間」の押し売りではなく、個を大切にしながら、つながりをつくりましょう。

学級を大切にするとは、一人一人の成長を大切にするということです。

 

親を超える価値を持つ子供に、喜べる親でありたい

小さい学年の時には、男女でトラブルもつきもの。活発な上の娘もそんなことがありました。5年生になって、また、ある男の子の名前が話の中に出てくるのですが、今までと内容が全然ちがうのです。「○○くん、おもしろいねん。」など。あれ?3年生の時には、叩かれて痛いなどと言っていた子では?そう思い、尋ねてみると、「お母さん!何言ってるの!○○くん、めちゃ優しい子になってるねん!変わったの!そんなこと言わないで!」と一喝されました。親の知らないところで子供は見方、感じ方を養っていて、自分で判断し思いを持てたこと、つまり親を超えて仲間を大切に思う価値を見いだしていることに成長を感じ、うれしく思いました。

 

親、特に母親は、我が子の様子が見えないことを不安に思いがちです。自分が一番我が子をわかっていたいのです。自分の見えている我が子の様子が全てであると思いがち。だって、お腹を痛めて産んで、手塩にかけて育ててきているのですから。

娘にこの一喝を受けたとき、そんな自分を感じました。思春期まっただ中の今も、同じようなことが多々あります。しかしながら、けなげに親の意思に寄り添いつつ、自己主張をしてくる我が子は、確実に自立へむかっていると感じます。

 

親も、親として成熟していきましょう。

私は、いつまでたっても、親として未熟な自分と格闘の毎日ですが、少なからず、お友達に対する娘の思いは、親である私を超え、本当に素敵です。

親の喜びって、そういった親の枠を飛び越えていく子供の成長であると思います。担任が「仲間」を押し売りしないように、親も「自分の価値観」を押し売りしないようにして、子供を羽ばたかせたいものです。いつも同じ事を言ってしまいますが、母としてそれがなかなかできないのです、自分の価値観を押し売りしないことが。

 

だから、教師は、1年間のまとめとなるこの時期、「仲間」意識ばかりを押し売りせず、我が手の内から新学年へと子供を羽ばたかせる意識を持ち、子供一人一人の成長を磨きたいものです。

 

トライし続ける

 2月というこの時期、子供達の様子がまるで退行したように感じることがあります。そんな時、この子達の成長には、もっとよい手だてがあったのではないか、あるいは、今までの日々は何だったのだろうと感じることさえあります。そんな時は、学級という組織ばかりにとらわれず、もう一度、個々の子供達を見つめ直してみてください。

4月は、一人では人前にも立てなかった子が、堂々と意見をいっている姿。「私は今まで人とかかわろうとしてなかったけど、かわろうと思えた。人を笑わせる人になりたい。」と述べる表情が格段にかわった女の子。トイレ掃除の道具をまともに触ることができなかったような男の子が、「全力でそうじすることがとても気持ちのいいことに気づいた」と言ってくれ、行動していること。仲良しはあるけれど、くったくなく声をかけあい、昼休みに遊ぶ大勢の女子、そして男女一緒に顔を寄せ合ってカルタで遊ぶ子供の様子。

仲間の押し売りでは見えない、子供達一人一人の成長を感じてあげましょう。

大切なのは目の前の子供達。

意図的につながりを持たせながら、つながりだけの仲間ごっこに陥ることのないよう、高め合える集団にするために、真摯に、いつでも、真剣勝負していきたい、トライし続けたいと思う。トライし続け、少しでも子供達の生きる力にかえたいと思うのです。 

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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