2016.01.08
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よりよい授業を創るためにNO.19「学級担任の果たす役割」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 

 みなさんは、どのようなお正月をお過ごしだったでしょうか。12月に入ってからも比較的暖かな日が続き、そのせいで体調を狂わせてしまったという話も聞きました。体調には十分に気をつけて、健康で幸せな一年にしていきたいと思います。

 

 年初の私の抱負は、まずは6年生と一緒に3学期を乗り切ることです。授業日数は50日余り、お母さんのような気持ちでかかわってやれるのもあとわずかだと思うと、こちらの方が寂しくなります。一日一日を大切にして、子どもにも私にも楽しい時間を作っていきたいと思っています。

 

 それから、ライフワークを確立することも目標にしたいと思っています。学び続けたいことや、やってみたいことがたくさんあります。その目標に向かって、形が見えるような一年にしたいと願っています。

 

 さて、年始にあたり、学級担任の役割について、改めて考えてみたいと思います。私は以前、小中一貫校に勤務したことがあり、中学校の先生たちと職員室を共にして、近い距離から仕事ぶりを拝見しました。中学校の先生からも指摘されたのですが、小学校の担任の役割というのは、中学校のそれとは趣が全く異なります。小学校の担任は、クラスというひとつの家庭の親のような役割も果たしているのです。1年生が6~7歳であることを考えれば、担任は教師という顔をもちながらも、親のようなまなざしで子どもたちを見守っていくことが求められているのではないかと思います。

 

 そういった背景から、担任は子どもたちの一日をコーディネートしていく役割も果たさねばなりません。中学校のように、教科を分担して教えているわけではないので、子どもたちの一日を見通した教育活動を行うことが大切なのです。

 

 私たち教師は、教育課程に沿って教育活動を行っていますし、週案と呼ばれるものを提出して、その計画に沿って授業を行っています。しかし、多少の融通を利かせる余裕がなければ、子どもたちとの長い時間を、楽しく過ごしていくことが難しくなります。子どもたちの集中力や体力によって、内容を操作できる力も必要なのです。

 

 以前には、融通が利かないと思われる教師も多く、「あの先生は、自分のレールに乗らない子どもが嫌いなのよね」といった陰口を耳にすることもありました。そういう声は保護者から上がることもありましたし、同僚が話していることもありました。

 

 どのような意味かと申しますと、教師が自分のやり方にこだわり、子どもたちに自分の思った通りにさせようとしている様子を表しています。教師が、理想をもって仕事をすることはとても大切です。しかし、自分のイメージだけで電車を作り、それに子どもたちを乗せ、自分が敷いたレールだけを走らせようとするなら、大きな間違いだと思うのです。

 

 あるひとつの学習のゴールが同じだとしても、そこに向かう道筋は多様であっていいはずです。ときには、クラス全員の子どもたちが同じ電車に乗る必要もなく、同じ路線で目的地を目指す必要もないのです。もしかしたら、一人一人が違った乗り物で、別々のルートを辿って目的地に着くのかもしれません。大事なのは、目的地に到着することであって、その過程が全く同じである必要はないということです。そこには、子どもの選択の余地があり、個に応じた支援があるのです。

 

 時に、教師が子どもの願いを聞き入れながら授業を進めることによって、学習の幅が広がっていきます。たくさんの選択肢を示すことができるようになれば、子どもたちは自分に合った学習方法を身につけていくことができるのです。学校は、知識を教えるだけの場ではなく、学習方法を教える場でもあるのです。

 

 もうひとつ、別の側面から担任の役割をお伝えしたいと思います。以前、私はこのコーナーで、「教育に強制はいらない」という思いを綴ったことがあります。25年以上に渡って教師を続けてきた中で、この言葉を忘れたことはありません。しかし、日々の学習活動の中では、強制しなければならないこともたくさんありますし、管理的になることもあります。どんなに努力しても、学校という大きな社会の中では、そういった力は不可欠なのです。しかし、教師ができるだけ強制や管理といった力を減らそうと意識し、子どもたちに選択の余地を与えようとすることができるならば、子どもたちの一日はとても楽しく有意義なものになっていくでしょう。

 

 だからといって、自由気ままな教育活動を目指そうと言っているわけではありません。最近読んだ本の中に、どうして人は怒りを表すのかということに触れたものがありました。怒ることは悪いことではないのですが、それをコントロールできるように学習していかなければなりません。最近、「アンガーコントロール」とか、「アンガーマネジメント」という言葉が、社員教育の中でも重視されるようになったという話も聞きますが、社会生活の中では感情をコントロールする力はとても大切なのです。

 

 さて、怒りをコントロールするためには、欲求不満耐性を育てていくことが大切だそうで、「したくないことに取り組む」「したいことを我慢する」という生活の中で、怒りを爆発させるのを抑える力が育っていくのだとありました。子ども一人一人が自らの個性を認識し、怒りを鎮めるためのコツをつかんでいくことに加え、学習を通して耐性を培っていくことも必要不可欠なのだと、改めて気付かされました。学校という場には、ゲームもテレビもありません。教科によっては多少苦手だと感じても、授業中には学習しなければならないのです。立ち歩きたいと思っても、座っていなければならないのです。そんな当たり前のことを通して、感情のコントロールが育っていくことを、忘れてはならないと思いました。

 

 手前味噌ですが、6年生からもらった年賀状の中に、学校が楽しいという内容が数多く見られました。「たまーにげきこわ」(ときどき、とてつもなく厳しく叱られるという意味だと思われます)といった評価もありましたが、彼らが学校生活に満足してくれているのだなと嬉しくなりました。

 

 担任としての役割や心構えには、上述した以外にもたくさんの要素があると思いますが、まずは子どもたちが楽しいと思って学校に来てくれるよう、心を尽くしていきたいと思います。そして、私が先輩から受け継いできた教師の役割を、多くの後輩に伝えていきたいと思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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