2015.11.11
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よりよい授業を創るためにNO.16 「ショートカットという方法」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 すっかり秋めいて参りました。新年度も半年が過ぎ、学校全体が落ち着く時期に入ったのではないかと思います。その一方で、児童一人一人の課題も明確になり、担任や関係職員が対応する機会も増えているように感じています。

 私自身は不登校傾向を抱えて育ったので、学校が楽園ではないという思い出もありますし、学校が学ぶための唯一の場ではないとも思っています。しかし、これまでも書いてきたように、集団としての学びを高めてやれるのは、学校なのではないかと考えています。だからこそ、学校はすべての子どもたちにとって、楽しく安全な場でなければならないと思うのです。そして、教員はその目的に向かって、自分を高めていかなければなりません。私も、毎日気を引き締めてがんばらねばならないと思っています。

 

 ただ、6年生を担任して2ヵ月が過ぎ、様々な学校行事をこなしながら思うことは、6年生が異常なほどの忙しさにさらされているということです。それは以前に6年担任をしたときにも思ったのですが、学校中の職員が6年生に期待感を込めて攻め立てているようにさえ感じています。クラスでは担任が受け持ちの教科を必死で教えようとし、他の教科は専門の教師が受け持ってあれもこれもと期待します。それは、学力向上のためには必要なことなので、仕方がないことかもしれません。

 子どもたちは、その上活動に関することでも期待を寄せられています。委員会活動では、あれをやっておくようにとか、これをいつまでに提出しなさいといった課題が出されます。休憩時間にも活動があるので、子どもたちは休むことができずにいます。運動会などの行事があれば、それに関係する臨時的な係活動が加わり、それにかかわっている教師から、さらに課題が出されるのです。

 家に帰ってのんびりできる子どもは少なく、塾や習い事でスケジュールが埋まり、友達と遊ぶことができないという声も聞きます。「運動会の練習で疲れているから週末は休んでね」と声をかけたときの返事も、「明日は野球の試合があります」とか、「一日中、塾で勉強です」といった内容がほとんどです。11~12歳の子どもが、このハードなスケジュールの中で自分をコントロールできているのかなと事あるごとに心配になります。

 こういった状態であっても、担任が教室の中で過ごす子どもたちだけに目を向けていると、彼らがリラックスする間もなく、疲労していることには気付かないでしょう。もちろん、学校での活動を制限したり、放課後の習い事に口出しをしたりするつもりはありません。でも、子どもたちの身体の様子や、心の余裕について目を向けようとすることは、とても大切だということに気付いていただきたいのです。

 

 私は、行事前の慌ただしい中で授業を行うときには、「ショートカット」という手法を使うようにしています。この言葉の表現が適切かどうかは別問題として、短時間で成果を上げられる教え方をするということです。もちろん、45分間を使い切って授業を行うことが前提ですが、ときには融通をつけることも必要です。ですから、たとえ30分間であっても45分間の授業と同じ成果を上げることのできる方法を使うのです。

 具体的な例として、算数の「拡大図と縮図」の学習では、作図よりも縮尺の理解が難しいのです。1対10万で表された地図上で、1センチメートルは実際にはどのくらいの長さを表すのかといった問題や、縮尺の図を書いてみて、実際の長さを想定するという問題は、大人であっても解き方を忘れてしまうような内容です。ですから、特に難しい内容は、授業の始めに繰り返し指導します。同じことを45分間じっくり考えさせるよりも、一日10分間の指導を三日間続けた方が、効果があるからです。その10分間だけはしっかりと集中するようにさせ、その後に、練習問題をやらせるようにします。練習では、縮尺の問題にも取り組ませますが、拡大図や縮図の練習をさせることができます。短時間の集中と、自分のペースでの学習によって、疲労困憊の子どもたちも、何とか学習に参加することができるようになります。

 国語でも、子どもたちにとっては省エネで、成果の上がる方法を考えています。物語文を私が範読し、それを聞いて疑問に思ったことを考えさせます。その後、その疑問に対する自分の考えをまとめ、グループで話し合った後に、クラスでシェアします。本来ならば、子どもたちに音読をさせたり、宿題で予習をさせたりするべきところを省略することによって、子どもの負担を軽減し、まさに今の瞬間の学習に集中させていくのです。

 

 もうひとつ大事なことを最後に触れておきましょう。6年生ともなると塾に通っている子どもも多く、特に中学受験を狙っている子どもたちは、私の解けないような問題も勉強しています。連立方程式なら簡単に解けるような問題を独特の方法で解くのですから、中学受験のための勉強をしたことのない私には理解しがたいこともあります。

 でも、学校で学習する内容が、そんな彼らにとってまったく魅力のないものであってはダメだと思っています。算数でも国語でも、子どもたちが自由な発想を伝え合うことのできる雰囲気をつくっておけば、意外な考え方が出てくるものです。振り返りカードに、「○○くんの考え方は、思いつかなかった」といった感想が書かれているのを発見したときには、学校ならではのよさがあるなぁと嬉しくなります。

 これからも、子どもたちの気持ちや体力、体調に寄り添って、全力で支援していけるようにがんばります。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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