2015.10.22
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よりよい授業を創るためにNO.15 授業をコントロールする力

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 10月に入り、朝夕の涼しさを感じるようになりました。学校では運動会が無事に終わりましたが、学校公開や学芸会など、まだまだ行事が続きます。教師の多忙化が話題になってから長い年月が経ちましたが、まったく改善されないなと、つい愚痴がこぼれるこの頃です。

 運動会をやってみて感じたのは、若手は体力があっても経験に乏しく、自分に割り当てられた仕事をこなすのに精一杯であるということです。以前であったならば、会議に多くの時間を割き、話し合いを通して行事のイメージをもつことができました。そういった時間の余裕があったのです。

 しかし最近では、「例年通りなので、起案された文章を読んでおいてください」ということも珍しくありません。例年通りという表現ほど、無責任なものはないと思うのですが、時間やエネルギーのことを考えるとやむを得ないところもあります。

 その結果、想定外の事案に対応できる職員が少なくなり、本番で落ち着きのない雰囲気を作ってしまうといったことにも繋がります。顏を合わせて意見をたたかわせたり、質問をし合ったりするという学び方は、大人であっても同じだと思います。そして、体験を通して、学んでいくことも同様なのです。今年度の経験を活かし、来年はさらにいい運動会にしていきたいと思います。

 

 さて、前回は、担任の取り扱い方を通して、授業中に情報を的確に受け取るための土台を作っていくことが大切であるというお話をしました。学校という場は、個だけではなく集団を対象に教育を行うことができるので、そのメリットを生かしていく必要があるという点にも触れました。

 教育は、集団の質を高めることによって、大きな成果を期待できるようになるのです。個別的に教えてもらうことも必要ですが、友達とかかわり集団としての学びがなければ、身につけられない力もあるのです。従来型の学習であっても、アクティブラーニングと言われるものであっても、クラス集団を作っていくことは、とてつもなく大きな意味をもちます。

 今回は、そういった考えを基に、集団の力をどのようにコントロールすれば、いい授業を成立させていくことができるのかについて考えてみたいと思います。

 

 私は、この2学期から家庭科を担当しています。交換授業を行っているので、自分のクラスと、隣のクラスの2学級を受け持っています。最近になって手提げ袋を作り始めたので、手縫いをしたり、ミシンをかけたりという作業が授業の大半を占めています。手縫いは自分のペースでできるのですが、ミシンはグループに1台しかありません。そのミシンをいかに効率よく使って製作させていくかということに、頭を悩ませています。

 こういった授業は、家庭科だけに限ったことではありません。理科の実験であっても、図工で糸ノコを使うような場面であっても、自分の作業を進めながら、順番を待って道具を使うという場面は生じます。そのときに、集団の力というものが、授業の質を左右することになるのです。

 私は、隣のクラスで最初にミシンを使わせるときに、大失敗をしました。原因のひとつは、クラスの集団としての質を理解しきれていなかったことです。6年生なら、この手順で、これくらいの説明をすれば、問題なくミシンを使わせることができると思ったのです。しかし、読みの甘さを痛感させられました。ミシン以外の作業も用意していたのに、全員がミシンをかけたいと、ミシンに群がってしまったのです。結果として、ミシンを待っているだけという、不毛な時間を与えてしまうことになりました。

 その反省を生かして、自分のクラスでやるときには、自分のやるべき作業をしっかりやり、順番が来たときには素早くミシンをかけることの大切さを丁寧に指導しました。このような活動中心の授業では、教師が全員の進行状況を監視することはできません。安全に、しかも効率よく作業を進めるためには、一人一人が自分の活動をコントロールしなければならないからです。

 もうひとつ反省した点は、教室のセッティングです。子どもが自分の作業をするスペースは確保して、ミシンは別の場所でできるようにすべきだということに気付きました。こんなことは、当たり前のことだと思われるかもしれませんが、ひとクラスの児童数を40名と想定して机が配置されている家庭科室では、ミシンを置く場所はないのです。そこで、教室の隅に児童用の机と椅子を運び込んで、作業場を作りました。

 さらに、ミシンを使う順番に名前を黒板に書かせ、使い終わったら名前を消すという方法をとらせました。これによって、今誰がミシンを使っていて、誰が終わっていないのかということが、教師にも子どもにも明確になったのです。

 

 家庭科専門の教師なら、精神的にも時間的にももう少し余裕があると思いますが、担任をしながら担当するのは、ときとして難しいものだと思う日々です。しかし、低学年ではできなかったコントロールする力を、個人としても、集団としても身に付けていってほしいと願っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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