2015.10.02
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よりよい授業を創造するためにNO.14 「担任の取り扱い説明書」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  もう二度と担任はしないだろうと思っていたのに、縁あって6年生を受け持つようになってからひと月、明日は運動会が予定されています。9月からという中途半端な時期に担任を請け負うのは、厳しいものがあるなと思いながらの一ヵ月でしたが、何とか運動会を迎えられることに感謝しています。

 

 さて今回は、このひと月を振り返りながら、術良く子どもたちと仲良くなれる方法をご紹介したいと思います。小学校の担任は教育技術も大切ですが、子どもたちの心に寄り添うことが一番に求められるという研究結果を聞いたことがあります。それで、私なりに子どもに寄り添うことに気をつけながら、担任業を行ってきました。

 まず取り組んだのは、日記を書かせることです。しかも、一行日記。私はそこに必ず返事を書き入れるようにしました。私のコメントも短めですが、全員の日記を読んでから返事を書いて、その日のうちに返却するのは大変です。休み時間とか、給食の時間とか、隙間の時間を見つけては数人ずつ返事を書いていきました。

 あるとき、子どもの一人が、「先生、どうしていつも返事をくれるの?」と声をかけてきました。その子どもは、私を気遣ってくれたのです。「一日に全員と話をすることはできないかもしれないでしょ。でもね、日記にコメントを返せば、一日一回は一人一人とつながることができると思うのよね」そう答えると、満足そうな表情を浮かべてくれました。

 これまでの経験から、日記によって子どもたちとの関係を素早く築くことができることを知っていましたが、今回も同様であることを再認識しました。6年生の子どもたちとは初対面ではないので、それぞれの個性を少しは理解していたつもりなのですが、毎日の生活を共に暮らすようになると、算数だけでかかわっているのとは訳が違ってきます。互いの心の交流は、小さいことであっても積み重ねが大切であると思います。

 

 もうひとつ努力したのは、私のことを知ってもらうことです。プロフィールということではなくて、自分の取り扱い方を子どもたちにも理解してもらうことが必要なのです。私の場合、話を黙って聞くことを強く求めます。話を聞くことの大切さについては、これまでも繰り返し述べてきた通りですが、「相手の話を聞くことは相手を大事に思うことでもある」という指導を続けています。ですから、私も子どもたちの話を真剣に聞きますし、子どもたちにも聞く姿勢を育ててほしいと願っているのです。

 話を集中して聞くことができれば、学習の内容もわかるようになりますし、学習が楽しくなるのです。そして、時間に余裕ができれば、他にやりたいと思うこともできるようになっていきます。学校という集団生活の中では、45分間の授業を型通りに行うことも必要ですが、時間の使い方を工夫すれば、いくらでも自分の時間を生み出すことができるということも教えていかなければなりません。メリットがなければ、たとえ子どもであってもモチベーションを高めることは難しいのです。学校生活の1日をコーディネートする力量も、子どもたちの心と寄り添うためには大事なことだと思います。

 あるとき、私が話を始めようと思っていても、いつまでもおしゃべりが止まらない子どもたちがいました。たいていの場合、「いつまでしゃべっているのですか?」とか、「話を聞きましょうね」といった声をかけるのですが、そのときは、「どうも私の取り扱いが下手なようね」と言ってみました。すると、他の子どもたちも大爆笑でした。そして、「話を聞いた方が、楽しいことがあるだろ?」とか、「もっと荒畑先生の取り扱いに上手くなろうよ」といった言葉が聞こえてきました。私は苦笑いをしましたが、頼もしい子どもたちだなと嬉しい気持ちにもなりました。

 

 先日も、教師ではない友達の何人かと、子育てに関して話をする機会がありました。それぞれに親として思春期の子どもたちへの対応が難しいと悩みも抱えていました。私はそういった話を聞いていて、特に高学年の子どもたちにとって、学校が果たす役割はとても大きいものだと思いました。

 家庭にあっては、親子の会話が1対1になることがほとんどです。ほめるときには効果抜群であっても、叱る場面では互いの感情がぶつかり合うこともあります。しかし、学校で担任が叱るときには、大勢の子どもたちに一斉に話をすることが可能なのです。問題が起きたときに、全員で考えさせるといったシチュエーションを取れば、感情的な話にはなりません。自分に同様のことが起きたら、どのようにすべきであるかということを、十分に考えさせることができるのです。

 もちろん、必要に応じて個別に話し合うこともありますし、学校が万能であるという意味ではありません。でも、集団で学ぶという効果を、最大限に使っていくことができる場所であるということを、教師は忘れてはならないと思います。

 子どもたち一人一人を見つめ、集団を動かしながら信頼関係を築くこと。その両方ができてこその授業であると思っています。 

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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