2015.09.29
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カタリ場

福岡工業大学附属城東高等学校 教務主任 石丸 貴史

  NPO法人カタリバをご存知ですか?

多くのメディアで取り上げられているので、ご存知の方もいらっしゃると思います。恥ずかしながら私は今年度に入ってから知りました。詳しい活動は、ぜひウェブで検索してみてください。教育の面から東北復興支援活動も行っています。
 
知ることになったきっかけは、彼らが行っているキャリア教育プログラム「カタリ場」のことを先輩から聞いたことです。「カタリ場」とは大学生などのボランティアスタッフが、高校生に自分の経験等様々な話をし、高校生から様々な話を聞きだすなかで、自分自身を見つめて自己肯定感を強くし主体的な一歩を踏み出すための大きな「きっかけ」を得る場です。
高校生にとっては、保護者や先生等のタテの関係でも友達等のヨコの人間関係でもないちょっと年上のお兄さんお姉さんである大学生のボランティアスタッフは「ナナメの人間関係」であるが故に素直に自分を表現することができたようです。ちなみに、法人名が「カタリバ」で実施しているプログラムを「カタリ場」と表記し区別しています。
 
 驚いたことに、このカタリ場を実施するにあたってスタッフの合宿が行われていました。
土曜日昼前の2時間の実施のために、木曜日から本校の宿泊が可能なセミナーハウスを利用して徹底した打ち合わせとシミュレーションが行われました。軽い気持ちで見学に行ったのですが、場の雰囲気に圧倒され引き込まれてしまいました。
 どうすれば生徒から多くの言葉を引き出すことができるか、生徒に何を伝えたいのか、テーマに沿って多くのことを話し合い議論し意思統一をしていきます。たった2時間のために大学生のボランティアスタッフが2泊3日もの時間をかけて徹底的に準備をしていくのです。それを見ながら、毎日の様にホームルームや50分授業を数コマ教壇に立ち生徒に向けて情報発信をしている教員という職業についている自分は、はたしてどれだけ準備をしているだろうか、彼らの様に本気でぶつかることができているだろうか、といった様に自分のことを見直す貴重な時間になりました。
 
 土曜日のカタリ場当日、1コマだけ土曜補習の授業を行った後、体育館前に集合し入場準備が整ったら後はカタリバスタッフにバトンタッチです。スタッフの誘導に従って体育館の入り口に近づくと、生徒達がよく知る流行りの音楽がかかる中での入場です。いつもと全く異なる体育館の雰囲気にやや当惑する生徒達に対して、入場直後から大学生のボランティアスタッフ(カタリ場ではキャストと呼びます。)が積極的に声をかけていきます。声をかけられることで徐々に打ち解けていきます。
我々教員はカタリ場が実施されている最中は一切口を挟まないことを関係教員間で確認していました。ある教員は生徒が入場した後の体育館の入り口から静かに場を眺めています。ある教員は実施されているメインフロアより1つ上のフロアに上がって遠くから生徒達を眺めています。私は記録係としてフロアを動き回りながら多くの写真を撮っていました。
 
 はじめはキャストの話を聞きながらうなずいていた生徒達が、徐々に笑ったり真剣な表情になったりしていき、日頃友達や教員に見せている表情とは違ったそれになっていきます。いつもは内気で口数の少ない男子生徒が、これまで見たことがないほどの明るく熱い表情でキャストに話をしています。いつもはちょっと元気が良すぎるくらいの生徒がこれも見たことがないほどの真剣な表情でキャストの話を聞きうなずいています。中には感極まって泣きながら話をしている女子生徒もいます。
 こうやってキャストと個別または少人数で話をしているのと同時進行で、多くの生徒に対して自分を語るキャストもいます。これまた普段の授業と全く異なる表情で真剣に聞き入っています。
 こうして、2時間という時間があっという間に終わりをむかえます。最後に生徒は「約束カード」を記入してカタリ場の時間をふりかえりまとめていきます。そして司会進行をしていたキャストからのメッセージで締めくくります。
 
 終了後、私は職員室に戻り一休みしてからホームルームのために教室に入ったのですが、生徒達は自分たちでカタリバから依頼されているアンケートを配布しカタリ場の雰囲気そのままに明るくかつ真剣な表情で記入をしています。その姿にも驚きましたが、さらに数人早く書き終わった生徒が現れた頃に「教室の清掃だけやって終わろうね。」と声をかけたことに即座に反応して、他のアンケートを書いている生徒の迷惑にならない様に黒板を消したりとできる清掃活動を自主的に行いました。その様な生徒の変化に驚きを超えて感動を覚えました。
 
 ホームルームでひとつだけ「またカタリ場やりたい?」と生徒へ質問をしました。全員が即座に手を挙げました。その姿にこの2時間で生徒達は、自分自身を見つめて自己肯定感を強くし主体的な一歩を踏み出すための大きな「きっかけ」をもらったと確信しました。
 生徒達がキャストと何を話したのか、「約束カード」に何を書いたのか、何を感じ何を得たのかを具体的に聞くことはしていませんが、得た「きっかけ」に火を灯し続けていくことがこれからの教員の仕事です。参加してくれたキャストの皆さんには言葉にできないくらいの大きな感謝をしています。この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!
 
 ホームルーム終了後、キャストが戻ったセミナーハウスの1室にホームルームでの様子と感謝の気持ちを伝えるために向かいました。その場は2時間をやり切った疲労感と同時に、何にも変え難い充実感があふれていました。
 自分のクラスの生徒を担当してくれたキャスト達と、生徒達の未来に向けて情報交換を行い様々な話を聞き話をしました。彼らの様な若者を見ていると「日本の未来は明るい!」と感じることができました。今回カタリ場に参加してくれた生徒達が大学生になってキャストとして戻ってきてくれると嬉しいなと思います。
 さらにキャストのみんなは我々担任団のあふれる感謝の気持ちから長くなってしまった話の後に、ふりかえりを徹底的に行っていました。いま自分自身の授業を改善すべく取り組んでいるアクティブラーニングでもそうですが、この様なふりかえりが知識を定着させ決意をより強くする未来につながる活動であることを再認識できました。
 
 実名を出すことは差し控えますが、当日生徒達に接してくれたキャストの皆さんはもちろん、企画運営から携わってくれたキャストの皆さん、言葉では伝えられないくらい感謝しています。本当に本当にありがとうございます!

石丸 貴史(いしまる たかふみ)

福岡工業大学附属城東高等学校 教務主任
高校での新学習指導要領導入を控えて、「カリキュラムマネジメント」・「I C T活用」を中心に、日々の授業改善に取り組んでいます。大学を卒業後すぐに会社員として塾・予備校業界で勤務をした経験も活かしながら、社会で活躍できる生徒を育てるべくどのような資質・能力を育成すれば良いかを試行錯誤しています。

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