2015.08.31
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よりよい授業を創造するためにNO.12 「アクティブラーニングの進め方」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  勤務校では明日が2学期開始となりますが、既に始業式を終えている学校も多いと思います。暑さのピークは過ぎましたが、夏の疲れを出さぬように気をつけていきたいと思います。

 私はこの休み中、数種類の研修に通いました。まずはペアレント・トレーニング。これは、発達障害のあるお子さんを育てていらっしゃる保護者の方へ、対応の仕方を教えたり、励まし合ったりするためのトレーニング方法です。発達障害の中でも、主にADHD、多動性や衝動性のあるお子さんに有効な対応の仕方を教わってきました。我々教師も保護者も、子どもたちの強みを生かすことができるようなかかわり方を身に付けるべきだということを、改めて確認する研修となりました。

 それから、読み書き障害のある子どもたちへの対応についての研修にも参加しました。具体的な手法も大切ですが、ビジョンに問題があるかどうかも、支援の視点としては大切であることを学びました。

 

 他にも様々な研修を受けたのですが、講師のみなさんが口を揃えておっしゃったことは、「子どもたちの主体的な学びこそ、大切である」ということです。大人が子どもに対して、どのような支援がふさわしいのかを考えて一生懸命に行ったとしても、それが子どもに通じなければ意味がありません。「通じる」というのは、子どもが支援を受けることによってやる気が起こり、努力の成果が実感できるようなものになっているかということです。

 それは、発達障害のある子どもたちに限ったことではありません。すべての子どもたちに対して、子どもの実態や興味・関心に寄り添い、より効果的な授業を創っていこうとしなければ、空回りになるということです。

 この件について、これまでにも繰り返して述べてきたことがあります。まずは、聞く姿勢を育てること。(もちろん、聞くことの苦手な子どもたちには支援が必要です。)それから、教師が子どもたちに聞いてもらえるような、授業の展開を工夫していくことです。今回は授業の展開のふたつ目の工夫について、前回紹介したアクティブラーニングの側面からお伝えしていこうと思います。

 

  さて、アクティブラーニングの提案者の一人である東京大学の市川伸一先生は、かねてより「教えて考えさせる」ことの大切さについて述べています。何の知識もないところから課題を設定させるというのは、非常に難しいことだと考えられたのです。ですから、まず子どもたちに一定の知識を与え、クラスの子どもたちが同じ土俵に乗ってから考えさせ、意見交換などを通して互いに高め合わせるようにすることが大事であるというのです。

 授業の流れとしては、まず教える。次にそれが理解できたかどうかを確認する。その後、深化させたり発展させたりした課題に取り組ませる。最後に振り返らせるというものです。基礎基本となる知識はきちんと教え、それを土台にして考えさせる授業を行うべきだとおっしゃっているのだと思います。

 第一段階の「教える」の部分は、「予習」という形で行わせることもできます。以前にもお伝えしたのですが、前日に予習をしておいてから授業に臨むというやり方は、少しずつですが広がりつつあります。子どもの中には、予習型が必要なタイプがあります。見通しをもっていた方が、安心して物事に取り組むことのできるタイプです。しかし、そういった個の特徴に限定した提案ではありません。誰しもが、予習をすることによって、授業への構えができ、意欲的に取り組むことができるということを想定しているのです。

 私が国語の教科書で物語文や説明文を扱うときには、宿題として、音読をしてから「疑問に思ったこと」や「みんなで話し合ってみたいこと」をメモ書きしてくるように伝えます。高学年で説明文を学習するときには、簡単な要約を試みたり、見出しを考えたりしてくるようにさせたこともあります。すると、前日に文章を深く読んできているので、翌日の授業ではスタートラインが違ってきます。授業の初めに、「今日は二の段落を学習するので、まず読んでみましょう」という状態ではないのです。「昨日、家庭で学習してきたことを、みんなで振り返りながら読んでみましょう」となるのです。

 既に土台が出来上がっている状態から授業を進めると、考えを深め合うことに十分な時間を使うことができます。何より、子どもたちの意欲の高さが違います。構えができているのです。

 また、授業で取り上げる課題としては、子どもたちの多くが疑問に思っていることや、話し合ってみたいことの中から取り上げることができます。少数意見についても、後に触れる時間が確保できるので、子どもたちは自分の考えを受け入れられたという満足感を味わうことができます。時間に余裕があれば、発展的な内容を取り上げることもできるようになります。その結果、振り返りカードにも、授業で深く学んだことへの充実感が見られるようになっていきます。

 

 小学校の場合、担任が担当する教科数が多いので、すべての教科で質の高い授業を行うことは難しいかもしれません。十分な教材研究の時間に加え、経験も必要になるからです。しかし、まずは一教科でもいいので、子どもたちが主体的に学ぶことができるような授業を行うことを目指してほしいと思います。子どもたちは、きっとその授業を楽しみにするでしょう。それが、他の教科への意欲へとつながり、結果的には学校が楽しいと思える子どもたちを増やすことになるのです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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