2015.08.12
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よりよい授業を創造するためにNO.11 「アクティブラーニングの求めるもの」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 夏休みに入り、先生方も普段よりはリラックスされていることと思います。フランスで行われてきたバカンス制度が、スマートフォンなどの普及で姿を変えているという報道を耳にしたことがあります。情報の取得や連絡に追われ、完全オフにすることが難しいということでしょう。それでも一定の期間、仕事を離れ、気分転換することは大事だと思います。学期中、教員は家に帰っても仕事のことを忘れられないような生活になってしまうので、せめて夏休みの間くらいは仕事を忘れてほしいと思います。

 余談ですが、数年前にパリを訪ねたときに、私は体調を崩してしまいました。幸いにもバカンスを終えたばかりの日本人医師に丁寧な治療を行っていただいたのですが、彼は日本に帰ることはないだろうと言っていました。仕事の環境は大事だなと考えさせられた出来事でした。

 

 さて、前回は子どもたちの主体的な学びのために、私たち教師には何ができるのだろうかという話をしました。今回は、主体的な学びとはどういうものであるのかについて、詳しく考えてみたいと思います。

 去年秋に示された中央教育審議会答申において、「アクティブ・ラーニング」という表現が出されました。これからの教育のあり方の質的転換を求めるという主旨の説明がありますので、少し長いですが引用します。

「生涯に亘って学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し、解を見出していく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」

 

 このように述べられているものの、アクティブラーニングがこれまで行われてこなかったというわけではありません。2000年から導入された「総合的な学習の時間」を契機に、問題解決型学習が学校現場に浸透してきたという話は、前回にもお伝えした通りです。しかも、それより10年前には低学年において「生活科」が導入され、それが最初の布石であったのだと解釈することもできます。学習指導要領の改訂の度に、「知識の伝達」という授業から脱皮してきた経過があるのです。

 しかし、このような変革は、文科省主導で行われてきたものばかりではありません。例えば「仮説実験授業」は1963年に提唱されたそうで、私が教師になった当時も熱心に研究されていました。これは、理科の実験を行う際に予め実験の予想を立てたり、なぜそのような予想を立てたのかといった理由を考えさせたりすることによって実験に対する姿勢を意欲的なものにし、体験を通して多くのことを学び取らせようとするものでした。まさに課題解決型学習の先駆けであったと思います。そしてこの例に限らず、多くの先輩方の努力によって、主体的・能動的に学ぶことが、子どもたちにとって大切であるという流れをつくってきたのです。

 

 では、なぜ改めてアクティブラーニングという提言が出されたのでしょうか。ひとつには、このような長い歴史に支えられて教育のあり方が変容してきたにもかかわらず、まだまだ能動的な学びが、学校現場に定着しきれていないというもどかしさがあるのだろうと推察します。その理由として、教師のすべてが能動的な学習を体験してきた世代ではないことが、関係しているのかもしれません。

 その一方で世界の情勢が大きく変化し、膨大な情報を取捨選択していかなければならないこと、クリエイティブな仕事ができる人材を育てる必要があること、生涯学習を見据えた教育を行っていく必要性が高まっていることなどが、アクティブラーニングを一層進めるべきであるという提言につながっているものと考えます。

 そして、最も大切なポイントは、主体的・能動的な学習が形式だけにとどまることなく、思考の質にまで主体性を要求しているということです。意欲的に学ぶ、課題をもって取り組む、体験をするというだけではなくて、「自分で考えだす」ことにこだわっているのだと思います。

 

 思考にはふたつの種類があると言われています。ひとつは、情報や知識を脳のテーブルに並べて検討したり組み合わせたりして考えること。もうひとつは、情報や知識の整理や抽出にとどまらず、自分で新たな考えを導きだすという思考です。

 例えば、知識の伝達に限定されたような授業においては、児童や生徒の思考は、受動的に与えられた情報や知識のつなぎ合わせにすぎません。パズルのピースを与えられている状態で、そのピースを組み合わせて絵柄を作っていくようなものなのです。

 しかし、人間の思考というのは、先人が考えだした知識のピースを組み合わせていればいいというものではありません。より新しいものを創り出していく力が必要なのです。今回の提言では、後者の思考にこだわり、これまで以上に創造性豊かな人材の育成を目指したのではないかと考えています。

 

 東京大学の市川伸一先生は、「教えて考えさせる」授業を提案されています。また、長崎大学の山地弘起先生は、思考を活性化させる学習形態の必要性や、主体的な学習習慣の育成なども視野にいれて提案されています。それらの内容を私なりに整理して、よりわかりやすく次回にお伝えしようと思っています。

 暑い日々が続いていますので、体調には十分にお気をつけください。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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