2015.08.13
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大きな声では言えない!キャリア教育授業の思わぬ成果

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

本校ではキャリア教育を正課に位置づけ、
総合的な学習の時間を活用して、高校1年生に1単位
キャリア教育の授業を実施しています。
授業なので、担任や学年ではなく担当者が授業をしています。
今年度は私を含めて4人の教員で8クラスを担当しています。

授業として実施することはメリットもあればデメリットも
あります。しかし本校の場合、現在のところメリットの方が
大きいように感じています。むしろ授業にしたことで、
当初予想もしなかった成果が多くありました。
もしかしたら今後の学習指導要領を考える際に、思わぬ
成果にこそ注目すべきかもしれないと思います。

今回は公の報告書にはなかなか書けない、キャリア教育を
授業と位置づけたことによる思わぬ成果について書きます。

 

1、教員は授業にした方が動きやすい!


 キャリア教育について、HRや総合の一部を使って学年で
実践している例は多いです。しかし「指導レベルがそろわない」
「指導案を作成するのが大変(実際に授業をしない学年主任や
進路主任が作成する場合も多い)」という苦労はどこでも共通した
悩みです。また担当者や学年がかわれば、取り組み内容の継承が
難しいという声も多いです。

しかし、本校は授業なので自分たちで作成した指導案で自分たちが
授業します。さらに教員の基準持ち時間は決まっているので、
キャリアの授業を担当した分、自分の専門教科(私は数学)の
持ち時間を減らして実施ということになります。

たしかに打ち合わせ、教科書のない教科の指導案作成など
大変でないといえば嘘になります。でもその労力は
同じようなことをやろうと思えば必要なものです。
責任が明確で、キャリア教育授業も自分の持ち時間になる
今の体制の方が動きやすいというのが本音です。
何より授業なので、英語や数学がそうであるように、担当者が
変わろうとも一定のレベル・内容が保ちやすいです。

もちろん担任が担当しないので、キャリア教育授業で
取り組みと学年の取り組みの連携は必要です。
そのため本校でも必ず担任の誰かがキャリア教育授業の
担当者になり、学年との橋渡しをしています。

しかし担任の立場からすると、自分の負担がない中で、
一定の授業が実施されていることになりますし、
自分が授業を見学に行けば、キャリア教育授業の
取り組みがわかります。

そして自分で授業するのは大変ですが、見学は気軽に行けます。
さらに、見学した方が生徒の学んでいる様子はよく見えるのです。
さらに本校では年度末に口頭試問という形で生徒たちが
面接試験を受けますが、それは学年の教員全員で実施します。
つまり口頭試問の場でもどんなことを学んできたのかが
ある程度はわかる仕組みになっているのです。

こうしたことから、担任や学年の先生にあまり負担感を
感じさせることなくキャリア教育授業を浸透させることができています。
これは授業にしたからこそでしょう。

 

2、キャリア教育授業は教員研修に最適かもしれない

 

はじめの2年間、キャリア教育授業は私と国語の教員の
2人で作りこみをしました。一緒に授業を作る中で、
お互いに気づいたこと・学んだことが多く、自分の
授業力向上につながっています。

たとえば、きっちり習得してほしいことは、同じようなことを繰り返して
定着させる。数学の授業では当然のことです。しかし国語の先生に
とってそれはすごく新鮮だったようです。

逆にこちらが気づいたことも多いです。
話し合いの組み立て方、話し合わせて全体でシェアすることなど
おそらく国語の先生は自然にされているのでしょうが、
数学の教師である自分にとってはすごく新鮮でした。 

気がつけば引き出しが増え、少なくともキャリア教育授業を
担当する前よりは数学の授業力はついたと感じています。
今年度は英語の教員も加わり、ワークの取り組み方など、
新たな学びがまた増えました。 

何よりこの授業を担当していなければ、数学の授業を通しての
キャリア教育という視点は今よりずっと弱かったと思います。

このあたりのことは以下にも書きました(2つ紹介!)

「教科でのキャリア教育~数学の授業での取り組み~」
http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,21741,21,185,html 

「キャリア教育授業の手法を国語の授業で活用(田内先生の実践)」
http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,21807,21,185,html

 

合教科型、TOKなど教科横断の必要性が言われています。
キャリア教育授業を国語の先生と一緒に作った経験からも
その必要性は他の先生以上に感じていると自負していますが、
一方で何かきっかけがないと合教科型は難しいと思います。
その点でもキャリア教育授業は最適です。 


今年度は教員2年目の数学の先生にもキャリア教育授業を担当してもらっています。
先日1学期の授業振り返りをすると、彼は
「授業でワークをすることは慣れてなくて最初は戸惑ったけど、今では授業の幅が
広がったと思う。最近数学の授業でも演習の時間を増やし、机間巡視の時間が増えた」
と言っていました。
(机間巡視は昨年度、彼が授業の中で有効にできていなかったことなのです)


もちろん教えることは何よりの学びなので、キャリア教育についても
彼は一定深まっています。校外の研修に行くことなく自然と力がつく、
それはすごく素敵なことだと思いませんか?
いろんな教科の先生が担当していけば、教科でのキャリア教育の視点
も自然と学校に定着するのではないかとさえ思います。


 

3、自然に続けられる仕組み作りが大切! 
 

毎週授業があることで生徒にとってキャリア教育は(イベントでなく)
普通にあるものになります。これも大きなことです。 

合宿、高校総体、GW、テストなど授業がよく抜ける4月末~5月は
キャリア教育の授業がイベントとしてとらえられているように
感じるときがありました。6月になり毎週授業があると、
授業に行ったときの感覚が違います。改めて毎週授業があることの
大切さを感じています。これは数値化できることではないのですが、
担当者みんなが感じているので、間違いないことなのでしょう。

これも書きにくい成果と言えるかもしれません。
ともあれこれからも授業は続きます。

 
中教審の答申では、普通科の高校でもキャリア教育の中核となる
時間の設置を検討するようにとの記述があり、本校の研究指定は
それを受けて文科省が実施しているものです。
現時点では、思わぬ成果の大きさもあり、中教審の言うとおり
中核となる時間を設置するべきと思っています。

今回は公の報告書には書きにくいことも書きました。
「教員は生徒の進路指導も仕事の一部であり、キャリア教育に
ついても前向きに取り組むべきである」。 

確かにその通りです。特に初期の段階では志ある人が多少無理
をして形を作らないといけないかもしれません。
しかし実践が無理なく定着するためには、現場の視点に立ち、
自然と受け入れられ続いていく仕組みづくりが大切になります。
本校の例は現場で自然と受け入れられ続く方法を考える際に参考に
なるのではないでしょうか

「やりたくない人にどうやってもらうのかを真剣に考えるよりは、
前向きな人が動きやすい環境をどう整えるかの方がはるかに大事で、
はるかに成果が上がる」。何かの本で読んだフレーズです。
キャリア教育についてはまさにそうなのかもしれません。 

そして日本の先生方はまじめで熱心な方が圧倒的多数なので、
生徒にとってキャリア教育が大切なものということさえ実感
できれば、必ず前向きに動く集団なのです。

文科省の研究指定もいよいよ最終年度。
2月20日には公開授業をかねての研修会も実施します。
講師には国立教育政策研究所から長田徹氏をお招きする予定です。 

公には報告しにくい成果を含め、3年間の研究のまとめを
報告したいと思っています。

お読みいただき、ありがとうございました。
次回は産業能率大でのアクティブフォーラムでの学びについて
書きたいと思います。アクティブラーニングといえば産能大という方も多く、
このフォーラムも早々に満席になりました。
今回フォーラムでは授業実践もさせていただきますが、そのことを含め、
フォーラムでの学びを書きたいと思います。

引き続きよろしくお願いします。 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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