2015.07.07
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

よりよい授業を創るためにNO.9 「集団を育てよう」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

前回は「心から心へ」伝えることを意識して授業を行ってほしいという例をお話ししました。前々回までの流れからすると、イレギュラーな内容だと思われたかもしれません。でも、私はその授業が、私たちに多くのことを教えてくれていると思いました。以前にもお伝えしましたが、授業は技術よりも愛情が先立つべきですし、教師の気持ちよりも子どもたちの気持ちが優先されるべきなのです。その原則さえ守っていれば、ときに厳しく叱ることがあったとしても、子どもたちは授業に集中することができますし、教師との呼吸を大事にしてくれます。日々の授業の中でもアンテナを高くして、子どもたちから学んでいきたいと思っています。

 

 それでは、今回も例を挙げて、いい授業を行っていくためのポイントを探ってみましょう。まず、私たち教師の話し方に関する例です。

 あるとき、まだ話を聞く姿勢が十分に育っていないクラスの様子を見る機会がありました。教師は、学習の内容を説明しながら、頻繁に人差し指を口に当て、子どもたちに静かにするようにという合図を送っていました。それでも子どもたちは、気に留めずおしゃべりをしています。なぜ、おしゃべりしてしまうのかを、その教師自身が分析する必要があると感じました。おそらく、教師の話す時間が長過ぎるため、子どもたちの反応する時間が奪われて、おしゃべりが止まらなくなるのでしょう。

 そのときの様子を、先輩の教師に話したところ、「私は、なるべく自分がしゃべらないで授業をするように努力しています」という返事をもらいました。授業のポイントを一言で表現できるのは、さすがだなと思いました。こういう短い表現で会話が成り立つのは、それぞれが長年教師を続けてきた土台があるからです。老婆心ながら少し付け加えますと、教師が必要最低限のことしか話さなくても、授業が成り立つように子どもたちを仕向けているということになります。

 では、子どもたちに挙手をさせて意見を発表させる時間があればいいのかというと、必ずしもそういうわけではありません。挙手による発言では、言葉を発する子どもが限定されがちで、クラス全員の子どもたちに発言させていたのでは、授業時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。ですから、教師が話す時間、挙手をして発言させ、それをクラス内で共有し考えを高めたり深めたりする時間、個別に練習問題などに取り組む時間、友達と相談する時間など、一時間の授業の中にこれらをバランスよく入れていくことが大切なのです。

 

 ふたつ目の例です。少し前に、同世代の教師から質問を受けたことがありました。「子どもたちが、算数の授業が楽しいと言っているのですが、どのようなやり方をしているのかを教えてください」というものです。

 前にもお伝えしたように、私は昨年度から算数少人数の担当をしています。それで、担任の先生から質問を受けたのです。しかし、どのように説明すればいいのだろうと、考えてしまいました。同世代なので、上述したような授業の工夫は十分に行っているはずだからです。

 それで、自分なりに算数の授業を分析してみました。そして見えてきたことは、子どもたち同士のかかわりを作ることにこだわってきたということでした。私のクラスにやってくる子どもたちは、クラスもバラバラですし、単元ごとにメンバーが異なることも一般的です。その集団をどのように育てるかというのも、教師にとってはとても大事な仕事であると気付いたのです。

 前回にお話しした6年生の授業の例でも、仲間がいたからがんばれたという側面があったと思います。私はほとんど物を置いていない殺風景な教室で授業をしていますが、私のクラスに訪れた子どもが、「ああ、ふるさとに帰って来たみたいだ」という表現をするのです。そして、お気に入りの座席に仲良しの友達と並んで座り、楽しそうに学習をする姿もあります。

 そういう光景を見ていると、教師のやる仕事は、つくづく小さなことだなと思います。極端な表現をすれば、子ども同士をつなげ、仲間作りをしてやれば、子どもは勉強をするようになるのです。

 

 それは、この例に限ったことではありません。クラス担任をするたび、集団としての子どもたちの力に助けられてきました。私がやってきたことは、子どもたちがつながれるようにコーディネートしてきただけなのではないかとさえ思うのです。

 「所属感」という言葉があります。人は孤独でいることが、最も辛いと言います。ですから、ある家族の一員であるとか、クラスの一員であるという感覚は、生きていく上でとても重要です。命を守る大切な感覚なのです。

 ところが、家族を構成する人数も減り、社会の絆も弱くなっている昨今では、家族や社会の中での所属感を土台にすることが難しくなっているのかもしれません。ですから、学校が果たす役割はとても大きくなってきていると言えます。

 一昔前のように学級王国を作り、教師が自分のクラスの子どもたちの面倒だけを見ていればいいという時代は終わりました。学校全体で全員の子どもたちを育てていこうという気概がなければなりません。しかし、学校というのはとても大きな組織です。その中に学年があり、クラスがあり、例えば算数少人数クラスのような特別に作られたな集団があります。

 その中で、子どもたちが自分の居場所を居心地のいいものと感じ、毎日元気に登校できるようにしていく必要があります。そして、多様な個性をもった子どもたちのよさを認め合い、集団としての楽しさを感じさせていかなければならないのではないかと思うのです。集団がきちんとできていれば、先輩教師の言うように、最低限の説明で、授業は風を受けたヨットのように進んでいきます。

 

 最後に、別の先輩教師からの言葉をお伝えします。その先生とは研究会でご一緒し、とてもステキな家庭科の授業を拝見させていただいたことがあります。「おもてなし」を意識した授業での子どもたちの様子は、その先生の愛情に支えられていました。

「子どもたちは、家に帰ってもご飯も十分に食べられないことがある。もしかしたら、家庭や地域の中では幸せだと思うことが少ないかもしれない。だから私は、学校にいる間は、子どもたちが楽しいと思えるようにしてやりたい。」

 その先生は、家庭科の専門でもありましたが、もうひとつ文字の書き方を専門にしていらっしゃると聞きました。それを裏付けるように、彼女のクラスの子どもたちの文字は、まるでお手本ではないかと思うような丁寧なものでした。こういう指導もあるのかと、感動したのを覚えています。

 子どもたちが楽しいと感じるのは、遊び時間とか体育や音楽の授業とかだけではありません。学習に集中し、自信をつけていくこと、それを仲間と一緒にがんばっていくことも、楽しい時間のひとつなのです。そんな当たり前のことを忘れずに、これからもがんばっていこうと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop