2015.04.24
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よりよい授業を創るためにNO.5 「子どもたちに話を聞かせるために!」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 今年の春は天候が不順で、桜の季節も短く感じました。新学期が始まって3週間、そろそろ疲れが出てくる頃だと思います。ゴールデンウイークをめざして、あとひとがんばりです。

 
 さて、今回の話題に入る前に、私から若手教師のみなさんにメッセージをお伝えしたいと思います。と申しますのは、年度が変わり新しいクラスを受け持たれた先生も多い中で、身近にいる若手がとても悩んでいるのです。「これが本来の子どもの姿なのかどうかと迷う」、「どうしてこういう行動になるのか理解できない」といった内容です。
 
 私も若いころは同様の悩みをもちました。そのとき、先輩からこんなことを言われました。「自分が満足できるクラスにするには半年はかかりますよ。半年で軌道に乗れば上出来です」この話を聞いたときはそんなものなのかと思いましたが、何回もクラスを受け持ってみて、それが真実だなと実際に感じるようになりました。
 
 まずは夏休み前まで、情熱を失うことなくやってみることです。それまでには、くじけてしまいそうなこともあるでしょう。私は、「愚痴はいくらでも聞くからね」と若手に伝えるようにしています。誰かに辛い気持ちを吐き出し、「それでいいんだよ」と言われれば、またがんばろうという気持ちになると思うからです。それは誰であっても同様です。私も若手を支え、逆に支えられながらやっていくつもりです。
 
 
 では、本題に戻しましょう。前回、授業のルールを徹底し、集団として話を聞こうとする姿勢を作っていくことが大事であるというお話をしました。そこで今回は、耳からの情報を効果的に取り入れることができるようにするために、私たち教師がどのような方法で授業を行えばよいのかについて考えてみようと思います。
 
 最も気をつけてほしいことは、テンポのある話し方をするということです。メリハリがあることも大切です。同じ調子でずっと話し続けられると、大事なことを聞き逃すことは、誰でも知っていることだと思います。優しい語り口で話すことに注意を向けたために、声が小さくなったり、教師が伝えたい内容が届きにくかったりする姿を目にすることがあります。子どもたちの発達や、そのクラスの特徴に合わせて、話す速さやリズムを変えることができるように努めてみましょう。
 
 
 もうひとつは、耳からの情報だけでは受け取りにくい内容をうまく伝えるために、絵や図、映像を補足的に用いるということです。経験のないことを耳からの情報だけで理解するのは、誰にとっても困難なのです。視覚的な資料があれば、大人であっても理解が深まることを、私たちは潜在的に理解しているのです。また、授業や活動の流れをつかませるために、黒板に手順を書いて示す場合もあります。これも、ひとつの指示であれば覚えられても、複数の活動の流れを覚えきれない子どもには、とても有効な手法です。
 
 これらの手法は、特別に配慮の必要な子どもたちのために行うものではありません。多くの子どもたちが理解しやすい授業を心がければ、耳からの情報を受け取ることが苦手な子どもであっても、視覚的な情報を受け取りやすい子どもにも、安心して学校生活を送ってもらえるようになるのです。これが、ユニバーサルデザイン教育の考え方の基本であると思います。
 
 しかし、このような方法にも、落とし穴があることを忘れてはなりません。たとえ教師の話を聞き逃したとしても、黒板を見ればわかるような手法ばかりをとっていると、子どもたちの聞こうとする力を奪ってしまうことがあるからです。視覚的な資料は、あくまでも補足的な意味で使っていくのだということを、覚えておいてください。
 
 それから、耳からの情報を得るようにさせるためには、辛抱強くかかわっていくことが大切だということです。始業式に出会って自己紹介をし、自分が担任だと伝えたからといって、子どもたちがその教師の話を真剣に聞くことができるようになるわけではありません。その教師の声や話し方に慣れ、人と人とのかかわりができるからこそ、聞く姿勢ができていくのです。先生を好きになれば、子どもたちは先生の言うことに耳を傾けます。そのためにはまず、教師は子どもたちに愛情をもって接することです。
 
 また、子どもたちが耳からの情報をイメージ化できるように仕向けていくことにも、意識をはらってください。耳から聞く言葉の意味がわかり、文章の中身を理解できなければ、情報を取り入れたことにはならないからです。
 
 
 ところで、話を聞くことの土台は、就学前から培っていく必要があると考えています。具体的な例を挙げてみましょう。
 
 個人的な話になりますが、私が小さかったころ、世の中には爆発的にテレビが広がっていきました。前回の東京オリンピック開催を控えて、テレビを購入する家庭が急増したからです。そういったことも影響しているのか、私自身はラジオを聴くことが苦手です。耳からの情報だけでは、イメージを創りにくいのです。これは、テレビから映像を頼りに、情報を受け取るという方法に慣れてしまったためだと思われます。子どもたちが、テレビやゲームのような映像からの情報ばかりに囲まれて生活していると、耳からの情報が入りにくくなるのではないかと懸念されるのは、こういった理由からなのです。
 
 では、絵本はどうかというと、テレビのような映像とは意味が異なります。絵本の中に描かれている絵は、幼い子どもたちがイメージを作っていく上で、補足的な役割を果たします。動画のように絵が動くわけではないので、読み手は絵を自分の頭の中で動かし、イメージを広げていかなければなりません。イメージを創り上げていく上で、視覚的な情報は最小のものでいいということを示す、いい例であると思います。
 
 幼いころに絵本をたくさん読み聞かせてもらうことができれば、成長するに従って、絵がなくても自分でイメージを創り上げていくことができるようになるのです。読み聞かせを通して、耳からの情報を得ることは楽しいという経験を積み重ねることにもなるでしょう。
 
 それから、本を通して得る言葉の数を過小評価してはいけません。私たちが日常的に使っている言葉には、偏りがあるのです。読書を通して様々な分野の言葉を獲得することができるし、それがイメージを創り、概念を形成していく上で、とても重要な土台となっていくのです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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