2015.03.26
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よりよい授業を創るためにNO.3 「子どもたちとつながる授業を!」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回投稿させていただいた文章の末尾に、次回の予告として「聞く」をテーマにお届けする旨を書かせていただきました。そして、その原稿も書き上げていたのですが、今回はどうしてもお伝えしたいことができたので、そちらを優先させていただきます。
 
 と申しますのは、前回、子どもの願いを聞き入れつつ授業を行う必要があるという内容を書いたところ、授業にはコーディネートの力も必要だと気づかせてくださるような感想をいただいたからです。
 
 教師が、あらかじめこんな流れで授業を進めようと思っていても、子どもたちの発言次第では軌道を修正する必要が出てきます。軌道を変更するだけならまだしも、子どもたちから正反対の意見が出た場合には、時間をとって考えさせ、相互のよさを理解させたり合意を取り付けたりするような対応も大事になってくるのです。
 
 それでも、そういった時間が子どもたちを成長させるきっかけになるならば、教師は自分のやり方に固執することなく、柔軟に対応すべきだと考えます。教師の想定通りに授業を進められることの方が稀なのです。むしろ臨機応変な対応力が、教師には求められるのだと思います。
 
 
 さて今回は、私が授業をするにあたってとても苦労した例をお伝えしつつ、教師のコーディネートの仕方について考えてみましょう。
 
 あるとき、算数の習熟度別の授業で、算数を苦手と感じる子どもたちに復習をさせることにしました。子どもたちが食いつきそうな単元を想定して、そこから少しずつ復習をさせようと目論んだものの、何人かは思うように授業に集中してくれません。強制的に問題を解かせたところで、算数嫌いに拍車をかけることになるのは目に見えています。私はとても悩みました。
 
 授業が終わってから、その学年にかかわっている教師や管理職と話し合いを重ねました。「内容が難しすぎるなら、低学年の内容を教えてはどうですか」といった意見ももらいました。しかし、子どものプライドを考えると、低学年の問題を解かせたところで成果が上がるとは思えません。
 
 もう10年以上も前に、私は不登校を続けていた子どもたちの集まるクラスを担任した経験があります。そのときに、下の学年の内容を教えようとすると、彼らがいい顏をしなかったことが、ずっと心に残っていたからです。「どうせ、できないと思ってバカにしてるんでしょ?」とつぶやいた子どもの声も、明確に思い出すことができます。
 
 そこで、どうにかして学年相応の単元の復習を成立させることができないかと、試行錯誤しました。そのクラスを受けもって数時間目のとき、算数の学習に見向きもしなかった子どもが、「先生、それなら得意なんだ」と言いました。何気なく黒板に書いた数式に反応したのです。私はとても驚きましたが、「じゃあ、黒板に問題を書いてくれるかな?」と声をかけてみました。するとその子は、得意になって黒板に書いてくれたのです。しかも、「○○くん、解いてみてください」と教師の真似事を始めました。
 
 指名された子どもは、また問題を解いた後、次の問題を書いてくれました。そして同じように、次の友達を指名しました。そういったことが何回か繰り返されたときには、すべての子どもたちが満足した表情を浮かべ、「自分たちにもできる」といった思いを強くしたように感じました。その後、プリント学習を行わせたところ、意欲的に問題に向かうことができました。
 
 実は、この授業の成功の裏には、もうひとつ大切な条件がありました。私が悩んだ様子を汲み取ってくれた管理職と同僚が協力してくれ、そのクラスを5人で見ることができたのです。もちろん、主に授業を行っていたのは私なのですが、プリント学習に入ったときには、5人体制で子どもたちの指導に当たることができました。少しでもわからないところがあれば、傍にいる教師がすぐに応じます。また、子どもが問題を問いているそばから丸をつけていくので、子どもたちが「これでいいのかな」と不安になることも避けられました。
 
 私にとって、この授業は一生の思い出に残るものとなりました。授業のあと、とても楽しい授業だったという感想が、教師から寄せられました。子どもたちにとっても楽しかっただろうと思います。クラスに戻った子どもたちが、意気揚々と報告してくれたという話を担任から聞くことができたからです。
 
 「これは、ひとつの授業のモデルだと思います」と管理職から感想をもらいました。子どもたちの活動を通して復習をしたことがよかったし、教師がこまめに対応したことで自信をつけるきっかけになったという評価でした。そして、「これほど手厚い授業を、年間を通してできるとは思わないが、まとめの時期の数時間がこういった体制でできればいいですね」と言われました。
 
 今、多くの学校が放課後や夏休みに補充的な内容の授業を行っています。複数の教師が対応することで、子どもたちのやる気を支え、自信につながるような指導ができるという思いを、教師自身も強くしています。そういう意味でも、あの場にいた教師が、楽しい授業の本質を見極めてくれたならいいなと思っています。
 
 ただ、私の思いは別のところにありました。私は若い頃、「教師の仕事は水道管を張り巡らすようなものである。見えないところであっても、必ず子どもとつながることができる」といった教えをもらったことがありますが、この授業を通してまさにそれを思い出しました。
 
 もう手がないと思うようなことがあったとしても、教師が熱意をもって努力すれば、必ず道は開けるのです。子どもとつながることができるのです。無理矢理にではなく、お互いが気分よくつながることができるのです。
 
 ときに私たちは時間に追われ、力ずくでも自分の思うような方向に子どもを向かせようとしてしまいます。しかし、それがいい結果を生むとは限りません。学習は、子どもが主体的に意欲をもってやるときにこそ、身につくものだからです。
 
 
 さて、多くの小学校で卒業式が終わったことと思います。勤務校でも昨日、卒業式が行われました。昨年の4月から始めた算数少人数指導では、思春期に入った子どもたちへの対応に苦慮したこともありましたが、算数を通して子どもたちと仲良くなることができました。卒業生との別れに涙しました。
 
 来年度は、また新しい子どもたちとの出会いが待っています。子どもたちの気持ちに沿った授業ができるように、がんばっていこうと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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