2015.02.18
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よりよい授業を創るためにNO.1 「集団としての力を見抜こう」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 私は昨年から、ユニバーサルデザイン教育のあり方について書いてきました。この分野では、専門家の方々の尽力によって先進的な提案が行われていますが、それをわかりやすくお伝えするだけではなく、私の経験から有用だと思われることを付け加えてお話ししてきました。そして、ユニバーサルデザイン教育の第一歩として、学校や教室の環境を整えていくことが大事だということ、学校教育は家庭教育と連携していくものなので、家庭教育の環境も整えていく必要があることなどに触れてきました。

 今回からは、私たち教師が授業を行っていく上で、大事にしていくべきことをお伝えしていこうと思います。教師が何を考えて授業を行っていくべきかという内容のため、専門的なことに踏み込んでいきますが、教育に興味をおもちの方にも参考にしていただければ嬉しいです。

 

 さて、授業を行うにあたって、教師が最初にすべきことは何だと思いますか。子どもたちの顏を覚えること、名前を覚えること。これらも、確かにとても大切なことです。

 

 あるとき、私は異動したばかりの学校で、着任した数日後の遠足に引率する機会がありました。子どもたちを校外に連れて行くとなれば、校内で学習するときには想像もつかないような危険を想定しなければなりません。ですから、子どもたちの名前と顏を覚えきれるのだろうかと、ずいぶんと緊張したことを覚えています。

 

 このような例は珍しいと思いますが、名前を覚えることが大事であることは言うまでもありません。子どもたちが教師に名前で呼んでもらうことほど、安心なことはないからです。名前を呼び合うことによって、人と人との距離が急速に縮まっていくという経験は、誰もがもっていることだと思います。

 

 しかし、授業を行うにあたっては、名前を覚えることと同様に大切なことがあります。それは、子どもたちの集団が、全体としてどの程度の学力を身に付けているのかを把握することです。その集団がどのような活動ができるのか、どのような学習ならやっていけるのかを、なるべく早い段階で見極める必要があるのです。

 

 私は昨年の4月から、算数少人数指導の担当となり、単元が変わる度に指導する子どもたちの集団も変化するという状況に置かれました。何しろ2週間に一度の割合で受け持つ子どもたちの顔ぶれが変わっていくのですから、その集団ごとの学力を把握することの難しさを、嫌というほど味わわされてきました。

 

例えば学年の担任から、「今回は、発展的な学習内容を教えてください」といった形で依頼を受けることがあります。そのとき、おそらくは算数の得意な子どもたちを担当することになるのだろうということは、理解できます。しかし、その子どもたちにとってどのような授業形態がふさわしいのか、どういった問題に興味を示すのかということは、「算数が得意」という表現の中から読み取ることはできません。

 

 3~6年生の4学年を担当して感じることは、それぞれの学年のカラーが全く異なるということです。例えばある学年は、自分の考えを発表することが苦手な子どもたちが多いため、問題の解き方を考えて、発表し合うような授業は向きません。逆に、ノートのまとめ方はとても丁寧なので、一人一人がしっかりとした学びを築いていこうというよさがあります。そういった特徴の学年では、別の方法で多様な解き方を共有していけるような工夫が必要になりますが、一方で要点を明確にしたノートを作らせていくことを通して、知識を確実なものにしていくことができます。

 

 また、ある学年は、様々な考え方を発表することが得意です。発展的な問題にも果敢に向かっていこうとするエネルギーを感じます。しかし、丁寧さに欠けることがあるので、ワークテストではケアレスミスに注意させる必要があります。

 

 学年の特徴も千差万別ですが、習熟度によるクラスの集団の力も様々です。問題を短時間で正確にこなしていくことができる集団のときがあれば、一人一人に声をかけて、じっくりと問題を解かせていく方が力を引き出せる場合もあるのです。

 

 算数を例に挙げましたが、これはどのような授業であっても同様です。同じ2年生であっても、漢字の学習ノートを1ページ仕上げるのに15分間もあれば十分なクラスがある一方で、45分間の授業を丸ごと使っても終わらないクラスもあるのです。

 

 私たち教師は、学習指導要領に沿った内容を、教科書を使って教えています。ですが、授業をビデオに録画して見せても意味がないのです。なぜなら、子どもたちの個性や、集団としての力に合わせた授業を行うには、目の前にいる教師がときと場合に応じて授業を展開していく必要があるからです。

 

 私は学生のころ、教師というのは毎年同じようなことを繰り返しているだけだと勘違いをしていました。25年にわたって教師を続けてみてわかったことは、一度として同じ授業はできないということです。

 

 子どもたち一人一人の個性を生かすと同時に、子どもたちの集団としてのよさを見極め、その集団の力を育てていくような授業ができるように、日々努力していかなければなりません。 

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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