2015.01.30
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教育現場からのリポートNO.18 「早寝・早起き・朝ごはん」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 寒さ厳しい時季になりました。都会の駅のホームは、とても冷え込んでいます。福島で暮らしていたときの寒さとは異なった感じ方があるのだと、電車を待つ度に思い起こしています。

 いつも自分自身の例を出して恐縮ですが、更年期を迎えている私は温度や湿度の変化に敏感です。こういった冷え込んでいるホームに立っているのもきついのですが、もっと困るのは混雑した電車内です。コートの着脱はできなくても、せめてマフラーをつけたり取ったりという方法で体温を調節したいのに、込み合った電車内では思うように身体を動かせません。なるべく自身の面前を開けるためにドアの横に立つようにしているものの、ときには暑くて苦しくなることがあります。体温調節にこんなにも苦労することがあるとは、この年齢になるまで思いもしませんでした。

 私の体温調節メカニズムとは異なっているのかもしれませんが、温度や湿度に敏感な子どもたちがいます。気温や湿度がわずかでも高くなるとイライラする子どもたちがいるのです。季節の変わり目には、そういったことをよく目にしますし、天候の変化に左右されることもあります。子どもたちの学習環境を整える上で、気温や湿度が関係していることも忘れずに、配慮してみてください。季節柄、インフルエンザ等の流行しやすい時期でもあります。換気に気をつけ、できれば加湿器を上手に利用していきたいものです。

 

 さて、私はこれまで、環境という側面から学校や教室のあり方について述べてきました。整理整頓のゆきとどいた教室にしていくこと、視覚的に注意散漫になってしまうような環境を排除すること、静かな環境で学習させるようにすることなどです。上述したように、気温や湿度への配慮が必要なこともお伝えしてきました。

 今回は、家庭に協力していただくべきことについて、お話しさせていただきます。

 

 先日、ある自治体が運営している療育センターを見学させていただきました。続いてその施設のスーパーバイザーをなさっている、東京学芸大学の菅野敦教授のご講演を伺うことができました。菅野先生は、「早寝・早起き・朝ご飯」という習慣を作ることが、生活リズムを整え、活動を促し、発達を支える上で最も重要なことだと強調されていました。そして、ご自身が保護者の相談に当たるときには、子どもが何時に起きているのか、朝ご飯を食べているのかを、とても気に懸けているとおっしゃっていました。

 「早寝・早起き・朝ご飯」という標語を、最近よく耳にします。みなさんは、この標語を見たり聞いたりされて、どのような感想をもたれますか?「そんな簡単なことを、改めて言う必要はない」と思われるなら、とても素晴らしいことだと思います。しかし、「そんなことを言われても、帰宅が遅くて、なかなか思うようにできない」と思われる方の方が多いかもしれません。この一見簡単にできると思われることを続けること、それを子どもたちに続けさせることは、意外と骨の折れる仕事です。

 簡単そうにみえる習慣づけですが、多くの専門家がこれらの習慣は学力にも影響を与えていると指摘しています。早起きをしてご飯を食べて登校することができれば、身体が学習するための準備を整えていることになり、学習したことが身につきやすくなります。それは、子どもたちへの調査などでも明らかになってきています。また、この習慣が身につかないことによって、深刻な問題を抱えることにもなりかねません。例を挙げてお話ししましょう。

 子どもの中には、早朝に起床することができずに、学校を休みがちになるケースがあります。保護者の方の中には、「起きられそうもないので、今日はお休みします」という電話を寄こされることがあります。明らかに体調が悪いときには欠席すべきですが、起きられないことだけが理由で欠席するというのであれば、それでいいのかなと考えさせられます。起きられないのは、早く寝かせていないのではないかと疑問に思うのです。そして、起きられないことが理由で休むことを続けていった場合、将来はどうなるのだろうと心配になってきます。私たち教師が家庭のことに口出しすることはめったにありませんが、学校からも積極的に「早寝・早起き・朝ご飯」を呼びかける時期にきてしまったのだなと痛感させられます。

 もちろん、この習慣は、不登校を予防することだけに有効なのではありません。もうひとつ、子どもたちがギリギリの時間に起き、朝ご飯も食べられずに登校した場合を考えてみましょう。寝起きの悪さや、空腹感によってイライラした場合、それは学力の低下に結びつくばかりではなく、友達関係の構築にも影響を与えます。子どもは大人のように、相手のイライラの原因を推察して思いやるとか、距離を置くといった対応ができるわけではありません。そのため、友達とのトラブルが起きやすくなりますし、その結果として友達ができずに疎外感を強めてしまうこともあるのです。

 子どもたちの生活の場は、家庭や学校だけでなく、社会にも存在しています。その中で、どのように環境を整えていくかべきかを、大人はもっと真剣に考えなければならないと思います。それは子どもたちのためばかりではなく、大人にとっても大切なことだからです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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