2015.01.16
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地域でできること、地域だからできること <学習支援教室の開催>

NPO法人まどり 代表理事 水木 千代美

小学生の勉強時間 中学生の勉強時間 

 日本の子どもの6人に1人は貧困

 日本の相対的貧困率は16.1%、17歳以下の子どもの貧困率は16.3%であり(※1)、日本の子どもの相対的貧困率は、OECD35か国中、9番目に高い貧困率です(※2)。1人当たりのGDPが高い、先進諸国20か国の中では、日本はアメリカ、スペイン、イタリアに次いで4番目に悪く(※3)、再配分後も貧困率はわずかしか改善されていません。高校卒業生の大学進学率は、2012年3月時点で54.3%と約半数が大学に進学しますが、児童養護施設卒の大学進学率は11%止まりです(※1)。学歴と雇用、成績と年収が比例するデータも出ています(※4)。
 
 平均世帯年収557.8万円における在学費用の割合は、平成24年度で38.6%、215万円にも上ります。年収階層別在学費用と世帯年収に占める在学費用の割合は、年収200万円以上400万円未満の家庭では58.4%を占めます。平均年収が正規雇用で467万円、非正規では168万円、母子家庭では220万円という現状で、母子家庭や児童養護施設の子どもたちが、大学に進学することが非常に難しいことがわかります(※5)。学習環境においては、決して先進国ではないのです。
 
出展:※1:厚生労働省(2012)、※2:世界こども白書(2012)、※3:ユニセフ(2012)、※4:総務省、※5:日本政策金融公庫(平成24年度)
 
各地ではじまっている学習支援
 貧困の連鎖を断ち切るために、国も対策をはじめています。2014年度までは、厚生労働省のセーフティネット支援対策事業費補助金で、生活保護世帯の子どもたちを対象とした学習支援は100%国の負担で実施することができ、一部の自治体ではありますが、実施されてきました。来年度以降は、子どもの貧困対策法の施行により、生活保護家庭に限らず、困窮しているすべての子どが対象となります。しかし、補助割合は国負担が50%とになり、自治体 が50%の負担をしなければならなくなります。
 
 厚生労働省のセーフティネット支援対策事業費補助金での学習支援の実施に対しては、この補助金がなくなったらどうなるのだろうと危惧していましたが、実際に来年度以降の開催が未定の自治体もあるようです。他、開催されていない地域の子どもたちはどうなるのだろう、生活保護受給家庭の子どものみが対象というのは、生活保護受給家庭以外の、対象に値する子どもが漏れてしまう可能性があるのではないだろうか、生活保護世帯であるとわかってしまうことを躊躇し、学習支援をうけない子どももいるのではないだろうか、少なくとも私が中学生だったら嫌で通わないかもしれない、などの思いが過ぎりました。
 
 また、多くの教室は大学生などのボランティアに支えられていることも気になっていました。日本の大学生の奨学金受給率は5割を超え、その約7割が有利子の奨学金を利用しています。中学生に勉強を教えることができる学力を持つ大学生は、一般の学習塾の講師をすれば、それなりの時給をもらえる学生です。その学生たちを、無償や交通費のみの支給で協力を得るということにも違和感を持っていました。たとえ大学生がボランティアに納得していたとしても、大人が大学生に甘えている構図では、ボランティアも広がらないだろうし、継続が難しいのではないかと考えていました。これらの問題を解決できる学習支援の仕組みをつくらなければ、奉仕の精神を持つ大人が実施する学習支援がある地域の子どもたちしか救われないことになってしまう、それでは必要としている子どもたちの成長に、間に合わないと思ったのです。
 

2013年の夏休みに無料教室を4日間試行

 学習支援の仕組みづくりを行うため、独立行政法人福祉医療機構の助成金(WAM)に応募したのですが、不採択。しかし、大阪府箕面市で活動されているNPO法人あっとすくーるさんが、「地域に学習支援のニーズがあるか、無償でいいので、まずは夏休みにお試しでやってみましょう」と言ってくださり、2013年の8月に、「夏休みの宿題応援」教室を4日間開催しました。小学生は16~18時が勉強時間、18~19時はみんなで晩御飯の時間、19~21時が中高生の時間です。4日間の参加延べ人数は、小学生25名、中学生10名、高校生13名でした。
 
 この4日間は、大学生に時給はお支払できなかったのですが、コミュニティカフェ「さたけん家」※6のスタッフ手作りの晩御飯を食べてもらいました。参加した子どもたちにも、希望者には300円で晩御飯を提供しますと告知したところ、ほぼ全員が申込み、大学生の先生と楽しい夕飯の時間となりました。ご飯を食べる、などの生活の一部を共有する時間は、人と人の距離を縮めてくれる要素だと実感しました。この体験は、その後の活動にも影響していきます。
 
※6:詳細は、地域でできること、地域だからできること(2)に記載
 

「人の縁」で無料学習教室が実現

 夏休みの無料教室でお手伝いいただいた、あっとすくーるさんは、主に1人親家庭の子どもの支援を行っているNPO法人です。その思いにも応えたいと思い、吹田市母子寡婦福祉会とつながりのある友人に、夏休み無料教室の広報をお願いしたことが縁で、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の助成金を受けた大阪市内のNPO法人さんとつないでいただくことができ、秋からの半年間、無料学習支援の教室を実施できることになりました。学習支援の仕組をつくるチャンスをいただけたのです。
次回に続く。
 
 
 
【写真の説明(左から)】
・小学生の勉強時間
・中高生の勉強時間
・みんなで晩御飯

水木 千代美(みずき ちよみ)

NPO法人まどり 代表理事
次世代にmよりよい環境を引き継ぐためのNPOを運営しています。地域の皆さんと、「地域で子育て」を日々行っています。"普通のおばちゃん"の活動をお伝えしていきたいと思っています。

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