2015.01.13
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教育現場からのリポートNO.17 「保護者の心に寄り添って」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 みなさまお揃いで、よき新年をお迎えのことと思います。今年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 昨年は、教育の環境を整えるために、とりわけ教室ではどのような工夫が必要かを考えてきました。室内が整理整頓され、換気が十分に行われていることは、冬場の風邪などの流行を抑えるためにも大切なことです。大掃除を通して整った環境を、維持していくことができるようにがんばっていきましょう。

 それから視覚や聴覚から得る情報が多すぎる場合には、授業に集中できないこともあるので、適宜制限をかける必要もあるというお話をしてきました。黒板の周囲に気が散りそうな掲示物がないかどうか、黙って話を聞く姿勢ができているかどうかなどを、新学期をスタートさせるにあたって、子どもたちと確認するのがいいかもしれません。

 さて、今回はユニバーサル教育のノウハウのお話からは少し離れますが、年の初めということで、保護者の心に寄り添うということを、改めて考えてみたいと思います。

 

 私事ですが、私には3人の子どもがいます。一番上の子どもは男の子です。彼は、既に成人して働いています。本人は気にしていませんが、実は幾分背丈が低めです。20歳のころ、私は低身長ではないかとか、大きな不安にかられました。私の亡くなった父の身長を考えれば、遺伝的に見ても仕方のないことだと思い返されるのですが、当時は世間一般の若者と比較して、我が子だけが特別に見えて仕方がありませんでした。

 そのため、彼を一人前に育てられなかったのは私のせいではないかと責めた時期がありました。もともと私は身体が丈夫な方ではなかったので、十分に母乳が出なかったのかもしれません。彼はどちらかというと病弱で、アレルギーをもっていたので、ミルクを飲ませることができず、母乳だけで育てたからです。子供の頃はアトピーだの喘息だの、あるいは強烈に下痢をするだのといった症状に悩まされ、いつも小児科のお世話になっていました。私が仕事にばかり熱中していて、ご飯をきちんと作ってやらなかったのではないかと思い悩んだ時期もありました。母親とは、そういう生き物なのかもしれません。

 男の子を育てた経験のある方は、女の子と比べて育てにくいと感じられるかもしれません。昔から一姫二太郎と言われるのは、女の子の方が育てやすいので、子育てに不慣れな親には、まず女の子をという考え方があったのです。うちの長男も、まさに育てにくい子どもだったのだと思います。

 

 

ところで、これを読んでくださっているみなさんは、長男が成人して曲がりなりにも就職していることを知れば、私が親バカであるとか、心配のし過ぎだと思われるでしょう。確かにその通りかもしれません。亡くなった母も、そういうことを私に指摘することが度々でした。

 私が悩んだ背景には、社会における価値観の未成熟さも関係していたように思います。私が若いころは、まだ社会の中で子育てをしていた時期だったので、多くの人が私の子育てに声をかけてくれました。それはそれでいいことでもあった反面、苦しめられたことも幾度かありました。例えば、赤ちゃんの髪の毛はとても軽く、静電気でフワッと逆立っていることがあります。あるとき、「この子の髪の毛が逆立つのは、母乳の栄養が足りないからだ」と言われたことがありました。長男が左手でおせんべいを食べているところを見て、「右利きに育てたいなら、おせんべいを右手で持たせなさい」と叱られたことすらあります。

 若い母親にとって、子育てをすることは不安でいっぱいなのです。祖父母が傍にいて一緒に子育てにかかわり、「大丈夫だよ、お前の小さいときも同じだったよ」というような言葉かけをしてくれるのであれば、それはとても素晴らしいことです。しかし、多くの母親は、「よその子どもと比べて、我が子はちゃんと育っているだろうか」という不安をもつのです。そして、少しでも違っていたり劣っていたりすることがあれば、自分のせいではないかと責めてしまうのです。保護者にはそういった心理が少なからず働いていることを、私たちは認識しておかなければなりません。

 

 私たち教師は、子どもたちの様子を見ていて、心配に感じることがあります。例えば、じっと座っていることが苦手だとか、友達とのかかわり方が不器用でけんかが絶えないといったことです。その実態を個人面談や連絡帳などでお知らせすることはとても大事なことですが、一方で不安を煽るようなことがあってはなりません。どのような対応が好ましいのかを十分に伝え、よい変化があったら、それも必ず知らせていくことが大切です。保護者が安心感をもって子育てをすることができるように支えるのも、これからの学校の務めではないかと思うのです。

 子どもたちは、一人一人それぞれに異なった課題をもっています。完璧な子どもはいません。その課題について教師がきちんと見極め、課題を克服していったり、あるいは得意なことを伸ばして弱い部分を凌駕していったりすることができるような働きかけをしていく必要があります。子どもたちは発達の途上であることを、よく理解しなければならないのです。発達途上であるということは、可能性が大きいことを意味するからです。そして、その可能性を広げることができるのは、教育の力であるといえます。

 

 学校という場は、教科書通り授業を行うだけの場所ではありません。子どもの人としての成長を促す場でもあるのです。ですから、教育の質を高めることに、制限はないのです。私自身も初心を忘れず、今年も成長できるように努力していこうと思います。

 みなさまにとっても、すばらしい一年となりますように、祈っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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