2014.12.25
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教育現場からのリポートNO.16 「耳からの情報を得ることができるように(1)」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回まで、教室の環境をどのようにすることがいいのかについてお話ししてきました。特に、子どもたちを授業に集中させるためには、黒板周辺の掲示物などを一時的に隠すような仕掛けを行い、視界に入るものを制限する必要もあること、子どもたちの生活空間としての学校や教室には、長時間をリラックスして過ごすことができるような工夫も必要であること、そして何よりも、学校や教室が整頓され、換気が行き届き、気分よく生活できる環境であることが大切だということをお伝えしてきました。

 また、1000ピースのパズルを使って、自閉的な傾向のある子どもたちと仲良くなった経験についてもお伝えしました。

 今回は、学校の中での「音」という側面から、教育環境について考えていきましょう。

 

 ところでみなさんは、話を聞いて勉強をすることが得意でしょうか、それとも文字を読んで学ぶ方が得意でしょうか。耳からの情報を得やすい場合を聴覚優位、目から情報を得やすい場合を視覚優位と呼ぶこともありますが、多くの場合は、それらを耳も目もバランスよく使っているに違いありません。

 先日、私が主催する勉強会において、若手と一緒に自分たちがどのような情報の受け取り方をしているのかを分析してみました。実のところ、私は目から受け取る情報に弱いところがあります。特に、説明書や解説書の類から、必要な情報を得ることが苦手です。実際にやってみせてもらうとか、説明をしてもらう方が理解しやすいのです。

 ところが、ある女性は、耳からの情報だけでは不安だと言います。もう一度文章を読み直すとか、録音させてもらって聞き直すことをしないと、理解できていないのではないかと思ってしまうのだそうです。一方、男性の一人は、何事も勘にたよっているので、聞き逃しても不安ではないし、読み返そうとも思わない。適当にやっているうちに、何とかなると思っていると言っていました。情報の受け取り方にも、個人差があるのだなと考えさせられました。

 一説によると、人は必要とする情報の90%くらいを、耳から聞き取ることによって得ているそうです。確かに、私たち教師が授業をするときには、言葉で説明することによってイメージや知識を伝えることがほとんどです。もちろん、話だけで伝わりにくいことを絵や画像で補ったり、黒板に図式を書いて示したりすることはあります。しかし、それらは補足的なものであって、実際には多くの情報を耳から受け取ることができるように仕向けているのです。ですから、教室環境を整えるにあたって、「音」に注目することはとても大切だと言えます。

 

 では、耳から情報を受け取らせていくには、どのようなことに気をつけなければいけないのでしょうか。まず、教室は静かであることに越したことはありません。学校の立地によっては、道路を通行する車の音が聞こえやすいということもあるでしょう。電車の通行音がうるさいかもしれないし、あるいは飛行機が発する音が大きく聞こえる地域もあるかと思います。そういう社会的な環境に囲まれていたとしても、教室内が静かである方が好ましいことは言うまでもないのです。

 しかし経験上、建物の外部から聞こえてくる音というのは、それほど大きな問題にはならない場合が多いようです。「窓際のトットちゃん」には、黒柳徹子さんがチンドン屋さんの音に引き寄せられるシーンが描かれていますが、そういった外の音に子どもたちが反応することはマレです。むしろ、教室内で誰かがおしゃべりをしているとか、物音を立てているとかの方が、授業の妨げになるのです。

 私は今、算数少人数の授業を担当しているので、クラスの担任をしていたときとは勝手が違い、黙って話を聞くという姿勢を育てるのに苦心しています。それは、子どもたちが私の話し方に慣れるのに、時間がかかっているためかもしれません。いつもは担任の声や話し方で授業を受ける時間が長いので、普段かかわりの少ない私の授業に慣れるのは、子どもにとっても大変なことのです。また、クラスを解体して習熟度別のクラス編成を行っているため、別のクラスの友達とついついおしゃべりをしてしまうという姿もあります。

 しかし、そういった理由を差し引いても、おしゃべりをやめることが苦手な子どもたちが増えているように感じます。さらに、子どもたちを観察していて不思議に思うのは、「黙って話を聞きましょう」と指導すると何とか黙ろうとするのですが、今度は机を叩いたり足を揺すったりして、別の音を出そうとする子どもがいるということです。これは、特定の子どもたちに限ったことではないので、由々しき現象であると思います。いつもテレビやゲームなどの音に囲まれた生活をしているため、静寂な空間が苦手になってきているのかもしれません。

 このような実態があるにせよ、学校には授業規律があり、授業中は黙って話を聞くとか、発言するときには手を挙げて指名されてから行うといった決まりごとを教えていかねばなりません。それができないと、授業の効率が下がるばかりか、一部の子どもたちにとっては苦痛になってしまうことがあるからです。極端な例では、DVを受けた児童の中には、大きな声や音に敏感に反応してしまい、恐怖感すら覚えることもあるようです。また、音に対しての苦痛が大きい子どもがいる場合、運動会の徒競走では、ピストル音を用いない配慮を必要とすることもあります。

 

 視界に入るものは、選択することや制限することが容易です。しかし、耳から入る声や音は、全体に対する影響力があるということを、教師も子どもも意識していかねばなりません。ですから、音がないと不安だからという理由で、不要なおしゃべりをしたり、音を出したりすることがないように、指導を積み重ねていく必要があるのです。

 では、耳からの情報を得るために、どのような指導をしていく必要があるのでしょうか。それについては、次回、お話しさせていただきます。

 

 さて、今日はクリスマスですね。あっという間に年末を迎え、一年の過ぎるのが早いと感じられます。

 私はこの4月から、発達障害を含めた困難さを抱えた子どもたちをどのように捉え、どのように支援を行っていけばいいのかについて、書き進めて参りました。しかし、今回を含め15回程度の投稿では、到底語り尽くせるものではありません。

 特に、ユニバーサルデザイン教育を視野に入れ、インクルーシブな教育を意識して、現場でどのような教育を行っていくべきかについては、今後詳しくお伝えしていかなければならないと考えています。今後も、有用な情報を提供できるように努めて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 最後になりましたが、今年一年、読者のみなさまに支えていただき、ありがとうございました。どうぞよい新年をお迎えください。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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