2014.11.19
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教育現場からのリポートNO.14 「教室環境を見直そう」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回、教室環境を整えるにあたって、小さなゴミの扱いにも気を配り、分別のルールを守っていくことの大切さについてお話ししました。他界した私の父は、退職してから畑仕事をよくやっていて、畑にビニールゴミが入り込むことをとても嫌っていました。土に還らないものを、むやみに捨ててはいけないという考え方を、私は父から教わったのだと思います。ですから、教室の中に、ゴミが散乱している様子を見ると、とても悲しくなります。それが風によって校庭に出て行ってしまったら、誰が拾うのだろうということも気になります。土に還るものならまだしも、ビニールなどは、誰かが片付けなければ環境を汚してしまうだけです。そういったことも、子どもたちに伝えていけたらいいと思っています。

 さて今回は、教室環境を子どもたちの視点から考えてみましょう。ひとつは、視覚から入ってくる情報という点、もうひとつは、空間という点から捉えてみたいと思います。

 

 

私は今年度、算数少人数の指導を担当しているため、クラス担任をしていません。教える場所は、算数専用の教室です。ですから、そこには生活感がまったくないのです。机の横に荷物がかかっているわけでもなく、ロッカーには何も入っていません。掲示板に余計なものは貼っていないし、子どもたちの視界に入るものは、教室の構造となっている壁や黒板だけと言っても過言ではない状況です。

 その中で、子どもたちが唯一気になるのが、大きな三角定規と分度器です。黒板の下の部分に掛けてあるのが目に入り、どの学年の子どもたちもそれを使ってみたくて仕方ないようです。それから、黒板に書くためのコンパスが置いてありますが、それを使ったらどのように円をかけるのかに興味津々です。多くの子どもたちが使わせてほしいと言ってきます。子どもたちは、大人が意外と思うものにも注意を向けてしまうのだと気付かされる、いい例だと思います。

 ユニバーサルデザイン教育を研究されている学校では、授業中に子どもたちの視界に入ってくるものを制限しようという試みが行われています。黒板の周囲にある色とりどりの掲示物を、授業中は視界に入らないようにカーテンなどを取り付けて隠しておこうという考え方です。

 授業をしていて最も難しいと思うことは、話をしている相手にまなざしを向けさせるということです。教師が話していれば教師に、黒板を指し示していれば黒板に、友達が意見を述べていれば友達にまなざしを向け、耳を傾けさせるということが、学習の土台になるからです。その基本的な姿勢を作っていく上で妨げになるのであれば、視界に入るものを制限していく必要があります。

 

 ちなみに、話をする相手の意図する場所に、共に注意を向けることを、ジョイントアテンション(共同注意)と呼ぶそうです。例えば、博物館などで案内を聴きながら見学するときにも、説明者の意図するところに自然とまなざしを向けています。この「自然と目を向ける」ということを、学校では意識して教育していく必要があります。

 ただ、まなざしを向けることが苦手な子どもたちは、教室の掲示物に興味を示すというよりも、友達の表情や仕草に気を取られてしまうこともあるようです。「友達を見るのではなく、前を向いて座っていようね」と声をかけて最前列の席に座らせていたとしても、すぐに身体が横向きになってしまったり、後ろにいる友達を気にして振り返ってしまったりすることがあります。

 個に応じた支援の仕方に、これといった決まりはありませんし、特効薬のような方法もありません。クラスの集団として学習のための基本的な習慣を作っていくとともに、特別な支援の必要な子どもたちがいる場合には、その子どもたちに応じた工夫を行っていってほしいと思います。

 また、子どもたちのまなざしを向けさせるためには、視界の工夫だけではなく、聴くことの環境や、学習に対するモチベーションの問題などもありますので、それらのことについては、今後お話ししていく予定です。

 

 では、ふたつ目の空間の話に移りましょう。私の教室に来て子どもたちがよくやるのが、後ろのロッカーに入り込むという遊びです。その教室は以前図書館として使われていたので、ランドセルを入れるような小さく区切られたものではなく、上下二段の本棚のようになっています。そこに入って寝転がり、「マンションごっこしよう」と言い出すのです。4人しか入れない場所を取り合うこともあります。特に気に入っているのが、3年生の男子で、授業が終わるといつまでも遊んでいて、次の授業に間に合わないからとせき立てることもしばしばです。

 そんな様子を6年生に話したら、彼らも真似をして入り込み、楽しいと言い出す始末です。狭いところに入って遊ぶという経験がなかったのかなと思いますし、普段と異なる空間に入り込むのは楽しいのだろうと見守っている毎日です。私が子どものころなら、押し入れに入って遊んだものですが、今はそういう環境がないのでしょう。

 さて、今回なぜこのようなお話をさせていただいたかと申しますと、ずいぶん前に読んだ本の中に、おもしろい内容があったのを思い出したからです。ある学校では、新しい校舎に改築した後、トラブルが増えたとありました。古い校舎では廊下に適度な曲がり角があり、死角になる部分があったのに、新校舎ではどこにいても見渡せる環境になってしまったからだというのです。

 こういった環境を考えるには、注意も必要になるでしょう。学校に死角をたくさん作ってしまうと、不審者が入り込むスキを作ることになってしまうからです。不審者対策には、誰からも見通せる環境が大事であることは言うまでもありません。

 しかし一方では、子どもたちがたまには人目を気にせずに過ごす環境も必要だということです。もちろん、そういう場所を作ったせいで、いじめの温床になるようであっては逆効果になります。でも、最近の新しい校舎のいくつかを見せていただくと、廊下の突き当たりに、子どもたちが座って話ができるベンチが設置されている学校もあり、とてもいいことだなと感じます。長い学校生活を送る上では、ほっとできるスペースがあってもいいのだと思います。そこで緊張をほぐすことによって、8時間近くにもわたる学校生活を楽しく過ごせるようになるのです。

 私が以前担任したクラスでは、人数が20数名と少なく、教室も大きめに作られていたため、教室後方の広いスペースに余分な机を4つ合わせて、誰でも過ごせる場を作ったことがあります。休み時間に友達とお絵描きや折り紙をしている姿もありましたし、話し合いの場として活用させたこともありました。そして、ときには算数の苦手な子どもたちを集めて勉強をさせることもありました。簡単にできる有効な方法であったと思います。

 

 みなさんもぜひ、子どもたちの視界に入るものが学習の妨げになっていないかどうか、空間が心地よいものになっているかどうかについて、見直してみてください。そして、気になることがあれば、工夫していってほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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