2014.09.04
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教育現場からのリポートNO.10 「心理テストを生かすために」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回まで、学校生活において何かしらの支援をする必要があると感じた子どもたちがいた場合、その保護者にどのように伝えていけばいいのか、また、保護者との信頼関係ができた段階で、アセスメントをどのように勧めていったらよいのかについて考えてきました。

 

 今回は、アセスメントをとるときに用いられることの多い心理テストについて、お伝えしていこうと思います。前回にもお伝えしましたが、アセスメントというのは、子どもたちの様子を観察したり検査したりすることによって科学的な結果を求め、それを学校や家庭での教育やかかわりに生かしていこうとするものです。ここで申します「科学的」というのは、例えば親の育て方や担任との相性が子どもたちの困難さの原因ではなく、もっと客観的に原因となるものを探っていこうとする意味をもっています。

 

 ですから、アセスメントをとる方法は、心理テストに限ったものではありません。授業中の学習の様子を観察して、実際に何が困っているのかを明確にしていくことも、大事なアセスメントであると言うことができます。

 

 また、前回からの繰り返しになりますが、この心理テストを受けさせることそのものが目的ではありませんし、その扱いには十分な注意が必要です。ですが、こういったテストによって子どもたちの課題を把握できるのは事実であり、子どもたちを取り巻く大人が共通理解をもって支援に当たることができるようになることを考えれば、テストを受ける意味はとても大きいと考えます。

 

 さて、アセスメントをとる目的で作られている心理テストの内容については、公開されることはないということを知っておかなければなりません。なぜなら、このようなテストは検査のためのものであって、トレーニングをするために作られたものとは種類が異なるからです。

 

 例えば、学力テストであるならば、終了後に内容を公開されるのが一般的です。それを見ることによって、次年度に向けた対策に活用していくことができます。分数のわり算が出題されていることがわかれば、類似した問題を練習して準備することに意味があるからです。

 

 一方で、もし、心理テストを練習してしまったとすれば、正確な結果を得ることは困難です。問題に慣れて高得点を取ることが目的ではないからです。そのため、同じ子どもにテストを受けさせるときには、一定の期間を空けなければならないとされています。そのような理由から、テストの具体的な内容に触れることができないということを、ご承知おきください。

 

 そうはいっても、心理テストというものがどのようなものであるかを知っておくと、保護者の方にも受け入れやすくなるのではないかと私は考えています。そこで今回は、ふたつの例を通して、心理テストが読み取ろうとしているものをお伝えしていこうと思います。

 

 ひとつ目の例です。教師が大勢の子どもたちに向かって説明した中身を、たいていの子どもたちは受けとめられるのに、特定の子どもは理解できないというケースを想定してみましょう。

 

 その際、教師は、その子どもが耳で聞く力が弱いのか、聞いた内容を理解できなかったのか、内容が多すぎて記憶できなかったのかなどと原因を考えます。そして、どのようにしたら理解できるのかと、試行錯誤を行います。その結果、どうも理解することに課題がありそうだとわかってくる場合があります。また、たくさんの指示を受けとめきれずに、忘れてしまうようだと感じることもあります。

 

 しかし、それを保護者に伝えたとしても、それが科学的な根拠となるには難しい場合もあります。教師の説明の仕方が我が子に合っていないのではないかと思われても、仕方のないことだからです。

 

 もうひとつの例です。その子どもは、言葉を巧みに使って話をすることができるし、計算も得意なのに、漢字を正確に書くことが苦手です。読むことができる漢字であっても、書かせてみるとどこかの画が抜けてしまいます。保護者の方は、漢字のテスト前になると必死で家庭学習をさせてくれるのですが、テストでは成果を出すことが難しいといったことが続きます。

 

 このような場合も、周囲の大人が子どもの困難さを理解することは、とても難しいものとなります。知的な面で問題がないのに、漢字だけが書けないのは、本人の努力不足であると考えてしまうからです。

 

 心理テストは、このような子どもたちが、どのような点において課題を抱えているのかを、明確にする手がかりとなってくれます。言葉の理解に課題があるのか、記憶する力が弱いのか、受け取った情報を使って行動に移すことが苦手なのかなどを、その結果から読み取ることができるからです。

 

 私たち教師が子どもたちと向き合い、学習や学校生活を送る上で心配なことを保護者のみなさんにお伝えし、ここで説明をしたようなアセスメントをとることをお勧めするのは、子どもたちの教育的ニーズに応えたいという熱意であるとご理解いただけると思います。子どもの困難さを明確なものにして、それを支援できるような方法をとっていくことが、とても重要なのです。それが、子どもたち一人一人に即した発達を促すことにつながるからです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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