2014.08.23
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フィンランドから学んだこと

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

シンフォニー号 ヘルシンキ大聖堂 ウスペンスキー寺院

 ちょうど1年前、北欧4カ国を巡り、このつれづれ日誌にも「ノルウェーからの教育報告」と「北欧からの報告」と題して掲載させていただきました。
近年、日本の教育の中に、「フィンランドに学ぶ」というようなことをよく見かけますので、1年前を振り返りつつ、私自身がフィンランドから学んだことを以下に綴りたいと思います。

 まず、フィンランド(FINLAND)という国について、説明しておきましょう。
フィンランドとは「フィン人の国」という意味で、フィンランド語ではフィンランドのことをスオミと言います。スオミとは、沼や湿地の国という意味があるのだそうです。実際に、フィンランドには美しい湖や森が多く、自然の豊かな国でした。人口は約533万人で、西はスウェーデン、東はロシア、北はノルウェーと国境を接しています。国土は他の北欧諸国と同じように南北に長く、北極圏に位置する北部では、夏は太陽が沈まない白夜が続き、冬は太陽が昇らない極夜が51日間も続きます。

 フィンランドには、スウェーデンのストックホルムからバルト海ワンナイトクルーズ船に乗って入国しました。豪華客船シンフォニー号(3000人乗船可)は、ムーミンのオフィシャルシーキャリアー(船会社)でもあるので、乗船すると早速、ムーミンとミーの着ぐるみが出迎えてくれました(写真 左)。大きいので、日本人の子どもが見たら泣いてしまうかもしれません。「ムーミン」は、フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの小説で、日本でも広く知られていると思います。
首都ヘルシンキは約100万人で、古い石造りの建物が多く、きれいな町でした。白亜のヘルシンキ大聖堂(写真 中)、フィンランド正教会のウスペンスキー寺院(写真 右)は、別世界のような風景でした。
そのヘルシンキで困ったことは、夕飯を個人で食べることでした。どこで食べるか、食べられるのか悩みました。ホテルを出て、道に迷わない程度にあっちこっちを歩き回り、結局、あるマーケットの1階にあるパブレストランにおそるおそる入りました。ちょっと怖面のお兄さんが奥にいました。躊躇しながら、席に着くと、そのお兄さんは笑顔でやってきました。ホッとしましたが、メニューを渡しながらの一言の意味が分からず、またピンチ。とりあえず、メニューを見ると、フィンランド語と英語が併記だったので、ちょっと安心しました。しかし、メニューの中身が何だか分からずピンチ!それでも、お兄さんを呼ぶと、英語で対応してくれて、何となく通じてよかったです。1杯1500円ほどのビールを2杯と、1200円の何とかサラダというものを食べました(消費税が25%程度で高いのです)。このサラダというのは、確かに大皿に野菜が盛られていましたが、その上にパン2切とサーモン料理が乗っていて、十分な夕食になりました。最後に、ドキドキしながら支払いをして、フィンランド語でキートス(ありがとう)と言うと、あのお兄さんは笑顔で「サンキュー」と言ってくれました。午後9時を回っていましたが、まだ十分に明るい町を歩いてホテルに戻りました。この経験は、一生忘れないですね。

 さて、前置きが長くなりましたが、フィンランドの教育について紹介しましょう。
フィンランドの義務教育は7歳から16歳までの9年間で、8月半ばに始まり、5月20日頃に一学年が終了します。この間の学費、給食費、教科書代はすべて無料です。その後の高校や職業訓練学校、大学等も学費は無料となっています。
授業時間を日本と比べてみると、日本の8割余りです。フィンランドは学校での勉強時間は短く、塾もないのに、PISA においても上位であり続けています。なぜかについては、いろいろな本などに説明されていますので、ここでは省略します。

 私がフィンランドの教育で注目しているのは、次の3点です。これは、いずれも私がここ10年ほど実践している『まるごと教育』の中で子どもと子どもたちを育てるツールと偶然にも重なるものだからです。
一つ目は、いわゆる「フィンランドメソッド」は、いろいろな授業の中で、考え、表現する「型」を教え、その「型」を活用して個性的な表現を学んでいく教育という点です。これは「型を教えないと教育にならない」と、言い換えることもできます。
私もどの授業においても、基本の授業の型は同じにしています。その上で、教科の特性に合わせた学習を展開しています。
二つ目は、ほめほめカードでポジティブシンキングを行っているという点です。これは、よさを認める(ほめる)、感謝する(お礼を言う)、励ます応援する(思いやる)ということを日常的に展開しているということです。言葉の力で自尊感情を育てるとともに、合意形成の素地をつくることになります。今、日本の教育で最も必要なことかもしれません。私の実践では、「まず教師が子どものよいところ探しを率先してする」というものと重なります。誰よりも子どものよいところを知った上で、子どもと接すると、子どもへの見方が変わるのです。
三つ目は、「カルタ式学習」です。最近、日本でも「ウェイビング」「イメージマップ」「マインドマップ」などと言われて、授業や研修会に取り入れられているものです。要するに、発想を生み出すためのツールです。しかし、フィンランドでは発想を生み出すだけでなく、知識を整理理解するためにも活用している点に注目しました。教科書や参考書にズラズラと書いてある内容を、「一言で何か」「どういう意味があるか(位置づけか)」「どういうことにつながったか」というように、他とのつながりでまとめているのです。私自身はこうしたまとめで、受験勉強をしてきました。授業でも、こうした切り口で問いを出しています。

 ほかにも、三段階思考法=「ポップ」(まず始めにこう考えます。)、「ステップ」(次にこう考え、こうなります。その理由は、こうです。)、「ジャンプ」(最後に、こうなります。)という考える道すじの見える化させるフィンランドメソッドに学び、教科を超えて実践しています。

 最後に、フィンランド式の勉強継続法を紹介しましょう。
それは、「楽しさを演出すること」「ほめること」「情けをかけないこと」の3点だそうです。勉強は楽しいんだと思わせる演出は絶対必要だと思います。今の子どもにやる気のパワーを蓄えさせるためには、ほめることも欠かせません。しかし、身に危険が迫っている時以外はすぐに助けず、全力を出してがんばるチャンスを日常的に繰り返させることも重要ですね。もちろん、個に応じたタイムリーなアドバイスは大切だと思っています。

 実際に、フィンランドに行くことで、その国の風土や文化を肌で感じ考えることができ、その後の自分自身の教育も変わりました。
本当に世界は広いし、おもしろいですね。みなさんは、この夏、どんな体験や経験、そして今後に向けて、どんなことを考えましたか。

大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

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