「学んだことの定着が弱い(習得率が低い)」というようなことをよく聞きます。この課題の解決のためには、小学校ではねらいを明確にして、45分間無駄のない授業構成を考えて実践していくことが必要でしょう。
しかし、限られた時間の中で、具体的にどのような工夫をしていけばよいのでしょうか。
学んだことが定着する、あるいは確実に習得するためには、反復や同様な事柄の繰り返しが必須です。ところが、実際の授業では、既習事項をもとに本時の課題との関連を図りながら「理解を優先する授業」が行われています(教科書の構成がそのようになっている)。特に、算数では顕著で、公式やきまりにたどりつくのは授業の終盤で、その反復や繰り返しはほとんどできずに、発展・応用問題に取り組むことになります。あるいは、発展・応用問題は宿題になり、子どもたちは「分かったつもり状態」でその授業が終わることがあります。これでは、学んだことの定着が弱いどころか、十分な学びが得られていないと言えるでしょう。
そこで、本時の課題(学ぶべきこと)について、何度も学ぶ機会を与えて繰り返す授業=「マルチサイクル授業」(私の造語)を行うことにしました。(マルチとは、「多重」という意味です。)
以下に、算数で行っている「マルチサイクル授業」を紹介します。
次時に学ぶ課題を印刷した紙(予習プリント)を、学習する前日に配布します。予習プリントは原則的にA4の用紙で、教科書にある例題となっている問題(問題文)をそのまま載せたものです。教科書にある例題ですから、考え方や解き方、あるいは答えまで載っていることがあります。ですから、予習といっても、子どもたちは写せばいいのです。それでも、教科書を見て、一応、問題をやっていますから、予習となるわけです。予習プリントの最後には、「分かったチェック」というのがあり、教科書を写しながら問題を解いて、どれだけ分かったかをチェックする(自己評価)欄があります。5段階評価で、「問題の解き方を分かりやすく説明できる」をレベル5としています。
予習プリントは登校後に提出させますが、その際、チェックボードにネームカードをはってもらいます(写真 左)。教師はそのチェックボードで、全体の理解度を把握します。予習プリントにも目を通し、どこがよく分からないかや予習の深まりを確認し、一言をそえます。
そして、本時。予習プリントを教科書に替わって机上に置いて授業を進めます。黒板に日付、本時の課題、教科書の例題を書き、ノートに写させます。そして、例題の解き方について解説をしながら板書します。次に、子どもたちはペアになって、板書を写した自分のノートを見せながら解き方をペアの子の説明します。解き方が十分に分かったと判断した場合は、教科書にある類題を解かせたり、ドリル問題をやったりします。最後に、予習プリントの下にある「授業後の感想」を書いて終わりになります。
基本の展開は以上のようです。子どもたちは何をやるか、何ができればいいかの見通しを持つことができるので、安心して授業に臨むことができます。
そして、一つの例題について、(1)予習で書く、(2)本時の教師説明を写す、(3)ペア説明で話して(4)聞くので、合計4回も学ぶことになります。正に、マルチサイクル授業なのです。予習での「何となく分かったような」が、教師説明で「分かったつもり」になり、ペア学習で「分かった、よく分かった」に深化するのです。
このことは、チェックボートの変化で明白です。チェックボートは授業後の感想を書いて提出する時にはり直してもらっています(写真 中)。もちろん、それは教師の指導に対する評価にもなるわけで、どの子も向上しているかが最大のポイントです。
こうした授業に慣れてくると、上記の基本の展開における教師説明の部分も子ども中心の授業展開ができるようになってきます。教師は課題を提示して若干の補足をするだけで、レベル5の子どもに説明させ、それを他の子どもに評価させながら進めています。また、予習プリントを実物投影機で写して、レベル5の子ども全員に説明させる展開もしています(写真 右)。同時に、例題の解き方とともに、本時の課題は何かを考えてもらうこともあります。つまり、その例題を通して何ができればよいかということです。教師はその課題を意識しながら、ファシリテーターとしての役割をすればよいのです。
このような「マルチサイクル授業」や多様な形態での授業展開をすることで、学ぶべきことを確実に習得させるようにしています。同時に、活用力や探究力を高めるような仕掛けもして、全国学力学習状況調査のB問題にも対応できる子どもを育てたいと考えています。
大谷 雅昭(おおたに まさあき)
群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。
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