2014.07.16
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教育現場からのリポートNO.7 「発達障害のことを保護者と話すために」」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回までに、発達障害を早期に察知し適切な支援をしていくことができれば、大きな成果を上げることができるというお話をしてきました。もし、見逃してしまうことがあると、子ども自身の困難さはより深刻なものとなってしまいます。私たち教師は、かかわりのある場面において子どもをよく観察し、指導という手法だけでは改善されないような課題を抱えている子どもたちを、できるだけ早く見極めていかなければなりません。

 

 さて、発達障害という概念が学校の現場に入ってきたのは、今から15年ほど前のことです。当時、保健の先生が研修会で得てきたADHDとかLDといったローマ字の並びを耳にしても、私には何のことだかまったくわからなかったのを覚えています。それまでは、知的に低い子どもたちを察知することにばかり焦点があてられがちで、落ち着きのない子どもたちは「じっとしていてほしいな」というくらいにしか感じなかったからです。また、感覚的に異なるのではないかと感じる子どもたちがいた場合でも、それほど困ることはありませんでした。

 先日、ある看護師さんとお会いしたときに、発達障害のことが話題にのぼりました。当時を思い出して、「あのころは、多くの子どもたちが人間関係を上手に作ることができたので、発達障害を抱えている子がいたとしても、目立つことがなかったのではないでしょうか」とお話をしていただき、もしかしたらそうだったのかもしれないなと思いました。

 しかし、15年以上経って、学校では発達障害のある子どもたちへの対応が積極的に行われるようになってきました。それは、私たち教師の観察力が磨かれてきており、教師経験が数年の若手であっても、発達障害を察知する力がついてきていることが理由のひとつになっていると思われます。教師のための研修会を開いたり、支援するための教師を派遣したりと、各自治体も発達障害のある子どもたちへの支援を後押ししています。先日、大きいホールで開かれた研修会に行った際には、会場に入りきれないほど多くの教師から、参加の申し込みがあったという話がありました。

 

 ところが一方で、保護者の方々の理解が深まっているとは言い切れません。中にはよく勉強をされて教師以上の知識をおもちであったり、医療機関での診察を受けさせたりされている方もいらっしゃいますが、多くの方は「自分や我が子には関係ない」と思われていたり、「あのお子さんはとても暴力的だから、しつけができていないのではないでしょうか」と批判的な目を向けていらっしゃったりします。

 もちろん、私も同じ母親として、その気持ちを十分に理解することができます。出産の際には、誰もが「我が子は、丈夫に生まれてきたのだろうか」という思いで心がいっぱいになる経験をされてきたことでしょう。また、小学校に入れば、「いじめを受けていないだろうか」、「友達と仲良くやっているだろうか」、「勉強についていけているだろうか」といった不安をもたれることは当然だからです。

 しかし、もしクラスの中に、多動的であったり感情のコントロールが困難であったりする子どもがいた場合、当事者である子どもの保護者や、同じクラスの多くの保護者の方が無関心であるとすれば、担任はとても厳しい立場に追い込まれることになります。実際に私自身も、「あそこの親は、きちんとしつけをしているのでしょうか」とか、「先生は、あの子どものことを指導しているのでしょうか」といった批判的な言葉をいただいたことが何度もあります。

 

 では、こういった現状を打開するために、私たちはどのような対応をしていけばいいのでしょうか。

 まず、教師の対応について考えてみたいと思います。

 繰り返し申し上げているように、日中のほとんどを子どもたちと過ごしている教師は、子どもたちとのかかわりが最も深い存在の一人であると言えます。家庭と違って、集団の中で子どもたちとかかわるのですから、保護者以上に子どもたちの社会性について教育する立場にあると共に、社会の中に子どもたちがうまく順応し、楽しくかかわりあっていくことができるかどうかを見極められる立場でもあります。

 教師は、子どもたちの発達に対する知識を身につけ、子どもの人生に深くかかわっていることを自覚して、小さな変化も見逃さないとする心構えをもたなければなりません。そして、もし発達に偏りがあるのではないかとか、言葉の指導だけでは改善が難しいと感じられる課題を見つけたときには、共通の認識を校内で共有していく必要があります。さらには、特別支援教育コーディネーターと呼ばれる役割を担った教師やスクールカウンセラーなどと連携して、どのような対応を取るべきかについて話し合いを進めていきます。

 初期の段階でやらなければならないことは、二点考えられます。ひとつは、保護者と連携を取ることができるようにすること、もうひとつは、校内での支援体制を整えることです。

 後者については比較的簡単に進められることがほとんどです。学校を設置している自治体の予算によって、支援できる人材の確保に差があることは否めませんが、それでも校内で共通理解をして、支援体制を整えることは可能です。例えば、空き時間のある教師は職員室で待機し、必要があればクラスに赴いて支援をするといったやり方は、すぐに実施できることです。

 

 しかし問題は、どのようにして保護者に伝えるかということです。長年の経験から申しますと、保護者の感情を考慮して伝えるには、まず信頼関係を築かなければなりません。そして、子どもとの信頼関係を作りあげるときと同様、保護者との信頼関係を築くには、それなりの時間がかかることを覚悟する必要があります。

 効果的だと思われるのは、専門家に仲介を頼むことです。自治体によって体制は異なると思いますが、スクールカウンセラーや地域を統括する特別支援学校のコーディネーター、巡回相談などを担当する臨床心理士、スクールソーシャルワーカーなどが力を貸してくれます。

 面談にあたっては、担任と管理職、それから校内での担当、専門家などが知恵を出し合って保護者との信頼関係を築き、適切な段取りを踏んで子どもの実態を伝えていくことが、腕の見せ所だと言えます。

 このようなチームとしての対応が確立されていなかったころには、私も何度か失敗をしました。例えば、私たちは子どもの発達の様子を調べるのに、アセスメント(脚注※)を取ることがあります。狭い意味では、WISC(ウイスク)などの知能検査を指し示すことがあるのですが、それを勧めたところ、お叱りを受けたこともありました。「うちの子どもは、病気ではありません」とか、「先生は、うちの子どもを発達障害と決めつけているのか」といった内容でした。これは私の未熟さによる失敗ですが、おそらくはたくさんの教師が似たような経験をされているのだろうと思います。一度そういった経験をすると、残念なことに保護者と面談することにも消極的になってしまいがちです。ぜひ、チームで対応できる体制を整えていってほしいと思います。

 保護者の方がどのような対応をされるとよいかについては、次回お話しします。

 ※アセスメントについては、独立行政法人特別支援教育総合研究所のサイトを参照してください。また、アセスメントに限らず、発達障害に関するたくさんの情報が掲載されていますので、興味のある方はご覧いただければと思います(https://www.nise.go.jp/portal/elearn/asesument.html

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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