2014.03.20
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若い先生たちへのメッセージNO.20 「教育の限界を突破するために」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  3月末を迎えました。私が勤務する学校では、24日が修了式となります。昨年4月に異動して一年。異動の経験はたくさんあるのに、やはり慣れるのに時間がかかりました。同じ都内の小学校であっても、学校ごとにやり方がことごとく異なるというのは、致し方ないと思いつつも不便を感じます。行事のやり方などの違いばかりではなく、データの処理方法を覚えるのにも、大変苦労しました。それでも一年を通して経験したことは、新年度に生かされていくものです。見通しをもって、4月からがんばろうと思っています。

 さて、前述したような行事への対応やデータ処理などを覚えることは、実のところたいしたことではありません。わからなければ聞けばいいのだし、得意な同僚が肩代わりしてくれることもあるからです。でも、代わってもらうことができないのが、子どもたちへの対応です。

 特に小学校の担任が、クラスの子どもたちにかかわる親密度は、この仕事をしたことのない方には理解しにくいかもしれないほど濃いものです。私は小中一貫校で働いた経験がありますが、中学校籍の同僚に驚かれたことが何度もありました。中学校の場合、学年の教師が団結して生徒の教育に携わるのに対し、小学校の担任は、ほとんどの時間を同じ子どもたちと過ごし、生活の面倒を見ていく必要性があるからです。授業を通して勉強を教えるだけではなく、体育では一緒に運動したり、給食や掃除では共に活動したりしなければなりません。もちろん、こういった苦労の一方で、楽しみもたくさんあります。

 小さな学年の子どもたちは、無意識に私を呼びかけるとき、「お母さん」と誤って言ってしまうことがあります。間違いに気付いたときに、子どもたちはとても恥ずかしそうな表情を見せますが、私は学校における親なのだろうなと嬉しく思います。濃いかかわりのなかには、愛情が生まれ育まれていくからです。

 そのような中で今年度を振り返って思ったことは、「教育の限界」でした。10年ほど前、学習指導要領が改訂されて総合的な学習の時間が導入され、仕事の多忙化が一層進んだとき、多くの先輩が定年を待たずに退職していきました。このときには、総合的な学習の時間は楽しいのにとか、忙しくてもがんばればいいのにと思った記憶があります。でも実際には、先輩の多くは、「子どもたちの変容についていけない」ことを理由にされていたことを聞き知りました。今、私は当時の先輩方と同様に、多忙な仕事への体力的な限界もさることながら、「子どもたちの変容」という壁に突きあたっています。

 確かに、ゲームばかりで遊んでいる子どもたちは不器用だし、人とのかかわり方が未熟でトラブルも多く見られます。頭でっかちなわりには、それが体験に裏付けされていないため、知識を活用する力が乏しいとも感じます。でも、そのような変容に苦労しているわけではありません。多くの子どもたちは、一生懸命に勉強しようとしていますし、優しさも思いやりもあります。教師が愛情をもってかかわれば、それを受け止めることもできるのです。

 ただ、発達に偏りのある子どもたちが抱える課題は、とても大きくなってきてしまったように感じます。教育というのは、極論から言えば言葉の世界です。言語を通して学ぶことがほとんどなのです。ですから、言葉での伝達を通して教育の成果を上げられなければ、そこには限界ができてしまいます。

 現在、通常学級を担任する多くのみなさんは、クラスに在籍する発達に偏りのある子どもたちの対応に悩まれることが多いと思います。2002年に、文部科学省が全国に調査を行い、通常学級には約6%の発達に課題のある子どもたちが在籍するという結果を発表しました。それから10年以上経った今も、この比率には大きな変化がないと言っています。しかし、実際には急激に増えているのではないかと感じています。40人弱のクラスの中で、3~4人の子どもたちに大きな課題があるとすれば、担任一人の力で教育を行っていくことは至難の業です。私自身も、この課題をどのように乗り越えていけばよいのかについて、考えあぐねているのです。

 今、小学校の通常学級における課題は、発達障害のある子どもたちをクラスの一員として、どのように教育していくかということに尽きると思います。この東京都にあっても、ユニバーサルデザインによる教育の試みが行われ、発達障害への理解を深めようとする努力も日常的に行われています。また、先進的な取り組みも、報告されています。

 私は今後、それらの情報を元にさらに研究を進めていこうと考えています。そして、この場をお借りして研究成果をシェアさせていただき、よりたくさんのみなさんの力で、支え合い、学び合っていくことができればと思っています。

 さて、今年度の投稿は、これで最後になります。たくさんのみなさんに読んでいただき、ありがとうございました。4月からは、以上のような心境を元に、発達障害や不適応などをテーマにして書いていこうと思っています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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