2014.02.12
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若い先生たちへのメッセージNO.18 「自分の気持ちを伝える勇気を!」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 3学期の授業日数が20日余りとなりました。学習内容がまとめに入っている教科もあり、復習をきちんとさせなければという思いが強くなってきているのではないでしょうか。

 学力の定着をめざすことはとても大切ですが、人間関係を良好に保つスキルが身についているのかどうかも、この時期にぜひチェックしてみてください。「相手に思いやりのある言葉がけができるようになってきているのか」、「自分の思いを、相手を気遣いつつ伝えることができるようになってきているのか」などに注目し、一人一人の課題を明確にしていってほしいと思います。そして、学力面での復習とともに、社会性における成長を確かなものにしてから、進級させてやってほしいと思います。

 

 このような人とのかかわりを円滑にしていくためのコツや、自分の思いを正確に伝えようとするための手法をソーシャルスキルと呼びますが、それが昨今、とても低下していると指摘されています。実際に学校生活の様子を見ていると、表現の未熟さが引き金になってトラブルを起こしていることが少なくありません。また、人間関係の気まずさから、不登校の傾向を示す子どもたちも存在します。そのような問題を軽減させるためには、ソーシャルスキルを向上させていくことが、とても重要なのです。

 中でも私が心配しているのは、言葉で思いを伝えようとすらしない子どもたちの存在です。クラスの担任である私に用事がある場合でも、子どもたちは仕草や視線だけで気持ちを理解してほしいと思っているように見受けられます。たとえば、プリントを手渡すだけで、「さっき提出し忘れたけど、今持ってきました」ということを、私に伝えられると思っているようなのです。友達とのトラブルで悲しくなって泣いてしまっても、その行動によって周囲が気持ちを理解し、手助けしてくれるのは当然とでも考えているようにも見受けられます。

 私はそんな子どもの様子を見かけたとき、「テレパシーで伝えようとしているの? 私には伝わらないなあ」とおどけてみせることがあります。最初は何を言われているのかわからない子どもたちも、何とかして言葉で伝えるべきなのだということに気付き始めます。適切な言葉で伝えることを練習していかなければ、大人になって社会に出たときには、通用しないということにもなりかねないことを、理解し始めるのです。

 さて、このような課題を打開するために、私が取り組んでいるもうひとつの方法をご紹介しましょう。

学校生活の中で子どもたちが、「先生、○○さんがこんなことを言ったから、嫌なんです」といったことを訴えてくることがあります。些細なことでも気に障ることがあるだろうから、気持ちはよくわかります。しかし、私が気持ちを理解してあげたところで、問題は解決しません。そこで、自分の言葉で気持ちを伝えるように指導をしています。

「自分の言葉で、気持ちを伝えてごらん。私が見ていてあげるから」

 そう言うと、子どもたちは安心して相手に気持ちを伝えます。大切なのは、教師が見守ることです。「自分で言って解決しなさい」と突き放したところで、子どもたちは気持ちを伝える勇気をもつことは難しいからです。大きなトラブルにならないように傍についているから、思い切って伝えてみようと、背中を押すことが大切だと思います。

「ああいう言い方は、嫌な気分がするからやめてほしい」

子どもたちは一生懸命に自分の気持ちを伝えます。言われた相手は、嫌な気持ちにさせてしまったことに気づき、「ごめんね」と謝ります。その後は、双方がいい気分になるようです。仲直りをして、すぐに一緒に遊び始めます。

 以前は、私が嫌な気持ちを仲介して伝えることもありました。しかし、「君がこんな風に言ったことで、相手が嫌な気持ちになっているよ」と私が言うより、直接気持ちをぶつけた方がよりよい関係を築くことができるのではないかと感じています。

 

 では、大人は直接ぶつけることができるのかというと、そういうわけではありません。直接ぶつけることによって、関係が悪化することの方を危惧しなければならない場合もあるでしょう。それよりも、嫌な気分にさせないように配慮できるだけのスキルを身に付けていなければならないのだろうと思います。また、嫌な気分にさせたことを察して、すぐに謝罪するスキルも必要なのです。

 子どもたちの成長過程において、人間関係を良好に保つスキルを身につけることは、学力を培うのと同様に重要視されていかねばなりません。学校であっても社会であっても、多様な価値観の中で生きていくためには、高度なスキルが要求されるからです。思いやりのある表現を心がけ、良好な人間関係を維持していけるように、自分自身も学び続けていきたいと思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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