行事で慌ただしかった二学期も、まとめの時期を迎えました。学年の折り返しも過ぎ、ようやく子どもたちの姿を明確に捉えられるようになってきたのではないでしょうか。
何回担任しても、最初の半年間というのはクラスを作り上げるのにエネルギーが必要だなと感じます。子どもたちとしっかりした信頼関係を築くのに、時間がかかるのです。それに加えて、保護者との信頼関係を作るのにも、時間とエネルギーが必要とされます。それが、様々な行事などを通して教師の姿や行動を理解していただき、やっと落ち着いてくるのが今頃の時期だと思います。そして、子どもたちの学習の成果が飛躍的に伸びてくるのも、これからの時期だということができます。
さて、子どもたちに楽しい授業を提供したいと願い、工夫を重ねることの多い毎日だと思いますが、私はシンプルな授業であっても、子どもたちが「勉強は楽しい」と思うような体験を積み重ねていってくれたらいいなと考えています。
最近の学習の例から、具体的にお話ししてみましょう。
物語を読み進めていくにはいろいろなやり方があるのですが、私は段落の中で読み深めたいと思う課題を設定し、それに向けてみんなで考えていくという方法を大事にしています。
最初の授業で物語のおおまかな内容を把握させた後、場面ごとに音読の宿題を出します。音読そのものを練習するだけでなく、読んだ感想や疑問に思ったことを音読カードに書かせるよう工夫をしています。
たとえば、国語の授業で「モチモチの木」を学習したときには、「なぜ豆太はおくびょうだったのだろう」という感想がたくさん出されていました。そこで、「豆太はなぜおくびょうだったのかを考えよう」という課題を提示するのです。子どもたちは予習として読んだ場面で、同じような疑問をもっているので、一緒に考えようという呼びかけに応じる準備ができているということになります。
授業では、まず一人一人が、なぜ豆太が臆病だったのかを考えます。「生まれつきじゃないの?」とか、「自分も臆病だから、みんな同じじゃないのかな」という声も聞かれたのですが、「考えの根拠となる文章を探して考えよう」と声をかけることによって、教科書を手がかりにした読み取りを行う必要があることが伝わっていきます。そして、ノートに根拠となる文章と、自分の考えをまとめていきます。
その後、班の友達と意見交換をして、班としての考えを作っていきます。その際、決して個人の考えをつぶさないことを確認しておくことが大切です。友達の考えのよさを生かして、班として最高の考えをまとめようという目標をもたせるのです。そうしないと、個別に発表させた方が、よりよい意見が出されることになり、班で話し合う意味が失せてしまうからです。
考えがまとまったころを見計らって、班の意見として発表させていきます。そして最後に、どの班から出された考えが気に入ったかという意見を出し合います。授業の中で最も盛り上がるところです。
私は、この授業で、主人公の豆太がじいさまと二人きりで峠の猟師小屋で暮らしていたこと、その境遇や環境から臆病であることに気付かせようと目論んでいました。しかし、大人のそういった予測は、授業を通して覆されることになります。ある子どもが、「お父が、熊と組み合って死んだから、臆病になったのではないか」という考えを出してきたのです。確かに病死ではなく、熊と戦って死んだとなれば、山に暮らすことにも恐怖感が生まれます。生きていくことにも、ちょっと臆病になるに違いありません。子どもたちは、この意見を大変気に入り、その考えを出した友達は大きな賞賛を浴びる結果となりました。
この場面の学習で気をよくした子どもたちは、次の場面からも意欲的に学習するようになりました。そして、毎時間、よりよい考えを出してくれます。
ある日、「モチモチの木を勉強していると楽しいでしょ?」と質問をすると、子どもたちはニコニコしながらうなずいてくれました。授業を楽しいものにするために、あれこれと工夫することも教師にとっては大切な仕事です。と同時に、勉強をすることは無条件で楽しいのだと思わせることも大事なのです。それから、友達と一緒に学ぶことがとても意味のあることだということにも気付かせてほしいと思います。
「モチモチの木」の授業が楽しいと感じ始めたころ、体育の授業で走り幅跳びを行いました。うちの学校は砂場が広いので、一度に4人で跳ぶことができます。それで、4チームに分かれて跳んだり測定したりする活動をすることができました。3年生は、算数で巻き尺の読み方や、小数の勉強をしているので、測定は実践の場ともなりました。一人が跳ぶと、みんなで協力して測定する姿は、見ていてとてもほほえましく感じました。仲間と学ぶ楽しさは、こんな授業にも反映されているんだなと、私もとても嬉しくなりました。
これからも、学ぶことの楽しさを味わわせることのできるような授業、に工夫していきたいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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