「習得を確実にする」とは、どういうことでしょうか。
その前に、「習得・活用・探究」の学習の流れの考え方について、確認しておきましょう。
文部科学省は以下のように示しています。
基礎的・基本的な知識・技能を「習得」するとともに、観察・実験をしてその結果をもとにレポートを作成する、
文章や資料を読んだ上で知識や経験に照らして自分の考えをまとめて論述するといったそれぞれの教科の知識・技能を「活用」する学習活動を行う。
それを総合的な学習の時間等における教科等を横断した問題解決的な学習や「探究」活動へと発展させる。
「習得」するのは「基礎的・基本的な知識・技能」であるとすると、
「習得を確実にする」というのは「活用・探究」をするためのベースをつくることになると考えられます。
では、理科ではどのような「習得を確実にする」学習が考えられるのでしょうか。
理科の授業においては、問題解決学習が基本であり、
その基本形は「問題把握過程」→「問題追究過程」→「問題解決過程」と言われています。
その問題解決の能力を育てるためには、
「予想や仮説をもとに」学習することが必要と考えられています。
つまり、子どもが自らの生活経験や学習経験をもとにしながら、問題の解決を図るために見通しをもつということが求められているのです。
しかし、子どもを取り巻く社会や生活環境の変化に伴う自然事象へのかかわりの不足や体験不足は切実で、
課題が見つけられない子や、解決方法の見当もつかない子がいるといった実態もあります。
そうした現状から、教師から課題を提示したり、子どもが見つけたことにしたりして、
問題解決学習として授業を展開することが多くなっています。
では、私が試みている「習得を確実にする」理科学習を紹介しましょう。
6年生理科「水溶液の性質とはたらき」で「リトマス紙」を扱った事例です。
教科書通りの展開では、次のようになります。
「水溶液の違いを調べる方法には、水溶液をリトマス紙につけて、リトマス紙の色の変化で調べる方法がある」という説明の後、
実験「水溶液をリトマス紙につけて色の変化を調べよう」という提示があり、
実験をして、仲間分けができるかを考えます。
そして、最後のまとめで、リトマス紙の色の変化と酸性・中性・アルカリ性という理科用語が出てきて終わりになっています。
このやり方で進めてテストをすると、
リトマス紙の酸性とアルカリ性による変化が覚えられないことが多く、
難しくないのにできないという結果になってしまいます。
そこで、授業のはじめに「水溶液の中で青色のリトマス紙だけを赤く変えるものを酸性、赤色のリトマス紙だけを青く変えるものをアルカリ性、どちらの色のリトマス紙も変えないものを中性の水溶液という」ということを教えます。
ノートに書き、何度も暗唱させ、暗記させます。
これは、実験の基本となる知識ですので、最初からしっかり教えます。
その上で、前回実験に使った水溶液を用いて、
「水溶液は何性かを調べよう」と提案します。
もちろん、予想させることで子どもたちはクイズ感覚になり、ワクワクしながら取り組みます。
「酸性と予想したから赤くなれ。」とか、
「中性と考えたからどっちも変わるな。」
などと言いながら実験をするので、確実に水溶液の性質の知識を身に付けることができます。
使った水溶液は5種類だけですから、子どもたちは正誤の判定が出た後、もっと実験したくなります。
そこで、
「これまでの実験を元に、当たるような予想ができるんならやってもいいよ。」
と含みをもたせた言い方をします。
子どもたちは、
「炭酸飲料は、名前に酸と付くから酸性だと思うな。」
「石灰水は白い粉を溶かした時は白く濁っていたから、白っぽくなる石けん水はアルカリ性じゃないかな。」
「お茶はサラッとしているから中性かなぁ。」
などと、実験した水溶液と持ってくる水溶液を比べながら予想を始めます。
「それでは、」
と言って、ランチャーム(魚などの形をしたポリエチレン製の醤油容器)を取り出すと、子どもたちの目は釘付けです。
「この容器に、自分が調べたいと思う水溶液を入れて持ってきてください。次の時間に、 持ってきたものの性質を予想と比べながら実験しましょう。」
このように、基本となる知識を教えて習得させた上で(ここでは表面的な習得)、
それを使って実験することで確実な習得になるとともに、
活用したくなる気持ちをもたせる授業を展開しました。
理科は実験・観察の中からきまりを見つけることも大切です。
しかし、単元によっては、上述したような知識を教えてから実験・観察を行うことが有効な場合もあります。
子どもが基本的な知識を繰り返し覚えられるような仕掛けを、
活用や探究のための実験・観察の中に織り込んでいくことで、
「習得を確実にし」、理科への興味・関心も高められると考えています。
こうした柔軟な学習方法を取り入れて、
どの子も基礎的・基本的な知識と技能を習得し、
どの子も次の活用や探究学習に進められるようにして、
理科の楽しさを味わわせるとともに学力をつけていきたいと考えています。
大谷 雅昭(おおたに まさあき)
群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。
同じテーマの執筆者
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)