2013.10.25
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若い先生たちへのメッセージNO.12 「困難な人間関係を切り抜けるために」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  10月に入ってからも暑い日が続きましたが、急に気温が下がってきました。気候の変化や行事などの疲れで、体調を崩す子どもたちも増えています。私たち大人も、仕事を上手にやりくりして、リラックスできる時間を増やしていきたいものです。

 さて、最近NPOの勉強会などで若い先生たちから寄せられる相談では、保護者への対応に関することが多くなりました。子どもたちへの対応が十分にうまくいっていて、悩みがなくなったからという訳ではありません。保護者からの理不尽と思える苦情にどのように対応していけばよいのかに関する悩みの方が、大きな負担となっているのだろうと推察されます。また、子どもがネグレクトとか虐待を受けているのではないかと感じたときの、対応法についての相談も増えました。これも同様に、保護者がからむ問題です。

 

 保護者が突然、理不尽な要求をしてくるといった社会的な現象は、1990年代からあったと言われます。核家族化が進み、学校に対する信頼感が薄れてきた時期ではないかと思います。

 実際に、1980年代後半に私が勤務したある学校では、おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんもお母さんもその学校を卒業しているといったケースが多く、学校や先生に苦情を言うなんてとんでもないとおっしゃってくれる保護者もいました。しかし一方では、若い私には何でもぶつけていいのだと考えているような保護者の姿もありました。そして、それ以降は一気に核家族化が進み、大家族で生活している子どもたちはめっきり減ってしまった感があります。

 私事ですが、東日本大震災のときに、母を亡くしました。福島に住んでいた母とのかかわりは、ほとんどが電話でしたが、母から「みんなそんなもんだよ」と言ってもらえると、ほっと安心したのを覚えています。ですから今は、心の支えを失ったような感じがあります。同意や共感を示してくれる相手がいることが、生きていく上でとても大切なのだと実感する日々です。

 このような経験を通して見えてくるのは、理不尽な要求が増えてきた背景には、核家族化が進んだことによって、子育てに対する不安感が高くなったことがあるのではないかということです。「育児書の通りに子どもが育ってくれない」、「よその子どもの方が自分の子どもより成績がいいようだ」といった不安感が、保護者の間に浸透していったのだろうと思います。近所の人とのかかわりや、自分より上の世代とのかかわりが減り、「大丈夫だよ」とか、「誰でも同じようなものだよ」といった安心感を与えてくれるような言葉かけがなくなってしまったのではないでしょうか。

 ですから、理不尽な苦情を寄せる保護者の心には、大きな不安感がうずまいているのではないかと予想されます。それがご自身で意識していようとなかろうと、不安があるのだろうと思うのです。我が子が元気に登校していて、何もかもがうまく運んでいるのに、理不尽な要求をされる保護者は滅多にいらっしゃいません。

 しかし、保護者の心理状態に対して、私たち教師が理解しようと努力したところで、思うような解決に至らないことがあります。もちろん、担任したクラスの子どもたちが、楽しい学校生活を送ることができるように力を尽くすことが大切なのは、言うまでもないことです。子どもたちの課題を解決することで、保護者との信頼関係が深まり、安心感をもっていただけるようになることもあるからです。ところが、そのような努力があっても、解決しないこともあるのです。

 現代における不安感の根源は、子どもの問題ばかりではありません。仕事の上でのストレスや、収入への不安、家族内の問題など、様々なことが考えられるからです。そういった不安感にさいなまれていらっしゃる方とのかかわりを、若い先生たちに求める時代になってきたのは、酷なことだなと思います。

 私自身も、保護者との信頼関係を築くまでには幾多の苦い経験を重ねてきました。それは、若いころに限らず、現在も変わらない状況です。どんなベテランと言われる先生たちでも、同様に苦労しているという話を耳にすることもしばしばですから、私だけが特別ということではないのでしょう。誰もが、様々な個性や価値観をもった他人との関係作りには、苦労があるのだと腹をくくる必要があるのではないでしょうか。そして、人間関係の問題は、必ずしも解決できることばかりではないのだということも知っておくべきだと思います。

 

 年齢を重ねてもなお悩み続け、しかも解決できない問題であると聞くと、人間関係を作っていくことを避けてしまいたくなりますね。でも、避けられないのが人間関係です。

 では、どのようにしたら困難さを切り抜けられるかというと、周囲の人間関係をよくしていくことでしかないと感じています。人に傷つけられたことを癒してくれるのは、やはり人なのです。好きなものを食べたり、買い物をしたりすることも気分転換にはなるでしょう。でも、家族や友人に支えられることが、何よりの癒しになるのです。

 私は、今、若い先生たちに支えられることが多くなりました。若い人たちを支えようと思ってがんばっている一方で、お返しのような時間を受け取っています。

 最近、中脇初枝さんの書かれた「きみはいい子」(ポプラ社)という本を読みました。人とのかかわり、子どもたちの実態を改めて考えさせられました。みなさまも、ぜひお読みください。次回は、この本でも?取り上げられている、虐待やネグレクトの悩みについて書いてみたいと思っています。

 

 

 最後に、ご案内をさせていただきます。

 この度、光村図書出版の道徳副読本の改訂にあたり、ソーシャルスキルのページを担当させていただきました。そして、より多くのみなさんにソーシャルスキル教育の大切さを知っていただくために、授業の様子をビデオ配信いたしました。

 これは、ソーシャルスキル教育を行おうと思っても、具体的にどのような授業をすればいいのかわかりにくいというご質問にお応えしたものです。ぜひご覧いただき、たとえ一年に一度でも実践を試みてください。詳しい資料も公開しておりますので、併せてお読みください。

 また、本サイトの「実践の場から」でも、ソーシャルスキルの授業をご紹介しています。ご覧いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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