みなさんは「6月危機」という言葉を聞いたことがありますか。
企業の経営や経済のことではありません。教育におけるもので、学級経営に関する言葉としてです。
学級経営に関する「○○危機」としては、「9月危機」が比較的よく知られているようです。長期休業明けで、個人の生活・学習習慣の崩れが修正されず、学級全体に波及し、運動会等の学校行事の慌ただしさの中で、騒然としていくものです。学級崩壊に発展することが多いものです。
2つ目は、「11月危機」です。2学期の後半、一通りの学校行事が終わった頃です。運動会や各種のコンクール・大会などの大きな目標がなくなり、ネガティブな方向に向かう子どもに対して、それを指導する教師との対立に由来することが多いものです。一つ間違うと、教師が休職に追いこまれることもあります。
以上の二つは、私の身近でも起こっているのを見たことがあります。
ところが、もう一つ「○○危機」と呼んでよい時期があるのではないかと考えています。それが、「6月危機」なのです。
6月というのは、どういう時期なのか考えてみました。
新学期早々は、子どもたちの緊張をよりよい方向に向かわせるために、様々なてだてを講じながら、教師は常に構えながら学級づくりと人間関係づくりをします。また、授業参観や学級懇談会、家庭訪問などを通じて、保護者との関係もつくろうとします。
ところが、5月の連休明けのリ・スタート(再スタート)がうまくできないと、「6月危機」の引き金を引くことになってしまうのです。
まだ1カ月足らずなのに、また連休明けでリズムに乗っていない子どもたちに対して、教師はつい多くのことを要求してしまいます。いろいろ言いたいこと、させたいことはありますが、それは教師の一方的な思いや考えであり、この時期の子どもたちにとっては、エゴと映ってしまうことがあります。
また、教師が4月からの子どもに対しての「受容と指導」のバランスを崩して、指導を中心にすることで、子どもたちの不満と不安を蓄積することになります。
一方、低学年で多く見られることですが、子どもには無理だからとか、時間がかかるからと言って、教師が何でも準備したりやってしまったりすることがあります。これを2カ月近くも続けてしまうと、何もしない、何も育たない子どもになってしまいます。そんな状態の子どもたちに、教師の一方的な見方で、もう1カ月たったのでとか、できていいだろうと任せてしまうとできないので、叱ったり指導したりすることが多くなります。子どもにしてみると、これまでは何でもやってくれたりほめてくれたのに、何で急にやってくれなくなったり叱ったりするのかと、不満と不安をもつ子が多くなります。
そして、6月。全国的に梅雨空となり、外で遊べなくなります。それまでは、教室内の不満やストレスを、外で元気よく遊ぶことで何とか解消してきた子どもたちが、できなくなる時期なのです。すると、ちょっとしたことでけんかをしたり、大声を出したりといったトラブルが起きやすくなります。また、意地悪や陰口的なものも増え、いじめに発展しやすくなります。
そこで、教師は関係する子どもを呼んで指導するわけですが、なかなかうまくいかない場合があります。その理由は、前述のこれまでの経過もふまえて2つあると考えています。
一つは、ケンカやトラブルの根本的原因が、日頃たまった不満やストレスによる場合は、そこまで掘り下げないと、関係児童が納得しないということがあるからです。
もう一つは、教師の受容度が低くなり、やや強引な指導で解決させた場合は、児童が納得しないだけでなく、保護者からクレームが来ることになり、事態を悪化させるケースに発展することがあるからです。
さらに、教師が2ケ月もたったので、「できるはず」「やれるはず」と思い込んでしまうと、子どもの意識との差が大きくなり、距離が開いてしまいます。
また、子どもたちも学級生活の慣れが、いい加減さや適当さが出てくる時でもあります。
夏休みまでおよそ1カ月という時期。以上のように、なかなか難しい時期であることは確かです。「6月危機」は本当にケースバイケースなので、決定的な解決策はないと思います。
大切なことは、こうした「6月危機」をつくらず、9月危機や11月危機を意識しながら、子どもたちとのつながりを深め、少し長いスパンで子どもたちを見つめ、夏休みまでの成長を楽しめるようにすることだと思います。
大谷 雅昭(おおたに まさあき)
群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。
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