2013.06.06
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

若い先生たちへのメッセージNO.4「わくわくするようなクラス作り」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 「クラス作り」という表現があります。10年以上も前には、学級王国と言われるような、教師が自分のクラスだけを大切にするといった風潮がありました。私は、学校のすべての子どもたちを、全職員で育てていくことが理想であると考えているので、学級王国のような閉鎖的なクラスを作るべきではないと思います。

 しかし、だからといってクラスという単位を取っ払うわけにはいきません。学校をひとつの町のようなコミュニティに例えるなら、クラスはその町に存在する家庭のようなものだからです。社会生活において、家庭があるから安心して生活できるように、学校ではクラスが安定しているからこそ、子どもたちが元気に登校してくることができるのです。

 さて、今回はクラス作りを上手に行っていく秘訣についてお話ししたいと思います。

 私はクラスの中に、「秘密」をもつことが大切だと思っています。「秘密」と言っても、「守りきるべきもの」というわけではありません。隣のクラスや、保護者の耳に届くことがあってもいいのです。ただ、その秘密に特別な思い入れを抱かせ、クラスとしての団結を強めていくことが大事だと思います。

 ベテランの先生方なら、秘密のもたせ方のバリエーションは豊かだと思いますが、若い先生たちのために簡単な方法をお伝えしましょう。

 ひとつには、子どもたちを鼓舞するような合言葉を教えていくことです。例えば、算数の問題を解くときの合言葉として、「はかせ」のようなキーワードを教えることができます。算数の問題は、さまざまな方法で解くことができますが、「早く」「簡単に」「正確に」解く方法を見つけ出させることが大切です。キーワードを教えておけば、授業の中でも子どもたちにイメージを伝えやすくなります。

 この方法は、避難訓練などでも使われています。「おかしも」という標語は、「押さない」「かけない」「しゃべらない」「戻らない」を意味しています。「いかのおすし」は、不審者と思われる人と出会ったときのキーワードです。「いかない」(知らない人についていかない)、「のらない」(知らない人の車に乗らない)「おおきな声で呼ぶ」、「すぐ逃げる」、「しらせる」(何かあったらすぐ知らせる)を意味しています。

 それから、「あったか言葉とチクチク言葉」のような表現も、合い言葉と同じような感覚で教えていくといいでしょう。「あったか言葉」とは、心が温まるようなポジティブな言葉です。「チクチク言葉」は、人を傷つけかねないネガティブな言葉です。言葉のみならず、態度や仕草であっても、チクチクするようなことをしないという約束をしておくと、子どもたちの指導に役立ちます。

 例えば、こんなことがありました。あるとき、小柄なかわいらしい女の子に向かって、男の子が「小さいですね」と声をかけてしまったのです。女の子は、ちょっと困ったような表情を見せました。私が、「それはチクチク言葉になるんじゃないかな?」と声をかけると、男の子はすぐに気づいて、「ごめんね」とあやまることができました。言葉のイメージを共有化しておくと、とても便利なのです。

 それから、クラス独自の取り組みをもつことも大切です。「縄跳びチャンピオンをめざそう!」とか、「本読み相撲」といったユニークな名称をつけて、子どもたちが楽しみながら力を伸ばすことができるように工夫されている学校も多いと思います。

 3年生の私のクラスでは、「なかよし名人」をめざそうという取り組みを行っています。これは、友達とのかかわり方を上手にできるようにしようという学習で、ソーシャルスキルの向上をめざしています。

 「ありがとう」や「ごめんね」を、心をこめて伝えるには、どのような言い方がいいのかを考えさせたり、友達が遊びに入りたいときには「あそぼう」と声をかけようと、繰り返し練習させたりしています。学級活動の時間を使ってスキルアップを図ることもありますが、朝の会などの短い時間で練習させることもあります。

 子どもたちは、「なかよし名人」の練習をする時間が大好きです。なぜなら、心が温かくなるからです。「あったか言葉を使おう」という表現上の約束ばかりではなく、実際に使ってみると心が温まり、教室の空気がほんわりとしてくるという体験を通して、相手を思いやることの大切さを学ばせていくことができます。

 それからもうひとつ、とっておきの「秘密の話」を聞かせることもあります。これは、私自身の身体の話、プライベートな生活の話などです。「絶対に誰にも言わないと約束できるなら、教えてあげるよ」と話し始めると、子どもたちは教室のドアを閉め、耳をそばだてて聞こうとします。そして、「秘密の話」という、ちょっと魅力的な言葉の響きにわくわくしてくれます。

 クラスの中に通用するような言葉を作ったり、独自の取り組みを行ったりして、クラスへの所属感を高め、子どもたちが安心して過ごせるようなクラスを作っていきたいものです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop