2013.05.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

若い先生たちへのメッセージNO.2「認め、ほめて育てよう!」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 新学期が始まってひと月近くが経ちました。子どもたちにとって、新しい教室、新しい友達、新しい担任になじんでいくための毎日は、大人が考える以上に大変だったろうと思います。しかし、子どもたちは大変だという素振りも見せずに、担任の言うことを聞いて、学習したり活動したりしています。その柔軟性を、大人はとても真似できるものではありません。実のところ、教師ががんばっているから学校生活が成り立っているのではなく、子どもの大きな力に支えられているということにも気づくべきです。子どもに対する感謝や畏敬の念があれば、信頼関係を築くまでの期間は、短縮されていきます。

 さて、学校生活に慣れるための期間が過ぎると、子どもたちは本領を発揮してきます。これまでよそ行きの顔を見せていた緊張もとれ、本来の自分を見せるようになるのです。信頼関係が揺らぐということではなくて、それまでよりはもっと深いところで、人間関係を作ろうとする過程のひとつだと考えるべきだと思います。

 しかし、それまでの大人しい様子から一変すると、担任は戸惑います。昨日まで「いい子」だと思っていたのに、どうしてこんなことをするのだろうと、やんちゃな行動の動機をつかみきれなくなってしまうのです。

 20数年間も小学校の教師をしている私でも、毎年ドキドキさせられることがあります。あるときには、私の目の前で教科書を全部ゴミ箱に捨てた子どもがいました。私は、その子どもが、なぜそのようなことをしたのかについて、すぐには気づくことができませんでした。あとになって、私の気を引きたかったのだということを知りました。

 クラスの中に大勢の子どもたちがいると、一人一人に丁寧な言葉かけをしようと思っても、十分にできないことがよくあります。大人である教師は、精一杯に対応しているのですが、そのことを小さな子どもたちに理解させるのは簡単なことではありません。それでも、子どもたちは教師が認め、ほめてくれるのを待っています。

 

 話は逸れますが、家庭の中にも同様のことが起きることがあります。弟や妹が生まれてすぐのころに、赤ちゃん返りをするのによく似ているのです。学校でも、担任の愛情を確認するために、大人には理解できないような行動をとることがあるというわけです。

 家庭の中であれば、赤ちゃんが眠っているときに抱っこをしてやるといった対応を取ることができるでしょう。しかし、学校では、対応を補う時間には限りがあります。そこで、効果的な方法をふたつご紹介しましょう。

 

 ひとつは、行動の良し悪しについて、はっきりと伝えることです。いくら気を引きたいからといっても、人に迷惑をかけるような行動をとることを認めてはいけません。例に示したように、教科書などの文房具を大事にしないことは問題です。ダメなことはダメだと伝えることに、勇気をもちましょう。子どもは、悪いことをしたと自覚しています。それを甘やかすことは、本人のためにならないばかりか、他の子どもたちとの信頼関係を危うくします。

 その一方で、好ましい行動をしたときには、思い切りほめるようにしましょう。悪いことをしたら叱られる、いいことをしたらほめるという、当たり前の対応を貫き通すことが大事なのです。

 

 もうひとつは、一日に一度でいいから、子どもに声をかけることです。しかし、そうはいってもできないこともあります。特に40人近い子どもたちのクラスでは、言葉をかけ忘れてしまう子どもたちもいるものです。

 そこで、私は、「この授業では、一人一回は発言しようね」と言って、はっぱをかけることがあります。例えば、発表会などで感想を言うようなときには、全員が発言するように促します。そうすれば必然的に、全員に声をかけることができます。発言したときには、「いい意見ですね」とか、「よく気が付きましたね」と、きちんとほめるようにします。

 また、宿題には必ず目を通し、かわいらしいハンコを押したり、簡単なコメントを入れたりします。時間をとられる作業なので、要領よくやらなければなりませんが、「すばらしいです」とか、「がんばったね」といった簡単なコメントを通して、子どもたちとの会話が成り立つことを忘れないでください。 子どもたちは、そんな小さな反応であっても、担任が自分を認めてくれることに敏感です。宿題のノートが返されると、どんなコメントが入っているのだろうと確認します。

 時間のあるときには、丁寧なコメントを返すとさらにいいでしょう。でも、教師が忙しい中で、苦痛に満ちた気分でいるときにコメントを返す必要はありません。ネガティブな気持ちはコメントに表れます。無理なく、楽しんでこそ、子どもたちに愛情が伝わっていくのです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop