ボクサー坂本選手と児童養護施設訪問(後編)
【写真左:左フックを打ち込む坂本選手 右:子どもと交流する若松選手】
プロの選手相手に、思い切り打ち込んでみろ!
(前編より続き)
坂本選手と現役の若松選手、そして私たち教員4名の計6名が、施設の子どもたちのパンチをミットで受け止めます。ミットは4組なので、教員4名は2人ずつローテーションしながらです。そして子どもたちが一巡、二巡すると
「よし、今度はここにいるプロの若松選手に思い切り打ち込んでこい。ミットでなく、体、顔に当ててみろ!」
と言いました。まず一人出てきました。
最初はおずおずと打ち込んでいたのですが、
「大丈夫、プロだから当たらないよ! 本気でいけ!」
の声に、一心不乱に若松選手を追い続けます。しかし、さすが若松選手。まだデビュー2戦2KOというキャリアですが、ダッキングやウェービングで高校生男子のパンチを難なくかわし続けます。そのうち高校生がバランスを崩して、転んでしまう場面にはみんな大笑いです。施設の子どもたち、そして職員の方々も一体になって応援するのですがパンチは当たりません。体育館は大変な盛り上がりです。養護施設であることを忘れてしまいそう。
一人挑戦者が出てくると、あとは次から次へ。小学生も、女の子も・・・。そしてプロの見事な技にみんな瞳が輝きます。
魂の左フック10発
いよいよ、ボクシングセッションは佳境に。
「俺は、現役時代47戦して、39勝し、29KOした。その29KO勝ちのほとんどが、この左フックだ。今日はみんなのために、この左フックを10発、魂をこめてうつ。よく見てくれ。」
汗まみれの若松選手が今度はパンチングミットをはめ直す。坂本選手が子どもたちの方をちらっと見る。そして・・・
1・・・(バシッ) 2・・・(バシッ) 3・・・(バシッ)、、、。
さっきまで沸きに沸いていた会場がシーンなり、左フックのものすごい音だけが響き渡る。あの優しかった目は、獲物をとらえるものとなっている。
8・・・(バシッ) 9・・・(バシッ) 10・・・(バシッ)。
がんばれ若松選手! そして子どもたち
さて、この原稿も結びとなります。
再三登場した若松選手ですが、彼は実は坂本選手と同様、児童養護施設出身なのです。物心つくころから16才まで鹿児島の施設で過ごし、その後、坂本選手を頼って上京したそうです。今20才。前述したように3戦3KO勝ち。ウェイトも坂本選手と同じライト級です。
これから、新人王を目指す闘いが待っているそうです。応援したいものです。
そして、函館の児童施設(今回は午前と午後2箇所訪問しました)の子どもたち。様々な背景をかかえている彼らですが、坂本選手からの熱いメッセージを受け止めて、これから「前へ」進んでほしいと思います。そんな彼らを温かく包み込める社会を作るのは、私たち大人の責任といえるかも知れません。
終わりになりますが、坂本博之選手はSRSボクシングジムを主宰しながら、「僕は運命を信じない」と題して、全国で講演活動も行なっています。この講演ですが、涙なしでは聞けない感動的な内容(ボクシングの話ではない)です。全国の教育関係の方々に推薦させて頂きます。
また「心の青空基金」も設立し、児童養護施設の援助活動も行なっています。くわしいことは坂本選手のホームページなどに詳しいので、そちらもどうぞ。
学校という職場に身を置くものとして、もっと早くこういう体験が必要だったなと思いつつ、たくさんの方々にもお知らせしたく筆をとった次第です。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

久慈 学(くじ まなぶ)
厚沢部町立厚沢部小学校 教頭
北海道で小学校教員、今年は教頭職三年目。ニューデリー日本人学校での経験を生かし、片田舎から世界を、世界から片田舎を見つめつつ発信したいと思います。
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