2012.11.29
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楽(たの)きびしく鍛える!

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

 りかちゃんルーム(理科室)での理科の授業は、見た目の環境はもちろん、授業の雰囲気も楽しくなるようにしています。つまり、教科書にはない話題や実験・観察を盛り込みながら、授業づくりをしています。もちろん、教えるべきは教え、身に付けるべきは身に付けさせたいと考えています。
 ところが、少し前に次のようなことがありました。

 5年生の理科では、「流れる水のはたらき」という単元があります。学習指導要領によると、「地面を流れる水や川の様子を観察し、流れる水の速さや量による働きの違いを調べ、流れる水の働きと土地の変化について考えをもつことができるようにする。」というねらいがあります。
 そこで、次のような単元の構想を立てました。

第1次 「校庭にあるなぞのすじを探ろう」
 校庭のあちこちにあるあやしいすじ(雨水の流れたあと)を観察・スケッチし、そのできた理由を考える。
第2次 「なぞを再現しよう」
 第1次で考えた理由が合っているかどうか、実際に水を流したり、土で埋め戻してから 水を流したりして確認する。
第3次 「神流川を探検しよう」
 いつでも水が流れている本物の川でも、校庭のすじ(水が流れたあと)と同じようなこと(カーブの外側は流れが速く、崖になっていて、カーブの内側は流れが遅く、河原になっている)が見られるかを観察する。同時に、河原の石の様子なども観察する。
第4次 「土地の変化を見てみよう」
 校庭に作った実験的な川で、再度、水の流れの速さと崖・河原のできる様子を観察するとともに、大水が出た(流量を増やした)時、どのようなことが起こるかも観察する。また、災害対策についても学習する。

 第3次の学習の時です。川の観察に行った後のまとめの学習です。授業の始めに、
「前の時間は、川に行きましたが、その時の目的は何だったか、言える人は立ってください。」
と言いました。当然、全員が立つものと思っていました。第2次までに実験したことが、「本当の川でも見られるか」と何度も言っていましたし、ノートにも書いてあるからです。
 ところが、立ったのは8人だけでした(24人中)。
「川に行った目的を、一言でいいのです。言える人は立ってください。」
と繰り返しましたが、増えませんでした。そこで、
「目的がなく、あるいは目的を持てずに授業しても意味がありません。今、座っている人は、この後の授業は教室の後ろで見学していてください。」
と言いました。目的が言えなかった子は、いすを持って後ろに移動し、その日の授業(本当の川で見られたことを発表し、実験と比べる)を見学してもらうことにしました。
 目的が言えると立った子は、決してテストの成績のよい子ばかりではありません。理科が好きな子、何でも発言できる子が多いのは事実です。しかし、先ほどの問いの答えは、ノートに書いてあるとおり「本当の川でも見られるか」というシルプルなものです。つまり、誰でも答えられるものなのです。ただし、答える気(やる気)があればですが。

 その日の授業が終わって、教室の後ろで見学をしていた子どもたちはどうしたでしょうか。
 さすがに、授業中にはアクションが起こせませんでしたが、次々にやってきて、
「今度から、目的を持って、それを言えるようにして授業をします。」
「自分から発言したり、意見を言ったりします。」
「今日、前にいた子たちのように、書いたり発表したりします。」
ということを言ってきました。

 もちろん、授業は目的をもって、何を何のためにするのかを理解して臨まなくてはなりません。(つまり、表のねらいです。)
 同時に、「自分から行動する」「みんなの前で発表できる(発表しようとする)」力を身に付けさせたいと考えています。(つまり、裏のねらいです。)

 子どもと子どもたちを育てるためには、表のねらいと裏のねらいをもつことが重要で、それが「楽(たの)きびしく鍛える」教育の根幹をなしています。

 5年生の子どもたちは、その次の単元「ふりこのきまり」では、一人ひとりでふりこを振りながら、様々な気付きを発表し、進んできまりを見つける学習をしていました。研究授業として参観した指導主事は、子どもたちの気付きと活動ぶりに感心していました。子どもたちの名誉のために付記しておきます。
 今後とも、楽きびしく鍛えて、自ら伸びる子どもと子どもたちを育てていきたいと考えています。 

大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

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