2012.10.24
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

小さな命だけど

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

 わが家にはペットがいます。金魚とウーパールーパー、そしてハムスターです。金魚は息子、ウーパールーパーは娘が、ハムスターはそれぞれ1匹ずつ世話をしています。
 ハムスターは、7年ほど前に知り合いからもらったのがきっかけでした。小さいハムスターのジャンガリアンハムスターは、世代交代が早いので、2年ほどで死んでしまいます。子どもたちは2回ずつ飼うと、小型のジャンガリアンハムスターより長生きする大型のゴールデンハムスターを飼うことにしました。
 その時、息子は小学校6年生でした。3年ほど生きると言われていますので、中学生になって勉強や部活が忙しくなる中で、世話ができるかを問いました。息子は、少し考えていましたが、これまでの経験もあり、難しいことはないと考え、飼うことにしました。ゴールデンハムスターは、もらうことができなかったので、近くのホームセンターのペットコーナーで買うことにしました。3年前の11月のことです。
 親離れをして間もないかわいいゴールデンハムスターがいました。かわいいのですが、2000円近い値段です。その片隅で、ハロウィンセールという札とともに1000円と書かれたゲージがありました。そこには、生まれて3ケ月ほどたった、ちょっと大きめのゴールデンハムスターがいました。特徴である顔の茶色の模様が愛きょうがありますが、ちょっと変にも思えます。おまけに何か動きが鈍いので、売れ残った理由が分かるようにも思えました。
 息子はかわいいが高い値段のものにするか、鈍くさいが安い値段の方にするか、しばらく悩んでいました。結局、安い方を買うことにしました。買った理由は、もちろん値段もありますが、茶色い模様がかわいく見え、売れ残りがかわいそうだったからだそうです。

 息子が買うハムスターは、娘のより長生きしました。それは、面倒見がいいのです。えさやりや水代えはもちろんですが、よく遊んであげていました。また、かまれても優しく声をかけてやっていました。そして、2年で死んでしまうのがかわいそうに思い、長生きと言われるゴールデンハムスターを飼うことにしたのです。

 その売れ残りのゴールデンハムスターは、顔の茶色から「こげ」という名前が付けられました。お店で店番をしていたせいか、なかなか懐きません。それでも、息子はよく声をかけて、ゲージに遊び道具を作って入れてやるなどしていました。
 11月下旬に買ったので、まもなく寒くなります。毛布をかけたり、暖房を考えたりしていました。暖房といっても使い捨てカイロを使うものです。小学校6年の子どもにとって、お小遣いで一冬分のカイロを買うのは大変だったかもしれません。それでも、文句を言わずにやっていました。大型のハムスターですので、ヒマワリの種などのえさ代も以前よりかかります。
 夏になると、蓄冷材をゲージの上や下に入れて、朝・昼・夜とひっきりなしに取りかえていました。この時期、わが家の冷凍庫は、ハムスター用の蓄冷材でいっぱいでした。

 こうして3年が終わろうとするこの夏。いよいよ動きが鈍くなってきました。8月の猛暑のころです。まず、歩くのが遅くなりました。次に、ゲージの2階に上がれなくなりました。そして、えさを食べる量が激減してきたのです。暑さのためも考えられるので、蓄冷材の交換を頻繁にしました。
 9月になりましたが、猛暑は続いています。ほとんど動けない状態となりました。目も見えていないようです。息子は、ハムスターフードをペースト状にしてやり、口に持っていってやっています。給水器まで歩けないので、口元へたらすようにしています。食事を与えるのに何十分もかかるようになりました。
 そして、9月23日の夜、呼吸が不規則になりました。そのうち、大きなあくびを一つしました。娘は
「眠くなったのかな?」
と言いました。息子は、今夜が山場だと悟ったのでしょうか。まくら元にハムスターのゲージを持っていきました。
 翌朝、そのハムスターは2度と動かなくなっていました。秋晴れのお彼岸の最中に、ねはんの世界へと旅だっていったのでした。このハムスターは、日本一、幸せだったのかもしれません。だから、お彼岸までがんばれたのではないでしょうか。
 息子は、そのハムスターを3日間、まくら元に置いておきました。そして、ようやく決心がついたのでしょうか。家族全員の立ち会いを求めて、4日目の朝に自宅の庭に埋葬することにしました。悲しみをこらえ、穴を掘っていました。しかし、亡きがらをなかなか穴に入れられません。さらに、土をかけて埋める決心まで、時間がかかりました。

 息子は、この小さな生き物から「生きることの大切さ」を十分、学んだのではないでしょうか。小さな命ですが、学んだことはとてつもなく大きいものだと思っています。きっと、自分も周りも大切にすることができるようになってくれるものと思っています。
 これから受験や社会に出てからの幾多の試練にも、がんばれる子になってくれることを期待しています。

大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

同じテーマの執筆者
  • 安居 長敏

    滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長

  • 樋口 万太郎

    京都教育大学付属桃山小学校

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 深見 智一

    北海道公立小学校 教諭

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop