2012.09.09
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いじめの原因と解決に向けての一考察

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 いじめに関する深刻な報道が続いており、問題の解決が急がれています。しかしながら、これといった明確な解決方法は見いだされていないように感じます。

 そこで、小学校の教師の経験から考えていることをお伝えすることによって、解決に向けての一助としていただきたいと考えました。

 ここにまとめたことは、いじめ問題のごく一部分の解決方法でしかありません。しかしこれを機に、みなさんにもこの問題に向き合っていただき、子どもたちが抱えている辛さや悲しさを解消したり、命を守ったりすることにつなげていっていただければ幸いです。

 

【いじめの原因として考えられること】

(1)不安や緊張感が高い子どもたち

 子どもたちの不安や緊張感が高くなると、前向きな考え方ができにくくなり、ネガティブな考え方や行動が目立つようになります。そういったことを続けることによって、ますます自信を失っていきます。その結果、自分を優位に立たせるために、友達を引きずりおろすことで自分を高めようとする衝動が生まれます。努力によって自分を向上させ、自信を取り戻そうとすることを避けて、相手を中傷する安易な手段を選ぶのです。標的を見つけていじめを行い、自分が相手より優位であるという錯覚に浸たることによって、自信のない自分をごまかそうとするのです。

 このようないじめの構図を、意識的に行っている場合もあると思いますが、無意識のうちにそのようになってしまっていることもあります。いじめだと自覚して行っている場合だけではなく、思ってもいない言動が、結果としていじめになっていることもあるのです。

 

(2)相手の気持ちをイメージできない未熟さ

 体験や経験から学ぶ機会が減り、知識の詰め込みによる学びが主流になってくると、感情を発達させる機会も減ってきます。知識を暗記したり、練習問題を繰り返し解いたりする学習では、人とかかわることや、自分の思いや感情を表現することは必要ありません。そのような個人の学習にとどまっていると、友達とのかかわり方が未熟になったり、感情の発達が年齢に対して不相応となったりすることにつながっていきます。

 自分自身の感情や思いが未発達であれば、相手の気持ちを思いやるということも難しくなります。相手の感情に対するイメージがもちにくくなるからです。

 また、自らの体験が少ないと、達成感などのポジティブな感情の経験も少なくなります。ポジティブな感情をもって生活することの心地よさを体験できずに育つと、ネガティブでいることが日常的になり、感覚が麻痺してしまうことも考えられます。

 

【解決の糸口】

(1)子ども一人一人の不安を取り除くための、意図的な教育の構築

 感情の発達が未熟であるとか、感情の分化が進んでいない、感情を言語化できていないといった問題を解決するためには、学校全体で意図的な教育を行っていくことが重要です。その方法について、いくつかご紹介します。

 ひとつには、体験活動を多く取り入れ、それによってより細やかな感情を体験させることです。達成感や充実感、友達と協力することの大切さなどを味わうことはもちろんですが、自分がやろうとしてもうまくいかないもどかしさ、苦労してやりとげた喜び、友達の何気ない一言に救われた嬉しさなどを、体験を通して培うように仕向けていくことが大事だと考えます。

 そして、体験を通して味わった感情を、言葉で表現させていきます。方法はいろいろありますが、振り返りカードや日記などに書かせる方法が最も簡単です。そして、その書いたものを発表させる機会を作ります。友達がどのように感じ、それをどのような言葉で表現したかを聞くことによって、共通した体験から得た感情が、共通語となって表現されるようになります。また、感情をどのように言葉で表すべきかについての、貴重な学びの場となるのです。友達の表現に対して、尊重する気持ちを育てることも期待できます。

 もうひとつは、ソーシャルスキルを向上させるような指導の場面を数多く設けることです。ソーシャルスキルトレーニングの方法を取り入れた授業を行うこともできますし、教科の授業の中での話し合いや発表の場を活用することもできるでしょう。また、友達とのトラブルを解決する機会をとらえて、個別的な指導をしていくことも可能です。学校生活の中に、自分の思いを適切に表現できるように学ぶ機会を、たくさん設定していくことが大切なのです。

 さらに、人とかかわることが楽しいと思うような活動を取り入れていくことも重要です。昨今、授業時数の確保が重要視され、行事が削減されている傾向にあります。もちろん、学力の向上に力を注ぐことも大切ですが、さまざまな行事を通して、人とのかかわりを学ぶことを軽視すべきではありません。運動会や学習発表会などでは、多くの時間にわたって、たくさんの友達とかかわるチャンスに恵まれます。そこで味わうことのできる感情を、大事にしてやりたいと思います。

 

(2)大人の潜在的意識と表現の変革

 子どもたちの周囲にいる大人が、差別の意識をもっていたり、言葉や身体を使っての暴力によって子どもとかかわっていたりすることを、やめなければいけません。子どもは、大人の何気ない仕草やつぶやきからも価値観を感じ取ります。皮肉を言う大人の傍で育つと、上げ足を取るような発言をする子どもに育ってしまうことがあります。暴力が当たり前の家庭で育てば、暴力で人を動かすことに慣れてしまうこともあるのです。

 それは、家庭に限ったことではありません。教師も、常に自分自身を振り返り、差別的な意識や態度、言葉での表現になっていないかどうかをチェックするべきです。表面をつくろっていても、内面の思いが子どもに伝わってしまうこともあるからです。

 子どもたちの周囲にいる大人は、常にポジティブな表現を心がけるようにしなければなりません。禁止の表現や、行動をせかすような表現を慎み、愛情をもって子どもたちに接していってほしいと思います。大人が周囲に対して感謝したり、自分が間違ったときには謝罪したりする姿勢を見せ、子どもを一人の人間として尊重し、丁寧に対応していくことが肝要です。

 

(3)教師によるいじめの早期発見と適切な対応

 長い教師生活を続けていると、いじめる子どもにも、いじめられる子どもにも原因があるのではないかと感じます。

いじめる子どもたちは、いじめという形でしか、自分を満足させられないという不安定さをもっています。それを解消しない限り、いじめは水面下に入ってしまい、さらに深刻になっていきます。いじめている子どもたちに対して、教師は積極的にかかわり、子どもたちの良さを伸ばし、自信をもたせていく努力が必要です。

いじめられている子どもたちに対しては、より丁寧な対応をしていく必要があります。子どもたちの内面に耳を傾け、信頼関係を築くことによって、子どもの心に寄り添っていくようにします。

そして、なぜいじめられているのかを分析し、原因がわかれば取り除く努力をしなければなりません。教師だけで対応が難しいときには、家庭にも協力を求めます。また、クラスの担任が一人で対応しきれないときには、学校の組織を生かして、複数の教師で対応をしていきます。専門家の力を借りることも必要です。学校にかかわる大人が、共通理解を図り、力を合わせて対応していくことが最も大切です。

 

 子どもたちに対して、教師が粘り強い対応をすることができるならば、いじめは少しずつ解消されていくと考えます。時間がかかることがあっても、最悪の結果を避けることができると信じます。子どもたちは、大人の愛情を感じ取り、次第に安定した気持ちで行動できるようになっていくのです。

 いじめても、いじめられても、子どもの心には深い傷を残します。多くのみなさんと思いをひとつにして、今後もよりよい解決法を見いだすことができるように、努めていきたいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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