2012.02.23
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特別支援教育に関する国の動向

北海道札幌養護学校 教諭 青木 一真

  先日は、家族に誕生日のお祝いをしてもらいました。40を過ぎると、年齢は増えようが減ろうがどうでも良いような気分だったのですが、息子達にとってはケーキを食べられるイベントですし、手作りのメッセージカードのプレゼントも大変嬉しいものでした。5年前からもらっているメッセージカードですが5年というのもあっという間です。子どもたちの成長も感じさせてもらい、良い休日となりました。
 さて、誕生祝いの前日に研修会がありました。文部科学省の特別支援教育調査官をされている講師の先生から「特別支援教育の現状と展望」というお話しを聞いてきましたので、今回はその中で話題となった事の要点をお伝えできればと思います。

 平成19年度から本格的に始まった特別支援教育ですが、今年で丁度5年目を迎えます。
 5年の内に進んだ部分もかなりあるようで、データを下に説明をいただきました。細かなデータは文部科学省のHP内:特別支援教育 > 資料(データ、通知、答申、報告書等)等で確認して頂くと良いかと思います。
 特別支援教育コーディネーターの配置等の体制整備については数字として着実に伸びを見せています。このことに関しては、個人的には数字と実際のズレのような物を感じていたのですが、年々形としての整備が進んでいることは間違いないことと思います。
 財政上の数字としては、特別支援教育対応の教職員加配定数の増加(H23年度で4,741名。H24年度概算要求でさらに600人増の定数改善を計上しているようです)、特別支援教育支援員の地方財政措置(H19年度で事業費約250億円のところH23年度で約443億円)、といった予算増加も数字としてはっきりと伸びが見られます。
 平成24年度特別支援教育関係予算は予算額(案)として約2億円増の約81億円になっています。そのうちの約78億円が「特別支援教育就学奨励費」に関する予算です。この「就学奨励費」ですが特別支援学校や小中の特別支援学級に就学する子どもたちのために教育の機会均等の確保の為に使われる予算です。具体的には給食費や学用品費、通学にかかる交通費、修学旅行費などが、かかった分だけ後から保護者に支払われるという、就学免除の時代から養護学校義務化となった30年程前からの制度です。これは、予算増=児童生徒数の増を表しています。
 義務教育段階の全児童生徒数は1063万人で前年度から11万人減ですが、特別支援学校・特別支援学級・通常の学級に在籍しつつ通級による指導を受ける児童生徒数は約27万人と前年度より約2万人増と年々右肩上がりの伸びを見せています。本校においても児童生徒数増加により、休み時間の子どもたちでごった返したプレイルームの状況や教室数が足りなくなる心配があったりなど体感的に理解できるところです。
 平成14年度の文部科学省が行った調査で「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」で6.3%程度がいわゆる発達障害を持つ可能性があると言われてきました。10年経った今年度にこの数字に関しても改めて調査が行われ、秋には報告が出るそうです。特別支援教育に関する認識が高まった今回の調査で数字がどれだけ変わるのか変わらないのか興味のあるところではあります。
  平成24年度特別支援教育関係予算の中で新規事業として計上された新たな事業もあるそうです。「早期からの教育相談・支援体制構築事業」というもので16都道府県にモデル地区を設定し行われる物です。各市町村が主体となり「早期支援コーディネーター(仮称)」を置きます。早期支援コーディネーターは教育・保育・福祉・保健・医療といった地域での連携の推進役として相談支援体制構築のための取りまとめや連絡・調整、情報収集にあたります。イメージとしては乳幼児検診との連携や幼稚園、保育所の教職員への理解啓発から就学指導委員会との連携の下にスムーズな就学への移行をはかるといったところでしょうか。早期からの支援体制は地域によっては市町村の保健師さんの活躍に頼る所もありますので、今回のお話しの中で一番注目した所でした。
 インクルーシブ教育に向けた動きの説明もありました。障がいのある子どもとない子どもが共に教育を受けるという障害者権利条約の批准に向けて中教審の分科会「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において検討が進められており、例えば条文の中にある「合理的配慮」についての定義づけも進められました。細かいところは文科省HPの「特別支援教育」関連の審議会情報等で確認して頂ければと思いますが、インクルーシブ教育は理念は目指しつつも現実に即して推進していくことになるようです。予算の関係もあるでしょうし、急激な推進は体制の整備が追いつかず現場や保護者・本人に対しても混乱を生む事になるというようなスタンスのようです。
  今後の特別支援教育の更なる充実のためには以下の3点を挙げられていました。
 ・物理的障壁、制度的障壁、情報の障壁、心の障壁
 ・教職員の専門性の向上
 ・早期からの一貫した支援のためのシステム作り
 一点目の各障壁に関しては特に心の障壁を減らしていくことの大切さと難しさを挙げられていました。特別支援教育が始まり、通常の学級で使用される国語などの教科書に障がい理解に関する題材も扱われるようになりました。交流および共同学習の推進と合わせて理解が進むことで心の障壁の前に挙げられた三つの障壁もより無くす方向へ社会は動いていくことになるでしょう。しかし、実際に理解を進めるための教育を行う私達の専門性の向上も必要になるところです。
 
  以上、今回は研修内容の報告のような形になりました。国の動きに関して「充分」と感じる方や「足りない」と感じる方、様々だと思います。僕自身は一人の現場の人間です。まずは、できるところから子ども達のより良い学びのためにコツコツやっていくいしかありません。ただ、実際にシステム上必要と感じるところもあり、より諸条件の整備が進んで欲しいと願っています。もちろん器があっても実際の動きが伴わなければいけないことは、言うまでもありませんが。

青木 一真(あおき かずま)

北海道札幌養護学校 教諭
前任校では特別支援教育コーディネーターを3年間務めさせていただきました。昨年度、異動と共に久しぶりの学級担任に戻り右往左往。良い教育を迷いつつ模索する日々です。

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