2012.02.20
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「僕のお父さんは東電の社員です」を読んで考えたこと

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 2月8日、本校では学校公開と、道徳授業地区公開講座が行われました。午前中は普段通りの授業を参観していただき、5校時には全クラスが道徳の授業を公開しました。そして放課後には、保護者や地域のみなさんと、「思いやり」をテーマに話し合いをもちました。

 さて、6年生は、道徳の授業の資料として、「僕のお父さんは東電の社員です」を取り上げました。これは、毎日小学生新聞紙上で、東京電力福島第一原子力発電所の事故について討論された内容を、本にまとめたものです。

 昨年の地震直後、3月27日付に掲載された北村龍行さんの記事に対し、東電に勤める父親をもつ小学6年生の少年が、手紙を書いたことがきっかけとなりました。北村さんが、地震直後、原発事故が危機的な状況にある中で、東京電力に原子力発電や電気の供給を任せていたことが、本当はとても危険だったのかもしれないと表現したことに、その少年は、「無責任だ」と思いを寄せました。事故の事実は受け止めるものの、原発を造らせたのは世界中の人々の責任ではないのかと振り返り、これからのことをみんなで話し合っていこうと提言しました。

 私が担任する6年生は、昨年5年生のときに、体育館で地震を経験しました。天井の電灯が、子どもたちをめがけて落ちてくるのではないかという恐怖感を味わいました。それからの情報が不十分だったために、下校指導や、余震に対する学校の体制に、大きな反省を残すことになりました。

 翌週からは、計画停電が始まり、学校でも節電が行われました。今も、教室の電灯は半分しか点けていません。それも、授業中の必要な時間帯だけで、給食中などは薄暗い教室で過ごすこともあります。

 あの震災から、もうすぐ一年が経とうとしています。この春には、国内にある原発がすべて止まる可能性があり、電力不足への不安が広がってくるのではないかという見方があります。その中で、改めて節電について考え、自分たちができることを続けていこうとする気持ちを育成するために、授業を組み立てました。

 

 子どもたちの感想から、一部をご紹介します。

「私もみんなも、地震を体験しました。揺れがすごくて、頭が真っ白になりました。どこにも頭を隠す場所がなかったのです。なぜかというと、卒業式の練習中で体育館にいたからです。それも合奏のまっ最中でした。かくれる場所もなかったので、大太鼓の下に入りました。譜面台の下にかくれた友達もいました。床がくねくねとゆれていたので、よいそうになりました。

 でも、東北の人たちは強い地震に加えて津波もあり、東京の何倍もこわかったと思います。

 私は、自分と同じ世代の友達といっしょに、これからの日本を変えたいと思っています」

 

「3月11日の東日本大震災で起きた、福島第一原子力発電所の事故のニュースを見て、私は正直何が起こったのかわかりませんでした。でも、とても大変なことが起こったということは感じました。

 この事故を、誰かのせいだということは無意味だと思います。この事故の原因は、地震と津波なのです。自然は誰かがコントロールすることはできません。

 この事故をきっかけに、原子力発電所を見直したり、節電することによって生活を見直したりすることに、意味があると思います」

 

「北村さんは、東電が鉄道会社のようにお客さんの命を預かっているわけでもないと表現していますが、それは間違いだと思います。信号機や街灯によって事故を防いでいますし、病気の人やけがをした人は、電気を使った治療器具のお世話になっています。だから、電気がなくなったら、命にかかわるのです」

 

「原子力発電所を造るべきではなかったという人は、電気のありがたみがわかっていないと思いました。暗い生活を送らずにすむのは、電気があったからなのです。電気があって当たり前ではないことを、みんなにわかってほしいと思います」

 

 卒業を間近にした子どもたちが刺激を受け、自分自身の考えをもつことができました。このような機会を与えていただきましたこの本に、感謝申し上げます。ありがとうございました。

 これから、復興への道のりは長く続くと思います。子どもたちが、自分のできることを確実に実行し、意識を高くもって、成長していってくれることを願っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop